第115話 一味たして
「ごひゅじんはま!とってもおいひいれふ!」
うん、実にいい笑顔。満足そうでなによりだよ。
精進料理のようなものになってしまうかと思われた俺達の食卓は、結局いつもと大して変わり映えしないものとなった。
というのも、あれから全員の背負い袋の残量を確認してみたのだが、俺とミーナのには予想通りあまり食料は残っていなかった。だが、パッと見は二人の物同様に残量僅かに見えたオリヴィエの背負い袋の底面にはビシーッと綺麗に整頓された食料が結構な量入っていたのだった。それこそオリヴィエのものだけで二日分位は余裕で持ちそうな位に。節約して・・・とかではなくていつもの量でな。
今思い返せば、食事を作る時に結構な比率でオリヴィエが自身の背負い袋から取り出して渡してくる食料を受け取って料理していた気がする。少なくとも半分以上はオリヴィエの背負い袋産のものだったはずだ・・・。それなのに日を追うごとに目減りしていく背負い袋の外観は俺とミーナのものとそう変わらなかったはず。旅程中に違和感などは全くなかったしな。
ということは、だ。
俺とミーナの背負い袋よりも、オリヴィエの背負い袋の中には倍以上の食料が積み込まれていたことになる・・・。
見た目は俺達とそう変わらないように見えていたあの中身には・・・実はぎーーーっちりみっちりと彼女の好物が仕込まれていたことに・・・。
だが、ファストで買ったこの背負い袋にそんな重量を持ちこたえるほどの耐久性はないはず・・・と思ったのだが、比べてみて初めて気がついたが、オリヴィエの背負い袋だけ紐の付け根や底面部等、持ち運び時に負荷がかかるような部分にだいぶ補強した痕跡があった。
並べて見れば一目瞭然なのだが、背負っている時には補強部分の大半は彼女の体で隠れてしまうし、底面を注視することなんてないから今の今まで全く気がつかなかったわ。オリヴィエとは寝食のみならず何処へ行くにもいつも一緒だったというのに、いつの間にこんな事をしていたのか・・・。
そういえばトレイル出発の前日、俺が食事を作って食卓に料理を並べたら、いつもはwktkでテーブルに待機しているオリヴィエの姿が見えず、ミーナに呼んできてもらったな・・・。
なるほど、その時か。
だが、あの日は確か食事中に旅程に必要な準備の話をしてその後に準備したはず。・・・ってことはオリヴィエはそんな話をする前、トレイルに行くと決まったその瞬間に自分の背負い袋を補強して出来るだけ密かに・・・かどうかはわからないが・・・食料をがっちり詰め込む計画を練っていたということか・・・。
食いしん坊もかなり極まってきたな。オリヴィエたん。別に何か害があるということではないし、そんなところもお茶目で可愛いからいいけどね。おーるおっけーです。
そして、残量を気にすることもなくなった食事は、前述の通り見事にいつもと変わらないものとなって、オリヴィエが残念な表情を見せることもなかった。
トレイルに出発する準備をした日は四日程前となり、保冷機能も何もない背負い袋へその時分に詰めた肉なんかが傷んでないかはちょっと心配だったのだが、ついさっきもうちょっと積極的に対話をすることにしたスネシ・・・サポシスさんに早速聞いてみた所、
「ダンジョン産の魔物からドロップした食料は、それ自体が魔素で再構築されたものですので腐食はしません。細菌による劣化も構成されている魔素によってほぼ抑制されるため、保存状況が劣悪でない限りは半永久的に食すことが可能です」
というまさかの超便利保存食であった。すげえな、ダンジョン産の食料。確かにそう思って改めて見て見ると、見た目なんかは全然ドロップした時と変わらず綺麗な色をしているな。これも言われるまで気がつかなかったわ。
半永久的に食べれるのに何であんまり普及していないんだろう・・・と思ったけど、そもそも食料をちょいちょい落とし始めるのはダンジョンの3層からで、本格的に調味料や種類が豊富になってくるのは6層からだった。
元々3層でも人を見かけることはほとんどなかったのに、6層なんてこの低レベルが基本な世界で街に普及させるほど供給するのは不可能だろうな。
ファスト以外のダンジョンがどうなのかはわからないけどね。もしかしたら1層からバンバン食料をドロップするダンジョンなんかもどこかにあるかもしれない。
オリヴィエにそんな話をしたら「探しましょう!」とか言われそうで怖いから黙っておこう。俺は自分のフルコースを完成させることとか人生の目標にしてないし、釘みたいなパンチで打てないんだからな。・・・俺は無理だけどオリヴィエはそのうち出来てしまいそうで怖い・・・頼むから美食の神と世界の食材を巡って激闘を繰り広げたりしないでくれよ。そんなのがいるのかどうかは知らんけど。
「確かにこれはうまいな・・・サトルは料理の才も兼ね備えているのか・・・」
「この間ご馳走になった時よりさらに豪華になってるね!このふわっふわの白いパンとかどうなってるんだい!?」
「なんだか慣れてきてしまっていますが、やはり毎日このような食事を頂けるこの環境は贅沢ですよね」
「「毎日!?」」
ミーナの言葉にアンジュとウィドーさんが声を揃える。仲いいね、キミタチ。
「俺としてはもうちょっと下味とかしっかりつけたいところなんだけど、如何せん手持ちの調味料と俺のスキルじゃこれが手一杯なんだよな」
料理は結構してきたけど、高校生の時に食堂でバイトしていた以外は別に仕事としてやっていたわけじゃないし、ほとんどが自分の為だけに作っていただけだから知識もそんなにあるわけじゃない。
それでも日本で一般的に家庭で出てくるようなものはほとんど作れるとは思う。
調味料を一から作れ、とか言われても無理なのだが、それさえ用意してくれれば色々なものを提供できるという自負はあるつもりだ。
だからオルセンに注文したものがもしちゃんと届くようならば、俺自身も満足できるものが作れる・・・はず。
オリヴィエ大丈夫かな?
今でもこんななのに、日本に於いて一般的に「美味しい」と言われている料理なんて食べたら・・・。
頼むから異世界だから何でもアリだとかいって、口から虹を出すようなことだけはヤメてね。怖いから。
「この料理で満足していない・・・だと・・・?」
「ごしゅじんはまのつくるりょうりははいほーです!」
はいほーて・・・俺はどっかの姫に付き従ってる小人じゃないんだぞ。
「これ以上となると一体どんなものが・・・」
「なんだか街の食堂なんかでは不満を持ってしまいそうな自分が居てちょっと怖いですね」
「まぁそんな格段に味が上がるってわけでもないけどな。無理矢理例えて言うならば、ちょっと揺れるが普通に渡れる吊り橋をしっかりと固定して揺れることなく進むことが出来るようになる、みたいな?・・・分かりにくいか」
俺に即興でうまい例え話なんかをするトークスキルなんかはない。文句はテレビに出てるような人気のお笑い芸人を連れてこないでただの中年ニート俺を選んでこの世界に送った奴に言ってくれ。
「基礎がしっかりするということですよね。食事においてそれがどういう効果をもたらすのかは想像すら出来ませんけど」
ミーナは俺の分かりづらい例えをちゃんと分かってくれる。結構嬉しいもんだね。
「むむむ・・・今よりもしっかりとした味の料理が・・・ハッ!ご主人様!・・・それは神域の料理なのでは!?」
いえ、ただの家庭料理です。
「これより美味しい料理が食べれるのかい・・・あぁ、アタイはアンタらが羨ましいよ」
「それなら貴女もサトルのものになれば良いのではないか?」
ブフォッ!
こらアンジュ!急に変なこと言うから人生で初めて漫画のようなリアクションで食べ物を吹いてしまったじゃないか。
何を言い出すんだよ・・・そんな・・・ねぇ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます