第122話 ド直球

「これからのことなんだけど・・・」


焼きあがったパンをテーブルに置き、朝飯の準備を整え終わって席に着いてから発言すると、全員が期待の目を蓄えた視線を眼前の食事から俺に移して聞く態勢に入った。


「俺達は今ダンジョンに積極的に潜っている。これはこれからも続けていきたいんだが・・・それをふまえた上でウィドーさんに確認しておきたいんだが、俺としては一緒にダンジョンに入ってもらいたいと思っている。だが、どうしても嫌だというのならば、無理にとは言わないが・・・ウィドーさんはどうしたい?」


「アタイがダンジョンに・・・かい?」


俺達と一緒に暮らすだけなら別にダンジョンまで一緒に行かなくてもいい・・・という意見ももちろんあるだろうが、こないだのようなことのあるこの治安の悪い世界で、もう自分の身内といえるような立場になった彼女の安全を考えると、ある程度レベルは上げてもらいたいところだ。


ダンジョンに連れていくというのは危険地帯に足を運ばせることにはなるのだが、現状、俺の居ないこの家で留守番するのと、魔物いっぱいのダンジョンに俺達と一緒に行くのでは、完全に後者の方が安全と胸を張って言える。


「アタイが・・・魔物と戦えるとは思えないんだけど・・・」


「あー、戦闘への適性があるかないかは心配しなくていいよ。ここにいるミーナだって二週間前まで商人ギルドで働いていたけど、今はドラゴンの前に立てる位には強くなったし。その辺は心配しないでくれ。ウィドーさんには俺達と一緒にダンジョンへ行ってくれる意志があるかないかを聞かせてほしいんだ」


「え?ドラゴン・・・?それはどういう・・・?」


ちょっといきなり色んな情報を伝えすぎたかな。ウィドーさんは困惑した表情で話題の出たミーナに視線を送ったが、ミーナも困ったような何とも言えない表情で俺の言葉を肯定するようにコクリと頷いた。


「えぇ?ほんとに?ドラゴン・・・えぇ?」


「あー、スマンスマン。いきなりで混乱させてしまったかな・・・。じゃあここは俺のことの諸々の説明をしようか・・・アンジュも聞いてくれ。えっとね・・・」


オッス、オラ神の使徒。いっちょ異世界転移してみっかぁ!

とは言ってないけど、俺は前にオリヴィエ達にもしたここまでに至る経緯の説明を食事をしながら話した。


俺がこの世界の人間じゃないこと、たぶん神みたいな存在に連れてこられたこと。その存在にボーナススキルを貰ったこと。

あ、オリヴィエ達にも俺の実年齢がおっさんだってことは言ってない・・・けどまぁこれは別に言わなくてもいいか。


っていうか、俺の状況ってよくある異世界転移としては年齢が若返っているし、向こうの世界で死んだ記憶もないから異世界転生でもないと思うんだけど、この状況ってどういうカテゴライズになるんだろう・・・。


うーん・・・異世界再構築?


なんか一旦分解されて組み上げられたみたいでやだな・・・。

まぁ呼び方なんてどうでもいいか。転移でも転生でも再構築だろうが今の状況に不満があるわけじゃなし、そんな過程はどうでもいいことだべ。


ウィドーさんは新たな情報が出るたびに目をぱちくりさせ驚き、その度にオリヴィエやミーナに黙って視線を送って情報の真を確認しているのがなんともおかしかった。


アンジュは最初の俺が違う世界から来た、ということには驚いていたが、その後の俺が使徒うんぬんの話ではなんだか誇らしげにウンウンと頷いていた。オリヴィエと一緒に。なんか君達気が合いそうだね。


「つまり・・・サトルは別の世界から神に呼ばれた使徒様・・・ってことかい?」


「うーん・・・状況からしてたぶんそうなんじゃないかな?って感じかなぁ」


「ご主人様は使徒様で間違いないです!」

「サトルは使徒様で間違いない!」


揃ってるんだかいないんだかわからないが、やはり君たちの息はどうやらピッタリみたいだね。コンビでも組むかい?


「そうかい・・・ハァ・・・まさか惚れた男が使徒様とは・・・」


ポッ。

そうやって直接的表現で言われると照れちゃうんだけど。

やばい、今の俺の頬と鼻の頭、アンパン男みたいな感じになってない?大丈夫?


「わ、私もご主人様をお慕いしております!」


「私だって負けておらんぞ!」


いやー!被告白経験0だった俺へのその言動は陽性の精神攻撃になって効くからそれ以上はやめてぇぇー。

俺は困った顔をしてミーナに視線を向けたのだが、


「あ、私も当然サトル様の事は愛しておりますよ」


と、ニッコリ純粋笑顔でトドメをさされてしまった。

もしこれが愛しさ勝負であったのなら、今のは審議に審議を重ねたのち、ミーナが僅差で勝利していたかも。

きっと総評欄には「連打で弱っているところへまっすぐ正直なストレートを放つという達人の間合いで完全に彼をノックアウトした」と書かれることだろう。


「そ、そそそんなことよりも、ウィドーさんの返答はど、どうなんだ?」


あー、顔が熱い。

ちょっとみんな、何をそんなにニヤニヤしているんだね。俺の顔が変だって?そんなことは三十年以上前から知ってるぞ。


「そういうことだったらアタイもダンジョンへついていくことには異論はないよ。ちょっとまだ自分が魔物と本当に戦えるのかってのはにわかに信じきれないけど・・・旦那様が守ってくれるんだろう?」


なにその妖艶な笑みは。言っとくけど、精神年齢も恋愛経験だって俺の方が上なんだからねっ!

ちょっと今は複数のド直球な告白を正面から顔面ぶつけられるという異常事態に心臓の異常な回数の鐘を鳴らしているだけなんだからっ!


「俺はこの中の誰一人欠けてしまうような選択はとらないつもりだ。たとえこの国のすべての人間が犠牲になろうと、俺は俺の大事な人を優先することを躊躇わない」


「それは使徒様としての行動として大丈夫なのかい?・・・でもまぁ・・・その気持ちは嬉しいよ」


「そう言って結局すべてを救ってしまわれるのがご主人様です!」


「たしかに、あのスタンピードも犠牲者なく解決してしまったしな」


「サトル様は優しいのですよね」


これこれ、あまり俺を神格化するんじゃないぞ。

俺だって無理だと思ったら全然オリヴィエ達以外をあっさり見捨てるからな。スタンピードの時は襲撃数や魔物の強さを聞いて、それならなんとかなると確信していたから手伝ってやっただけだ。


「助けられる人を見ないフリしたら後味が悪いってだけだ」


「それが優しいというのだよ」


全員でウンウンしないのっ。

何だ何だ。昨日は俺にコテンパンにされたからって仕返しのつもりか!?

よーし、お前ら、今日の夜は覚悟しておけよ。また色魔のレベル上げちゃうんだからねっ!


「まぁ、この話は置いといて・・・。飯を食べ終わったらまたダンジョンへ行くか?それともギルドへ行く?」


「あ、はぶんごふぉに・・・っんぐ・・・。たぶん午後にはマーキンさんが検分にいらっしゃると思いまふ」


お、遂にオリヴィエがハムスターを卒業し・・・てないわ。話し終わるかどうかのタイミングですぐに詰め込みおった。


「そうか、そういやそうだったな」


外にあるゴミをはやく持ってってもらわないとな。元々臭いのにそろそろもっと臭くなっちゃいそうだし。


んじゃあ、マーキンが来るまで色々中途半端になっていた家の作業を進めようかな。

とりあえずの突貫で仕上げた風呂をもうちょっとちゃんとして、難しいとは思うけど、その排水を利用したトイレの水洗化もなんとか果たしたいところだ。






レベルが上がったことで材料の伐り出しや加工なんかはどうにでもなって楽勝なんだけれど、組み立て製作となると、やっぱり素人ではどうにもならんよなぁ。


どっかその辺にこういったことをこなせる美女が転がっていないものだろうか。

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