第129話 既知
「んで、結局何しに来たの?」
アンジュに怒られたからか、俺の拳が人の心を思い出させたのか、あれから割と大人しくなったから、しょうがなくゴリーラ・・・じゃなかった。何だっけ・・・?えー・・・そうそう、デオードだ・・・を家の中に入れ、テーブルに着席させた。
ウチの家は未だに家具は食卓と料理関係の物が少し、後はベッドとクローゼットがあるだけだから、客間のようなものはあるのだが、そこにはまだ何もなくてガランとしている為、デオードが座っているのは食卓だ。
「・・・我が主がトレイルで起きたスタンピードの報告を受け、その功労者をねぎらいたいとのことで子爵の命を受け、俺直々にここまで来て迎えに来てやったのだ」
そんなに不満そうにするんだったら来なきゃいいのに。
それにお前、騎士団長とか言ってなんかめっちゃ偉そうにしてるけど、鑑定してみたら戦士レベル1じゃねーか。レベルたったの1か・・・ゴミめって言われちゃうぞ。
「いらん。帰れ」
お出口はあちらになりますぅ。
「なっ!?なんだと、貴様!子爵に直接ねぎらっていただけるという栄誉を断るというのか!」
急に立ち上がるから椅子が倒れたぞ。ちゃんと自分で直せよ。
それにそんなに強くテーブルを叩いたりして、もし壊れたら食事を何よりの楽しみにしているうちの可愛い狐さんに噛みつかれるぞ。レベル1のお前じゃ新世紀のロボットみたいな赤い人造人間が劇場版で白いコピーに群がられた時よりももっと酷いことになるぞ。
「ねぎらうなら自分で来い。何故俺が行かねばならんのだ」
お、昔のアニメならヤカンが沸騰したことを知らせるために注ぎ口に付いている笛がその蒸気でピーっと鳴るあの効果音が鳴るんじゃないってくらいに顔真っ赤じゃん。怒ってんの?
「き・・・きっさまぁぁぁーーー!!!」
デオードは激怒し、テーブルを乗り越え俺の方に来ようとしたが、
「うぐっ」
またアンジュに「喉元脅し~動いたら剣ブスリだぞ~」をやられ、その場で動きを止める。
止む無くといった感じで不服そうにしながらも椅子を戻して座るデオード。
「お前等・・・俺にこんなことをして・・・どうなっても知らんぞ」
「とにかく今日はもう帰れ。俺は試着だか癒着だかなんだかよくわからん名前の貴族に行く義理も義務もない。お前みたいな挨拶も出来ないようなやつを送り込んで来るならなおさらだ」
どうせよこすなら美女や美少女にしろってんだ。美熟女でもいい。
「ぐぎぎ・・・」
再び歯を食いしばる力が上がり、こちらに飛び掛かろうとする気概はチラリと見えたが、デオードはチラリと横で冷たい視線を送るアンジュを見て、「チッ」と舌打ちをして立ち上がり、玄関の方へと向かっていった。
「覚えていろ・・・貴族を怒らせるとどうなるか・・・その身に嫌というほど刻み込まれることになるぞ」
「はいはい、記憶には残しておいてやるからさっさと帰った帰った」
おれはテーブルに肘をつき握った拳で頬杖をついたまま、反対の手でしっしっとコバエを払うように手を振った。
デオードは額に青筋を浮かべたが、それ以上は何も言わずに大きな足音を立てながら出ていった。
この家結構ボロい箇所あるんだからそんなことして床抜けても知らんぞ。穴あいたらちゃんと直してけよ。
バタンと扉の閉まる音がした。無事猿人は人の領域から出ていったようだ。
「ふぅ・・・どうやら聞いた話通りの人物のようだな、ここの領主は・・・」
あらかじめ知っていたとはいえ、やはりあんな感じの態度を目の当たりにすると不快極まりないな。まぁそれは向こうもだろうけど。
そう、俺は貴族の使いが来ることもその貴族が漫画テンプレ駄目貴族ということも知っていた。
何処で知ったかというと・・・あれはスタンピードの後、カルロの領主館に行って報酬を貰った後のことだ。
「それじゃオルセンの件よろしくね、俺達はファストに帰るから」
「む、もう帰られるのか?」
戦闘中やギルドに居た時の冒険者然としていた格好とは違い、しっかりとした礼装をしているカルロ。こういう格好を見ると、ほんとに貴族だったんだなって思ってしまった。
だって、普段が全然そんな感じじゃないからな、この人。
「うん、ここもまだ本来の営みが出来ていないようだからな」
「そうですか・・・では一つ、忠告を」
それまでの柔和な表情を消して急に表情を強張らせたカルロ。
「忠告?」
「ええ・・・サトル殿はファストの領主と面識はありますか?」
「いや、無いよ。確かカルロと一緒で男爵なんだっけ?」
以前にオリヴィエからそんなようなことを聞いた記憶が俺の脳の片隅に浮かんできたからそれをそのまま口にした。
「いや、ファストにいる代官はそうだが、領主は子爵になります」
そうだっけ?代官の爵位は聞いてたけど、領主のは聞いてないん・・・だっけか?オリヴィエ子爵って言ってた?
「へー、そうなのか」
領主が男爵だろうが子爵だろうが悪魔男爵だろうがあしゅら男爵だろうが俺の知ったことではない。顔の真ん中で男女が分かれてるやつはちょっと見てみたい気もするけど。
「その子爵なのですが・・・その・・・少しその行動に難がありまして・・・」
「駄目貴族ってこと?」
「いや・・・!いえ・・・はい、その通りで・・・」
最初の一秒だけは義理かなんかで否定しようとしたカルロだったが、どうやら俺の言葉があまりにもピッタリと当てはまってしまったようで、すぐにそれを肯定した。
「なるほど・・・で、そいつがもしかしたら俺にちょっかいかけてくるかも、と?」
よくある展開よなぁ・・・家を受け継いだだけで能力の無い馬鹿な貴族が転生者にちょっかいかけるって話。漫画の中だけじゃなくて、実際ほんとにありそうって思っていたからこそ俺は目立ちたくないって言ってたわけなんだが。
「おそらく、ほぼ確実に・・・」
「・・・わかった。忠告ありがとう」
ということがあったのだ。
カルロのおかげで近く子爵から何らかのアクションが来ると知っていたおかげで突然のゴリラにも特に驚くことなく対応できた。
実は相手が誠実な対応でくればそれなりに対応しようとは思っていたのだが、そうでないならばこちらもそれなりの態度で返してやろうとも思っていた。
貴族に、その使者に対してあんな態度でいいのかって?
それは違うぞ、貴族だからだ。その頭に馬鹿がつくなら尚更な。
もしあんなやつらの言う事に従順な行動をとってみろ。
馬鹿で無能なお馬鹿さんはきっと周りのお馬鹿さん仲間に「使徒を従わせた」などとのたまうぞ。
そんなことになったら次々に蛆のように同じ様なタイプのやつらが群がって来る未来が簡単に想像出来る。
だから俺はお前等なんかに恭順するつもりはない、横暴には横暴で返してやるぞって意志を示しておくことは、俺が今後もこの世界を謳歌するにあたって絶対に必要なことなのだ。
もちろんこの行動には危険が伴う。兵を仕向けられるかもしれないし、俺に敵わないと分かったらオリヴィエ達に矛先が向かうかもしれない。
ちょっと前ならばそんなことにも怯えていたかもしれないが、今の俺達にそれは通用しない。
力はこの世界において権利であり、自由の翼なのだ。
何処へだって行けるし人道に反しなければ何をしたっていい。もちろん何処へも行かずにここにずっと居たっていいんだ。
それを敵意を持って阻もうとする奴がいれば、俺はたとえ皇帝だって許さんぞ。・・・さすがに皇帝に正面から俺達だけで向かってくような馬鹿はしないけどね。
何の因果か待望だった異世界に来れたんだ。
俺はこの世界での人生を思う存分に謳歌する!ほんとだよ!
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