第123話 通り名

「ふむ・・・やはりこいつらもイラーナで登録してファストへ流れて来た元冒険者のようだな」


マーキンさんが部下を一人連れてやってきた。

西門の門番である・・・あの・・・なんだっけウーなんとかってやつ以外にもこの街って兵士居たんだな・・・。

ってそらそうか、いくらファストが小さな街だっつったって村よりは規模的に大きいんだから二人ってことは無いよな。


「しかし、どの遺体にも争った形跡がありませんね・・・。すべて一刀で仕留められています・・・」


「これをやったのは・・・お前・・・でいいんだよな?」


ゴミに向けられた顔を動かさずに視線だけをこちらに向けた為、少し睨まれたような気分になったが、彼にそのような意図はない気がする。


「うん、俺がやった」


彼からは文言だけを聞くと、尋問のような質問を受けたのだが、それは俺を疑うような類のものではなく、遺体・・・じゃなかった、ゴミから読み取れる状況に驚きから発生した純粋な疑問だったのだろう。


マーキンが連れて来たダンという剣士レベル2の男が言っていた通り、俺は抵抗する暇も与えることなく、その場に居た三人・・・みっつの生ゴミを一撃で排除したから彼の見立ては正しいということになる。


「こいつらはサトルの家に押し入ってたまたま居合わせたアタイも襲ってきたんだ。サトルはアタイを助けてくれただけだよ」


「あ、いや・・・状況を見ても昨日の捕縛者達の証言や鑑定結果を鑑みれば彼に非が無いという事は疑いようがないだろう。ただちょっと・・・驚いていただけだ」


まぁマーキンは俺が初心者まるだしの格好でこの街に訪れた時の俺を知っているしな。あの常識に疎い弱そうな若者がこうも簡単に冒険者として活動していた者達の息の根を反撃も受けることなく止めていたのだ。そりゃ驚くだろう。

俺だってあんなに何も躊躇することなく人の命を刈り取れるなんて、びっくりしたもんな。いくらあいつらがゴミよりの人だったとしても、だ。


門番として働く彼はこのゴミ達のこともその実力も大体把握していたような感じがする。きっと街の安全を守るためには魔物など、外側の脅威に警戒するのはもちろんだが、冒険者は戦闘職を持つ者達なのだから、街の内側に内在している潜在的な脅威として大まかな実力を把握しておくのも重要なのだろう。小さなこのファストの街ならばそれも可能だろうし、小さな街だからこそ、把握しておく必要性も増すのかもしれない。街の規模が小さければその規模に見合った兵しか配置できないのは当然だしな。彼らはその少ない人数で起こりうるすべての脅威に対処しなければならないのだ。


「マーキンも大変だな」


色々門番の仕事について考えていたら彼の苦労をねぎらう言葉がこぼれた。


「・・・仕事だからな」


もしかしたら門番とか衛兵の仕事というのは大きな街よりもこういった中規模の中途半端な大きさの街の方が大変なのかもしれないな。実際に働いてみれば違う感想も出てくるかもしれないが、俺は門番をやるつもりは全くないから、それ知ることもないだろう。


「マーキンさん、これを・・・」


遺体を調べていたダンがマーキンを呼び、首なしとなったやつの袖口をめくってそこを見るように誘導した。


「やはりこいつらもか・・・」


あまり興味なかったが、なんとなく俺もマーキンと同じ場所を見てみたら、そこにはCの中に小さい〇が描かれた二重丸になりそこないみたいなマークのタトゥーが彫られていた。


「あれは?」


「彫り物だな」


いや、そんなことはわかってるんだよアンジュ。

俺が聞いているのはその彫り物が意味することなんだけど・・・。


「どっかの団体の印かなんかなのか?それ」


「これはガンダー盗賊団の刻印だ」


盗賊団・・・か。不治の病にならないと入れないような名前だな。

しかしなんでまたそんなのがウチの家に空き巣に入ったりするんだ?


「ほう、あの盗賊団は今こんなところで活動していたのか」


「知っているのか?」


「ああ、ククライツで活動していたやつらを壊滅させたのが私だからな」


わーお、大層な豪胆武勇伝をお持ちで。たしかにアンジュってトレイルで出会った時からレベル11だったもんな。

この世界で11はかなり高いレベルだしね。


「凄いな。一人でか?」


「うむ。言っておくが、ちゃんと正攻法で徐々に・・・だからな。恐らくサトルが思っているような方法ではないぞ」


え、じゃあ「たのもー」とか言って正面から乗り込んで、バッタバッタとちぎっては投げちぎっては投げ・・・とかやるわけないか。アンジュ弓使いだしな。


「ちなみに正攻法とは?」


一応聞いておこうか。わかってるけど一応ね。


「潜伏しながらの暗殺と夜間襲撃を繰り返して肉体的にも精神的にも疲弊させ、数を減らすんだ。コツは相手に姿をチラリとも確認させず、痕跡をあちこちに残すことだ」


こっっっわ。

つまり、ある日いきなり誰かが弓矢で射殺され、周りを探すも発見できず、だが確実に誰かが居た痕跡が色んなとこにあって、警戒するも一向に姿を確認できず、夜になるとまた誰かが射殺され・・・ってことを何度もするってこと?


俺だったらちびって真っ先に逃げ出す自信があるね。


「先の盗賊団は初日の夜襲後に逃げ出した意気地なしが居たおかげでだいぶ楽になった。そいつを仕留めて朝までに拠点の近くに放り投げて置くだけでその後の作戦が行いやすくなるからな」


俺、盗賊団に転生してなくてよかった。

もしアンジュの壊滅作戦直前にガンダー盗賊団に転生していたら、何もわからないまま初日で美人エルフに射殺されてたわ。


「アンジュってすげーんだな」


「ふふ・・・。嬉しいが、サトルに言われるとなんだか皮肉を言われている気分になるな」


「ちょっと待て!・・・アンジュって!あの・・・白銀のアンジェリーナか!?」


はくぎんのあんじぇりーな?

ぷくくっ。なにその厨二の黒歴史の頃に五秒で考えたみたいな通り名は。


そういや俺達もカルロに貰ったミスリルの鎧がアンジュとは色も形もちょっと違うけど、白銀ではあるからもしかしたらそのうち白銀のサトルとか呼ばれるようになってしまう恐れも・・・!?

頼むからそれだけはやめてくれ。大体人を色で呼ぶんじゃない。俺は毎週朝っぱらから五人一組で一人の怪人をフルボッコにする全身タイツのやつらじゃないんだ。


「その呼び名はあまり好きではない」


「あ、いや、スマン・・・他意はないんだ」


よかった、アンジュが色呼び黒歴史厨二ネームを気に入っていたらどうしようかと思った。しかし、気に入ってないならそれはそれで・・・後でからかってやろっと。


「アンジュって有名だったんだな」


トレイルでもそんな感じは出ていたけど、あれはあくまであの街の中でのことだと思ってたわ。まさか違う街の人間にも名が知れる位の有名人だったとは。


「冒険者の活動は二十六年程続けているとな・・・エルフとしてはたいした時間ではないのだが、人族にとっては違うようだ。冒険者として活動しているエルフが珍しいという理由もあるだろうが・・・」


「へー、そうなんだ」


たしかにエルフってアンジュ以外は見たことがないな。ファストは辺境だからと思っていたけど、あんなに大きいトレイルでも全然見なかったということは珍しいというアンジュの言葉はその通りなんだろうな。

そんな珍しく見目麗しいエルフが単独で盗賊団を壊滅させてしまうような活躍をする程の力を持っていれば、そら通り名もついて有名にもなるか。






その後はマーキンが俺達に二、三質問した後に盗賊達の遺体を引き取っていった。

ゴミ回収、お疲れ様です!

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