第131話 復唱

「旦那。よかったらヒール以外の魔法も教えて欲しいんだけど・・・」


「え?ヒール以外・・・?」


ダンジョン8層について少し狩りをしたくらいのタイミングで、ウィドーさんが質問してきた。


そういや僧侶の魔法ってヒールの他になんかあんのかな?いや、あるんだろうな・・・。

自分で探す楽しみ・・・とか言っといて、今まで魔法使いの魔法をちょっとだけ魔法の検証しただけで、それ以降は何もせずサポシスさんからの情報提供も受けないという自堕落な俺なのだが、ここまで結構濃密な時間を過ごしているから、そんな暇は・・・まぁあるにはあったが・・・許してほしい。


ここに至るまで特に困らなかったという言い訳はあるが、困ってから慌てるのはたしかに色々と後悔しそうだよな・・・。


「現在、ウィドーが使用可能な僧侶の魔法はヒールの他に、キュアポイズン、キュアパラライズ、ピュリフィケーション、コンサルテーション、スリープ、サナトリウム、アンティボディ、ミストヒールがあります」


・・・。


え?


「現在、ウィドーが使用可能な・・・」


いや、ごめん。そうじゃなくってさ。

キュアパラライズまではわかったんだけど、ぴゅり・・・なんちゃらをなんだろうと思っているうちによくわからない単語が連続したから全然覚えられんかった。ごめん。


「・・・必要なときにまた適宜お教えします」


ありがとうございます。ほんと。そんな気遣いまでしていただいて恐縮です。

っていうか、現在使用可能な・・・ってことは、もしかして魔法はレベルを上げて新しいものを覚えるっていう・・・よくある普通の一般的システムに準拠しているってことでいいんでしょうか?


「はい、レベルが上がると使える魔法が増えます」


あれ・・・俺が前に魔法の検証をしたときは決まった魔法は無くてある程度術者の発想で変えられると・・・。


「はい、魔法使いの属性魔法は魔法名の後に形状を指定することで、その形を変化させることが出来ます」


あー・・・そういう・・・ね。

つまり俺の検証は半分くらいは合ってた・・・のか?

まぁこんなことは最初からサポシスさんに頼っとけよって話ではあるんだが、あの時の俺は異世界に来たばっかりで、色々なことを自分で試すことが楽しかったんだよ。そのせいでスネシスさんを生み出してしまったりもしたんだけど・・・。


あの、ちなみに俺が今使える魔法って・・・。


「現在、マスターが使用可能な魔法使いの魔法は・・・・・・・・・・・・」


俺はさっきウィドーさんが使える魔法を聞いた時より何倍も多い単語を聞くことになったが、今回は僧侶のそれとは違ってどれもゲームで聞いたことのあるようなものばかりだったので、分からないということは無かったのだが、そもそも数多すぎてやはり全部は覚えきれなかった。サポシスさんには悪いけど、また同じ質問をすることになりそうだ。


だが、いくつか印象的な名前が飛び出して、聞いた瞬間にワクワクしたからそれらははっきり覚えてる。今度使って見よーっと。


「旦那?」


質問の回答をじっと待っていたウィドーさんだったが、しばらく黙っていた俺が急にニヤニヤしだしたのを見て、たまらず声をかけてきた。


「あぁ、ごめんごめん。ちょっとサポシスさんと話してた」


「さ、さぽ・・・?」


「えっと、ヒール以外の魔法だったよね?」


俺が不思議に思っているウィドーさんをさらっとスルーして質問の回答を進めようとすると、彼女は意味不明の単語への好奇心より、自分の可能性への探究心が勝ち、答えを求める為にコクリと頷いた。


「結構いっぱいあるからゆっくり言うよ?」


ゆっくり言うので、サポシスさん援護をお願いします。


「まずはキュアポイズン、キュアパラライズ、ぴゅふり、ぴゅ、ぴゅりふゅ、ん゛ん・・・ピュリフィケーション、コンサルテーション、スリープ、サナトリウム、アンティボディ、ミストヒール、以上となります」


しまった。ずっとシスの援護を復唱してたらそのままの勢いで最後の部分までそのまま繰り返してもーた。ま、別に意味としては伝わるから別にいいけど。あと、ピュリフィケーション。てめーなんだその言いにくい文字の連続は。何回も噛んで恥ずかしかったじゃねーか!


「キュアポイズン・・・キュアパラライズ・・・」


俺がピュリフィケーションにムカついている横で、ウィドーさんはしばらくさっき俺が矢継ぎ早に言った魔法名をブツブツと呟いていた。どうやら暗記しようと頑張っているようだな。

俺なんてシスがいるというのもあって、はなから記憶に留めようとすらしなかったのに・・・。偉いなぁ。


魔法名の呟きが続き、それが三周程したかなってくらいになると、


「え・・・っと、その魔法の効果も教えてもらってもいいかい?」


教えてもらってもいいかい?

俺は質問を右から左に受け流した。


「まずはキュアポイズンから・・・・・・」


俺は頭の中で説明してくれる言葉をほぼそのまま復唱することで、ウィドーさんに魔法の効果を説明していった。


キュアポイズンとかパラライズなんかは流石に聞いたことあったし、俺の想像した通りの効果だったが、あの嚙み誘発語群が浄化魔法であったり、コンサルテーションが状態診察、サナトリウムが疲労回復でアンティボディが抗体促進、何気にどういうものか分からなかったミストヒールは、触れている者を回復する霧を出す魔法らしい。


効果を説明する度にフムフムと頷きながら一生懸命理解と記憶に努めているウィドーさんと一緒に、説明している俺自身もなるほどなぁーって思っていた。

だってサナトリウムだのコンサルテーションとか多分英語なんだろうなーってことしか分からなかったからな。ってか何で英語なんだ?この世界はほぼ日本語オンリーなのに。


「魔法・・・いいですねぇ」


俺がウィドーさんに説明しているのを横で聞いていたミーナが小声でボソッと口から羨ましさが漏れた。


「そうですか?私は詠唱している時間があれば斬りかかった方が速いと思います」


オリヴィエの場合はそうだろうな。


「私も同意だ」


キミも脳筋側なのか、アンジュ。だと思ってたけど。


「ミーナは魔法使い似合いそうだよな。今度なってみる?」


俺の中ですっかり知識キャラになっているミーナはINT系の職業が似合うよね。正直言えばウィドーさんが魔法使いでミーナは僧侶の方がばっちしイメージ通りなんだけど、僧侶は先にウィドーさんがなっちゃったしね。


別に職業がかぶったって問題ないだろうけど、同一パーティーに職業被りが居ると気持ち悪いのってゲーム脳と言われても文句は言えないかも。でもきっと投票したら過半数は獲得できると思うぞ。バランス構成は基本だからな。


「私も魔法を使えるのですか!?」


うお、これまでにない食いつきっぷり。今日は新しいご飯だよって言った時のオリヴィエみたい。


「い、今すぐとはいかないけど、ミーナなら少し講義を受ければ取得出来るんじゃないかな?そこら辺はやってみないと分からないけどね」


魔法使いの取得条件には戦闘職の他に基本的な知識が必要ってなことは前に教えてもらった。地頭のいいミーナならそういった知識もすんなり吸収してくれるだろうから、案外すんなりと獲得しちゃいそうではある。






明日辺りにサトル先生によるうろ覚え現代基本科学知識講座を開催してあげてもいいかな。至らない所はシスがちゃんと訂正してくれるだろうし、大丈夫だろう。


小六時に理科3だった俺の知識力が火を噴くぜ!

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