第120話 制度と+1
「今日は食料を取りに行きたいと思います」
なんせ在庫が調味料以外ほぼゼロになったからな。
「それなら私に任せてくれ!森に近いこの場所ならばすぐにでも取ってこれるぞ!」
俺の言葉にいち早く反応し、一歩前に出て胸を張るアンジュ。・・・狩りに自信があっての行動なんだろうけど、着替え途中でそれをやるのはあまりオススメしないぞ。
最初に目覚めたのはオリヴィエだったが、結局あの後すぐに全員が起きてきたので、今はみんな各々が着替えをしている最中なのだ。
「いや、森で狩りはしないぞ」
「む?食料を取りに行くのでは?」
「うん、ダンジョンにね」
だって森に狩りに行ったって獲れるのは肉ばっかりやん。
それだとステーキしか出来ないやん?
だったら調味料とか卵とかも手に入るダンジョンの方がいいやん。
「ファストにダンジョンがあるっていうのは初めて聞いたな・・・」
「え?ギルドって情報共有とかしてないの?」
「ダンジョンの場所をギルドで、か?」
「うん」
「いや、無いな。ギルドの仕事は依頼を受注してそれを登録している冒険者へ仲介するのと、有用な素材の買取だけをしている・・・と、思う。さすがに私も世界中のギルドの仕事内容を知っているわけではないが、そういうことをしている冒険者ギルドは聞いたことがないな」
えー・・・そういう情報って冒険者の活動する上で結構重要なものだと思うんだけど、それをサポートする機関であるはずの冒険者ギルドがやらないってのはちょっと怠慢すぎやしないか?
「まぁダンジョンは普通の冒険者には日銭を稼ぐ程度にしかならない次の仕事への繋ぎみたいなものだからな。ギルドが買い取ってくれる素材採取が地味で嫌だという奴や、スタンピード防止のために領主が依頼を出さない限りはあまり積極的に潜るような場所ではないしな」
「あー・・・なるほどなぁ」
そういやこの世界の人間は低レベルがデフォだったんだった・・・。
確かに1層や2層のような魔物に苦戦しているようでは魔物のドロップ品だけではその日を凌ぐ程度しか稼げないかもしれないなぁ。
「でも、次の依頼の繋ぎにはなるんだから、依頼がない時間を有効活用出来るっていう点でダンジョンの情報を知りたい冒険者は多いんじゃないのか?」
稼げないとはいってもその日の生きる糧は得られるんだから、仕事がなくて困っている冒険者には結構需要があると思うんだけど。
「ファストでは立地的な問題もあって依頼が少ないと思うから、ダンジョンへ行く者は確かにいるかもしれないが、他の地域では基本的に依頼が途切れるということはないんだ」
「え?そうなの?」
「ファストは帝国の端で、隣国がアレだからねぇ・・・」
そう言ってウィドーさんは溜息を吐く。
確かにファストでは掲示板に全然そういったものは無かった。だから他の場所でも同じようなものなのかと思ったけど、違うのか。
「冒険者はその仕事の特性上、非常に怪我のリスクが高いし、死亡率だって低くはない。自分の実力も把握していない馬鹿が身の丈にあっていない依頼を受注したり、依頼主に自分の実力を偽ったりして結局危険な目に合い、依頼者共々魔物の餌になってしまうようなことも多々あるからな。そうなると依頼をこなせる冒険者が減り、その結果、依頼が溢れて依頼以外の活動をする時間も冒険者には無くなる。だからダンジョンの情報を求める冒険者は少ないと思うぞ」
「そうか、みんなレベル低いもんなぁ・・・。実力を偽るとかは依頼者がギルドランク指定したりで防げないもんなのか?それとも自分のランクまで偽ってってこと?」
「らんく・・・?とはなんだ?」
「え?無いの?ランク」
冒険者ギルドといえばブロンズとかプラチナとかDとかSとかのランクがあるもんなんじゃないの?
「それは一体どういったものなんだ?」
マジかよ・・・ホントにねーんだな・・・。
「冒険者の実力を素材の納品とか依頼の達成率とかを指標にして、階級分けする仕組み・・・かな?」
「冒険者に階級を・・・つけるのか?」
「うん、実力がないと達成が難しそうな依頼には高階級の冒険者しか受注でき無くしたりするんだ」
「なるほど・・・それだと依頼者側も欲しい人材を集めやすそうですね。今は報酬額をあげて人数を多くすることで安全な行商を確保しようとしていましたが、いくら人数が居てもその実全員の実力が不十分で命を落としてしまうということも多いと聞きますから」
ミーナはやっぱり賢いねぇ。俺の一言でそこまで理解するとは。
「だが、それだと低階級の冒険者は仕事が無くなるのではないか?」
「依頼が飽和している現状ではそれは無いですね。それに、階級分けが完全に機能すれば、冒険者の死亡率もかなり減ると思いますよ」
そうそう、ランク制度ってのは冒険者に枷をつけるように見えてしまうかもしれないが、一番重要なのは冒険者に実力の見合った依頼をこなさせることで死亡率を減らすことだ。
「そうか、それが減らせれば将来的には冒険者の実力の底上げにもなる・・・と。・・・ミーナ、これはかなり素晴らしい案なのではないか?」
着替え途中なのに顎に手を置いて考え込むアンジュ。さっさと着替えちゃいなさい!まぁ眼福なんですけれども。
「そうですね。階級が上がる基準をしっかり定めることさえ出来るのであれば、特に問題点などは無いと思います」
「さすがご主人様です!」
でたな、さすごしゅ。いいぞ、もっとやれ。
「これはすぐにでもギルドへ提案しにいかねば!」
そう言ってアンジュはそのままギルドへ向かわんと飛び出そうとするが、
「おいおい、その格好で行くのか?アンジュは破廉恥だなぁ」
「格好・・・?・・・ひゃぁ!」
上は辛うじて一枚薄手の物を着けていたが下はまだすっぽんのぽんだったアンジュはそれに気が付くと隠すようにその場に座り込んだ。何を今更・・・。
「まぁ着替え終わったらギルドへ行ってきてもいいが、ついでにウィドーさんを家に送ってやってくれ」
「うぅぅ・・・わかった」
恥ずかしそうにしながらも頷き肯定するアンジュ。
おや?その奥で既に着替え終わったウィドーさんの表情がなんか暗い。
「ウィドーさん、どうしたの?まだ家に帰るのは不安?」
いくら未遂だったとはいえ、あんなことがあったんだもんな、仕方ない。
しかも歴戦の猛者だと思ってた彼女が実は初心者マークを付ける前の段階だったのだからその恐怖も相当なものだったろう。
「あ、あの・・・」
「ん?」
下を向いて目を瞑り暗い顔をしていたウィドーさんは。何やら意を決したように一つ頷き、
「アタイもこの家で・・・アンタのもとで一緒に暮らせやしないかい!?」
「え?いいよ」
「そうさね・・・こんな行き遅れた年増なんて・・・・・・え?」
「ウィドーさんさえよければいくらでも居ていいけど・・・店の方は大丈夫なの?それともこっから通う?」
断る理由なんてないしな。彼女は綺麗だし。本人が気にしている年齢のこともフォーティーオーバーの精神を持つこの俺からしたら全然若いしな。
「い、いや・・・あの店は店主に最近いい女が出来たらしくてね、その人にも店番をさせたいってんで、少し居心地が悪かったからどっかに転職を考えてたとこだったんだよ。店主は居ていいって言ってくれてたんだけど・・・ねぇ」
「そうか、じゃあタイミングバッチグーだったじゃん」
「たいみ・・・?ばっち?」
「丁度よかったね、ってこと」
その俺の言葉にウィドーさんは表情を明るくさせ、俺に向かって両手を広げて飛び込んできた。わー、少女漫画だったらたぶん俺を映した窓の四隅に何故か色とりどりの花々が咲いてそうな状況だな。
こうして俺の家の住人にまた女性が加わることとなった。
凄いハイペース!
俺のモテ期はまだまだ絶好調なようです。
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