第117話 逸る製作
「いやいやいや、一緒に寝るって・・・ねぇ?」
「あ、あ、あ、アタイは・・・それでよければ・・・」
え?モテ期?
遂に俺にもモテ期がきちゃった?これ。
俺は幼稚園の時に、隣に住んでいる女の子姉妹に同時に告白されるという将来になんもつながらない時期にモテ期を無駄に消化してしまっていたと今まで思っていたが、オレのソレはココだったのか!
「え?いいの?一緒に寝るってことはそういうことになるぞ。・・・言っておくが、俺はそういう場面になったらちゃんとしっかり襲うからな」
据え膳食わぬは・・・っていうか、俺の場合は目の前に綺麗な人が受け入れ態勢にあったら我慢できないだけだけどな。
「わ、わかってるさね。・・・だ、だけど、水浴びはさせてほしい・・・色々と汚れちまったから・・・」
「あ・・・」
その言葉で彼女がついさっきあった被害を思い出し、言葉を詰まらせてしまった。
・・・そうだよな・・・彼女はあのゴミに・・・。
・・・・・・・・・なら。
「・・・風呂、入るか」
「「え?」」
俺の言葉に疑問符をつけたのはこの家の設備事情を知っているオリヴィエとミーナだった。
「サトルの家は風呂まであるのか!」
「そいつは凄いね。風呂がある家なんて貴族様の御屋敷以外じゃ聞いたこともないよ」
「いや、ないぞ」
「「へ?」」
今度はアンジュとウィドーさんがハテナマークを浮かべる。
「今から作ろう!鎌倉幕府!」
最近じゃもしかしたら1192年じゃないという説も出て来たとかいう話があったりなかったりするらしい。そんな八百年以上昔の幕府が置かれた時期なんて俺にはどうでもいいけどね。
イマカラとイイクニじゃ全然違うじゃないかという突っ込みはいらんぞ。そもそもこの世界じゃ鎌倉幕府自体が歴史にないんだから意味なんて通じっこないし。ただ勢いで言っただけだし。
「かまくらばくふ?」
「いや、それは気にするな」
「は、はぁ・・・」
一時は諦めた風呂なのだが、実はもう作製の目途は立っている。
何故ならウィドーさんがココにいるからだ。
「今の俺達なら重機要らずの人力マッスルでサクッと作れるだろ」
なんせご褒美が目の前にぶら下がっているからな。こうなった俺は強い。強くて速い。思い立ったが吉日。想い勃つは一物ってね。
そうして俺は説明もそこそこにまだなんだかわかっていないその場の全員を外へと連れ出し、ウィドーさん以外の三人に作業工程だけを簡単に伝えて風呂作りをはじめた。
「アタイは何をすればいいんだい?」
「あー・・・それじゃ、ウィドーさんは今日持って来てくれたアレを洗っておいてくれるか?」
「確かにアレは新品だけど、使うなら一度洗った方がいいかもね。あいよ」
そして俺達はまるで小枝を払うかのように森の木を伐り出し、それを割った薪を運ぶかのように軽々と持っていき、彫刻刀で粘土を造形するかのように簡単に加工しはじめた。・・・この光景はなんか脳みそがバグるな。
硬い素材なはずなのに豆腐のように簡単に切断できてしまうと、手に持ちそこから伝わってくる硬度の情報とそれを加工するのに必要な力の乖離が激しく、自分が持っているのは木ではなく、もしかしたら腐りきった木のような、それこそ十円で買える棒状の駄菓子かのように脆いものなんじゃないのかと錯覚してしまう。
ほんと・・・この力って何処からくるんだろうね・・・。
その後も俺達はまるで重機の如く材料を運び、加工し、設置していく。
今回必要なのはちょっと高い土台と、少し地面と離れる程度の低い土台だけなので、ものの十数分で完成してしまった。
・・・いや、ほんと・・・信じられないかもしれないが、出来てしまったんだからしょうがない。
本来なら一番時間がかかるであろう木材を固定する縄の製作なんかも、今回は俺の「ウォーターガン」で小さく開けた穴に適当な大きさで作った木釘を打ち込むことで大幅な時間短縮となった。我ながらいいアイデアだったと思う。
木材は原木のまま乾燥なんかもさせていないけど、どうせ外で使う物だし、駄目になりそうだったらまたすぐに作り直せるんだから別にいいだろう。
後は高い土台の上に大釜を置き、下の方に穴を空け、蓋をしておく。そして開栓したときに大釜で沸かしたお湯が低い土台の方へと流れるように丸太をえぐって雨どいのような形に加工したものを設置しておく。
そして低い方の土台には、
「おし、後はウィドーさんが持って来てくれたコレを乗せれば・・・オリヴィエ、そっちを持ってくれるか」
「はい、ご主人様」
そう言って、ウィドーさんが今日持って来てくれてさっき洗い終わったばかりの大きな樽・・・いや、これは桶と呼んだ方がいいのかな?風呂桶とも言うくらいだし、桶でいいのか。そもそも桶と樽の違いってなんなんだろう。・・・そんなんどうでもいいか。それをオリヴィエと二人で持ち運び、低い土台の上に置いた。
「・・・凄いもんだね・・・それは大人三人がかりでやっとこさ荷車に乗せたっていうのに・・・」
うん、たしかにこれはでかいし重い。俺が注文した通り直径大体二メートル半程もある大きな桶だ。しかもやはりここまで大きいと、普通の樽よりも使っている木の厚みも太く、その分更に重量も増していることだろう。
だけど、こんなものでも今の俺は持とうと思えば一人でも持てたと思う。
ただ、一人だとさすがに平行を保つことは難しそうで、土台に乗せるときに雑になって無駄な衝撃を与えてしまい、土台か桶のどちらかにダメージが入ってしまうかもしれないと思ったから、安全を期すためにオリヴィエにも頼んだってわけだ。
風呂桶を低い土台に乗せたら桶の排水部分から簡易的に溝を掘り、トイレから続く側溝へと繋げた。この辺は後でしっかりと仕上げる必要はあるだろうが、今はとりあえず水が流れる溝さえあればいいだろう。
「おし、それじゃ、お湯を沸かすからオリヴィエとミーナでそこの余った丸太を薪にして大釜の下に持って来てくれるか?」
「はい」
「了解です」
料理用に使っている薪はもう残り少なくなっていたので、二人に新しく作ってもらう。二人は手際よく、まるで野菜かなんかを切り分けるように軽々と剣で丸太を捌いていく。
・・・丸太を捌くって凄いよな。でもほんとにそんな感じなんだもん。
「あー、このまま薪を燃やしたら土台まで燃えてしまうか・・・それなら」
俺は土台の方に手をかざし、
「クリエイトストーン」
と唱えて魔法で作った粘土を土台の下に発生させ、それを大釜の下で火をくべても土台が燃えないように壁を作った。大釜の下に簡単な窯を作ったって感じかな。
煙突なんかも作った方がいいのだろうが、今日は奥側に小さな穴を空けておけばいいか。これも後回しでいいや。
「サトル、私も何か手伝おうか?」
今まで俺がオリヴィエ達に支持する度にその横でソワソワしていたアンジュが意を決したようにして声をかけて来た。
「うーん・・・いや、アンジュは今日はじめてウチに来たんだし、今日くらいはお客さん待遇でいいよ」
とは言ったけど、特にもうやらせるようなこともなかっただけなんだけどね。アンジュはこの家と周辺の勝手を知らんし、作業割り当てるにしても道具の場所とかその作業をするにあたって別のことも教えなきゃいけなかったからそれがめんどくさくてついオリヴィエとミーナにだけ指示していたってのもある。
「そうか・・・」
いや、そんなしょんぼりしなくても。
働かなくていいって言ってるんだから喜びこそすれ、しょげるようなことではないと思うんだが・・・。
おっし、後は魔法で水を大釜に溜めてそれを沸かし、桶に流して温度調整すれば完成だ。
俺は魔法のクールタイムも長く感じてしまうほど、気持ちがはやっていた。
わかってくれるよな?だって、これが完成したら「みんな」で風呂に入れるんだぜ。
一人ずつとかは駄目だぞ。この方式は温度調整がめんどくさいからな。絶対に全員で一緒に入るんだからね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます