第121話 出……帰宅
「それじゃ、行ってくる!」
「あいよ、気をつけてなー。」
要らぬ心配だとは思うが、出掛けるアンジュとウィドーさんに右手を振り、定型文の声掛けをしておく。今のアンジュならたとえゴブリンの群れが数十体と襲ってこようが、それをすべて三枚におろして船盛にしてしまうことだって出来るだろう。・・・絶対やらんと思うし、やってほしくもないけど。気持ち悪すぎるし。
なんで彼女達二人だけで出掛けたのかというと、アンジュは起き抜けに話した冒険者ランクの話をやはり提言しに行きたいということで、ギルドへ足を運ぶことに。じゃあそのついでにとウィドーさんは一緒について行き、ファストで勤めていた雑貨屋へ辞める手続きしに(といっても書類とか面倒なものなんかはなく、店主に一言声をかけるだけみたいだが)行った。
んじゃそのついでのついでに帰りには、人も増えて消費量も増える小麦粉を買ってくるようにお使いも頼んでおいた。
ウィドーさんは雑貨屋で住み込みだったらしく、引き払う家もないから私物だけ移せば移住完了というなんとも身軽な立場だった。まぁ、勤め先への住み込みだったからこそ、そこの店主に女が出来て居づらくなってしまったのではあるようだ。
俺からしたら店主グッジョブだけどね。意図したわけではないだろうが、結果的にウィドーさんが俺の家に来る後押しをしてくれたわけだから。ありがとう名も知らぬ店主。
「おっし、それじゃ俺達も行こうか」
「はい!」
「了解です。今日もいつも通り6層ですか?」
「そうだね。7層に食材を落とす魔物がいるかもわからんしな。あ、3層のゾンビはちょっと狩りたいね」
今ならガンガン先の層に挑戦出来るだろうけど、俺が構成を新しくしたジョブの影響も知りたいし、付け替えた新ジョブのレベルも上げておきたい。
何より今はまず食材を確保しておきたいってのが第一なんだけどな。
「あのハズレ・・・じゃなかったですね。確か・・・万能酵母、でした?」
「うん、ちょっと在庫が心もとなくなってきたからね」
万能酵母は世間では使用用途不明のハズレとされている。こんな無限の可能性を秘めているアイテムはないのにね。まぁ鑑定が無ければ普通の冒険者にはわからんよな。見た目ただの白い塊だし。
砂糖のゴブリンアズーカもそうだけど、ダンジョンでは粒状のアイテムがドロップする時は塊の状態で出現する。ちょっと力を入れて握るだけでさらっさらの粉になるから削る必要などもなく、非常に便利だ。
さらっさらの状態でドロップされたら回収にめっちゃ困るからこういうダンジョン側の配慮は凄い助かるね。配慮なのかたまたまそういう仕様なのかはどうかは置いといて。
今はうちの主食の原材料として活躍しまくっているので、我が家の最重要アイテムといっちゃっても過言ではない。
そして俺達はカルロに貰った豪華なミスリル装備を身に着け、ファスト西のダンジョンへと向かった。
「おっ、おかえりー」
外の窯でパンを焼く準備をし終わり、用意しておいたパン種を取りに家の中に戻ろうとしたところで肩に小麦袋を抱えたアンジュと住み込み先から引き払ってきた荷物を背負い袋いっぱいに詰めたウィドーさん達が帰ってくるのが見え、声をかけた。
「むむ?ダンジョンへと行く、というのはやめにしたのか?」
「いや、行ってきたよ」
いやぁ、今回も豊作でした。
俺達は話しながら家の中へと戻る。
「私達が家を出てから二時間も経っていないと思うんだが・・・」
家の中に居たオリヴィエとミーナが帰ってきた二人を見つけ、「おかえりなさい」と声をかけられたアンジュとウィドーさんが軽く会釈をするような形で答えていた。
「うん、それについては俺もビックリしてる」
まぁちょっと考えればわかったことだけど、今の俺達はアホみたいなスピードで移動が出来るし、目的の魔物なんかも草むしりするよりも楽なんじゃないかというくらいの難易度だったから、オリヴィエの更に精度を増したソナー能力も相まって物凄い速度でダンジョンの魔物を狩りまくり、すぐに三人の背負い袋はいっぱいになってしまったのだ。もうパンパンよ。いくら持っても重く感じなかったしな。
「ご主人様の加護の力で効率がだいぶ上がりましたね!」
「・・・あれはもう効率とかいう話を超えているような気もしますが・・・」
目的の物が大量に手に入ってホクホク顔のオリヴィエと、あまりにも現実離れしたダンジョン探索を自らも一緒にやってしまい、少し引き攣ったような呆れているような微妙な顔をしているミーナ。
「なるほど・・・まぁサトルの加護の凄さに関しては私自身も嫌というほど実感させられているからな・・・。なんとなく想像はつく」
さっきから俺の加護のせいにしているけど、たぶん君達はもう俺のパーティーを抜けても6層程度ならそう変わらない力と効率を発揮出来ると思うぞ。
ミーナは上がらなかったけど、オリヴィエは今回の探索でレベル55に上がったしな。
俺の僧侶と盗賊はあがらなかったけど、新しく付けた重戦士と魔道士はレベル5に、武器商人と防具商人はレベル7になった。
どうやら上位ジョブは下位の物よりレベルが上がりづらくなっているようだが、これはゲームではよくある仕様だから特に驚きはなく、逆にそりゃそうだよなって妙に納得してしまった。
構成を新しくした影響に関しては、あまり感じなかった。
力が落ちているという感覚はあったが、そもそも構成内にレベル55の職業が二つもついているというのが6層程度では全力を出す必要すらないため、実力を計るという点では不十分だったのだろう。
「そっちはどうだったんだ?」
「それに関してなんだが、やはり一度提案者のサトル本人に話を聞きたいということになった。内容が内容なだけに、やはり詳細を求められるとどうにも私では返答に困ってしまってな・・・。申し訳ないが、どこかで時間を作って冒険者ギルドに足を運んでもらえると助かる」
「それは大丈夫だけど・・・」
俺に冒険者ランクの細かい設定の話を聞かれても困るんだがなぁ・・・。こういうのは初めから完璧を求めるんじゃなくて、とりあえずは想定できる範囲で一度制定し、運用するなかで改善点があれば随時変更していくものだと思うけど・・・。
まぁこの世界では存在していなかったものを始めようとしているならば、慎重を期すというのは当たり前かもしれないけど。
「ウィドーさんの方は大丈夫だったの?」
「ああ、アタイの方は全く問題なかったね。口では「残念だ」とか言っていたけど、むしろ喜びそうになっているのを必死にこらえているようだったよ、アレは・・・」
「へー、ウィドーさんみたいな美人が辞めるってなったら俺だったら必死に止めるけどな」
「う・・・!・・・やめとくれよ。恥ずかしいことをサラッと言ってくるご主人様だねぇ、まったく・・・」
恥ずかしそうにしているけど、その顔はもっと言えって叫んでいるように見えるぞっ。きっと雑貨屋の店主もこんな感じで感情が顔に出ちゃってたんだろうな。
しかしほんと、こんな美人でグラマラスなウィドーさんを邪険に扱うなんて・・・店主はどんな美女とお近づきになったのやら・・・。
日本に居るときに俺だったらうらやまけしからんしていただろうけど今の俺は・・・。すいません、ちょっと羨ましいです。
なんで男って他の男の男としての幸せを心の底から祝うことが出来ないんだろうね。我が家には既に美女達が四人もいるというのに。不思議だなぁ。
「とりあえず飯にしよう。後はパンを焼くだけだから、二人共荷物を置いてきたら食卓で待っていてくれ」
まだモジモジしていたウィドーさんも俺の発した「飯」という言葉に反応し、二階へテテテっと足早に登って行った。
そういえば、彼女は飯目的の言動が多かったような・・・。
もしかしたら我が家にオリヴィエ二号が誕生する日も近いのかもしれない。
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