第114話 スネシス
「ふむ・・・荒らされはしているけど、とりあえずまだ何も運び出されてはない・・・か?」
今は物置部屋にあった掃除道具を二人に渡した際、アンジュに「被害状況を確認した方がいいのでは?」と言われて二人には先に道具を渡して掃除に向かってもらい、俺は物置部屋に残って盗られた物の確認をしているのだが・・・最近はダンジョンでの収穫もかなり多く、結構な量を置いていたために在庫の把握は難しくなっていた為、何が無くなっているのかは正直よくわからなかった。
俺の家で値打ちのあるものはこの部屋に置いてあるもの位しかないから、ここの物が無事ならば被害ゼロといっても過言ではないだろう。気がつかない程度なら無くなっていても問題にすらならないしな。
被害と言えばちょっとだけ台所の食料置き場に顔を突っ込んでいた男のことが気になるけど、あそこにはその場で生で直接食べれるようなものは置いてない。あんなヤツが近づいたということで少し気分が悪くなる以上の被害はないだろう。
確認を終えた俺は一階に戻って掃除しているだろう二人に合流する。
だが、台所に行くと予想に反して二人は掃除はしておらず、何かを探している様子だった。
「あれ、何をしているんだ?」
「あぁサトル・・・水瓶などが見当たらないのだが・・・。このままだと掃除がはじめられん。この家の周辺には井戸など無かったはずだし・・・」
アンジュはこの家に着いたときに周辺の警戒を頼んでいて、家周辺はもう大体把握しているのだろう。井戸は近場にはない。購入した時にそれが理由で安くもなったしな。俺は現物を見たことないが、結構離れた場所にあるはずだが、行くつもりも必要もない。
何故なら。
「ウォーター」
俺は台所の隅に置いてあった大きめの桶の場所に移動して、対象を指定せずに水魔法を使う。
すると掌の前に発生した水の塊はふよふよと空中に数秒留まった後、ザバーっと落ちて桶の中に納まった。
ウチの水源は俺の魔法なのだから水源は必要ないのである。
「ほい。水はこれを使ってくれ」
「・・・そんなことも出来るのか・・・サトルと居ると驚くことばかりだ」
「え?え!?・・・今のって魔法ってやつなんじゃないのかい!?」
あ、ウィドーさんが居たんだった。
まぁいいか。今更だしな。
トレイルの住民ほぼ全てにバレてるのにウィドーさんという知り合いに隠す必要もないべ。
この世界はファンタジーであり珍しくても魔法使いは存在しているんだから。
「うん。便利でしょ」
「べ、便利って・・・魔法使いは帝国でも三人しか居ない希少な職業だよ!?」
「え、魔法使いってそんな少ないの?」
そういやあんな大きな街のトレイルでもただの一人も居なかったな・・・。
「ああ、帝国には三名居るが、他の国は一人居るか居ないかだぞ」
(サポシスさん、魔法使いの取得条件って厳しいの?)
俺は久しぶりにサポシスさんに聞いてみた。
最近のサポシスさんは俺のなんでもすぐに教えてもらうことを良しとしないという意図をめっちゃ正確に汲んでくれるからちょっと疑問に思った程度で勝手に答えを提示してくる・・・なんてことはしてこない。
・・・・・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
え?
なんだ?この点は。
・・・・・・いや・・・よーーーーーーーーーーく見るとこれ・・・文字だ。めっちゃちっちゃい。
それに、サポシスさんは音声機能をオンにしたはずなんじゃなかったっけか?
「そういったことも忘れてしまうほどなので、もう必要ないのかと思いまして」
「おわっ!」
「どうした?サトル」
「あ、いや・・・なんでもない」
急に耳元でサポシスさんの声がしたからおっきな声出ちゃったよ。
・・・もしかしてサポシスさん・・・いじけてらっしゃる?
「何のことでしょう?」
ま、まぁいいや・・・それで、魔法使いの取得条件なんですけど・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いや・・・だから・・・。
あ、ちょーーーっとだけ文字が大きくなったような・・・?でもまだ全然見えん・・・平仮名部分がちょびーーっと認識出来るかな?ってくらいだ。
(あ、あのー・・・。怒ってらっしゃるなら謝りますからちゃんと表示してくれないでしょうか・・・?)
「・・・魔法使いは戦闘職を一つ以上取得し、事象の基本構造への理解を深めることで取得することが出来ます。加えて、私は怒ってなどいません」
(あ・・・そ、そうですよね。教えてくれてありがとうございます!)
いや、アレは絶対怒ってただろ・・・。
「怒ってなどいません」
あ、はい・・・。
サポシスさんに隠し事は出来ないか・・・。何か今の感じだと怒っていたというより・・・あまりに頼らな過ぎて拗ねてしまったような感じか?
「拗ねてなどいません」
あ、はい。
・・・これからはもうちょっとサポシスさんに色々頼って行こう。
今日のようなことだったらまだしも超絶必要な場面でこんな対応されたら取り返しのつかないことになりそうだしな。
まぁ、サポシスさんのことだからそんな場面ではちゃんと必要な情報を提供してくれそうではあるけどね。信用してますよ、サポシスさん!
・・・えーっと・・・なんだっけ?
あー、魔法使いの取得条件か・・・。なんかどうでもよくなってきたけど、一応反芻しておこう・・・。せっかく教えてもらった情報だしなっ!
んーっと、「戦闘職をとって事象の基本構造への理解を深める」・・・だったよな・・・。
戦闘職を取得するというのは明確だけど、後半の事象の~って部分は随分と曖昧な表現だな・・・。
だけどサポシスさんがいう事だから、この「曖昧さ」もきっと正確な情報なのだろう。つまり、元々設定されている取得条件が数値などで数値化できるようなものではなく、理解の程度という曖昧なものだからそんな表現になったのではなかろうか。うん、きっとそうだ。・・・そうですよね!?サポシスさん!
「肯定します」
ありがとうございますぅ。たすかりますぅ。
「・・・旦那、どうしたんだい?さっきから表情をコロコロ変えて・・・」
「え?あ、いや・・・ちょっとスネシスさんの機嫌を・・・じゃなかった。なんでもない、気にしないでくれ」
「?」
二人共気にしないでくれ、これ以上俺は彼女に対して失言することは出来ないんだ。今も一生懸命俺の深層から湧き出てくるツッコミたいという感情を必死に押し殺しているのだから・・・。
「ささ、はやいところ掃除を済ましてしまおうぜ!オリヴィエとミーナが帰ってくるまでに夕食も作ってしまいたいし」
そうして俺は不思議がる二人を促して掃除を進めることにした。
掃除自体は大量に水を使えることでそれほど時間を要することは無さそうだったので、ある程度目途がたったところで後は二人に任せ、俺は食事の準備に入ることにした。
といっても、痛みが早そうな食材は出発前に食べたり、トレイルの出発時に持っていって道中で調理して腹の中に納めたので、後は持っていった食材の残りと家に残していた野菜類が中心になるかな。
パンは万能酵母のおかげで窯の準備さえできてしまえばすぐに作れるから、まぁ量的に困ることはないだろう。
ここの所ずっと油物と肉料理ばかりだったから、そろそろ野菜中心のヘルシーなものだっていい。
折角楽しみにしてくれていたウィドーさんには申し訳ないけれど、食事にはいつでも招待できるしな。今度また彼女の勤め先である雑貨屋へ買い物に行った際にでも誘えばいいだろう。
とりあえず一番時間がかかりそうな窯の準備からとりかかるため、俺は家の外に出た。
オリヴィエが帰ってきて今日の食事を見た時には、ちょっと残念がってしまうかもな。
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