第113話 感情
あれから俺達の家に侵入した内の殺さずに捕縛した男達をファストの街に詳しいミーナに引き渡しを頼み、こんなことがあったばかりなので彼女一人では不安だったからオリヴィエに付き添いでついていってあげるように頼んだ。捕縛した当事者でもあるしね。
そして何故ここでウィドーさんが襲われていたのかというと・・・、
「頼まれていたものの納品をしに来たんだが、留守だったから少し待とうと思ったら・・・その時にあいつらがやってきてね・・・」
訪問が日暮れ間際になった理由を問うと、
「予定より材の加工と組み立てに時間がかかっちゃってね・・・申し訳ないから出来てすぐに持ってきたんだ」
「そうか・・・どちらにせよ注文していたのにそれをウィドーさんに伝えず家を空けてしまっていたこちらにも否がある・・・すまなかった」
俺が頭を下げると慌てたように手を交差させながら
「いやいやいや!旦那は悪くないよ。むしろこの時間を狙ってきたアタイが・・・」
「え?」
「い、いや・・・なんでもない」
と言った瞬間、
クゥゥゥ~~~~~
というなんとも緊張感のない音が辺りに響いた。
運悪く彼女の言葉が途切れた瞬間だったので、それ自体の音量は小さかったものの、森のざわめき位しかなかった環境の中では相対的によく聞こえてしまった。
「あ、あぅぅ・・・」
「・・・もしかして、ご飯の時間を狙ってきた?」
俺の言葉を聞いたウィドーさんはちょっと恨めしそうな目で俺を睨んだあと、俯き加減にして恥ずかしそうにコクリと頷いた。
「だ、だって・・・!こないだのご飯が凄い美味しかったからっ!」
「ナハハ・・・」
少女のように胸の前で両腕の肘から先だけをぶんぶん振りながら言うウィドーさん。
クールビューティーな印象が強かったんだけど、結構可愛い所もあるんだな。
「それじゃ、夕食はウチで食べていきなよ。・・・それに、その格好もそろそろなんとかしないとね」
「あ」
招待をした前半の言葉で喜んだ際にあられもない部分があられもなくなってしまったため、その後の俺の指摘で自分の姿に気がついたウィドーさんは恥ずかしそうに両腕でブロックした。・・・ちょっとそれじゃ防御しきれてないけどね。ありがとうございます。
「俺は一階の掃除をするから、申し訳ないけどアンジュはウィドーさんを二階の寝室に連れて行ってオリヴィエかミーナの服を適当に選んで着させてあげてくれないかな。置いてある場所は家具が少ないからすぐに見つかると思う」
「わかった」
「すまないね」
アンジュは服がボロボロなウィドーさんの腰にそっと優しく手を置いて家の中へ入るように促し、ウィドーさんもそれに素直に従った。
「さって・・・と」
二人を見送った俺は台所の方へと目をやる。
・・・うーん、正直あんまり気がのらないけど・・・やるしかないよなぁ・・・。
クズでクソな汚い盗賊なんかこの世にいらないんだから、活動を停止したらダンジョンのモンスターみたいに消えてなくなればいいのに・・・。死んでからも俺の手を煩わせるんじゃないよ、まったく・・・。
グチグチ言っていてもそれらは消えてなくなるわけではない。俺は重い足取りを渋々動かして我が家のキッチンへと向かった。
「・・・うーん、グロテスク」
現場をあらためて見渡して素直な感想が口からこぼれる。
だけど不思議なことに吐き気をもよおしたりして気分が悪くなるようなことはなかった。
こいつらを手にかけた直後にも思ったが、クズで不必要な存在とはいえ、彼らも区分としてはギリギリ人間というカテゴリーには入るはずだ。
ならば「人殺し」となった自分にショックの一つでも覚えるのかと思ったが、実際は全然そんなことはなかった。
なんでだろう・・・。
元々俺がそういう非道に対する耐性をもつサイコパスだったのか・・・それともこの世界に来て二週間ちょっとの間に、モンスターとはいえ生き物の命を奪い続けてきたことで抹殺者としての素質を獲得したのだろうか・・・。
うーん・・・こんなことは考えても答えなんて出ないし、意味ないか。
前者については俺は日本においては家に出た小さな蜘蛛くらいなら殺さずに逃がしてあげる程度には慈愛の精神を持っていたし、ないとは思うが、実際に人殺しなんてしたことはなかったから完全に否定も出来ないし、後者だったとしても、命が軽いこの世界において誰彼構わず人の命を奪うということに覚悟を持っていなければ、今回のような事態に遭遇した時、敵の命を奪うことを躊躇して自分の大切なものを失いかねない。
ならばそんなものは持っていない方がいい。
それは決して嬉々として殺人を行うということではない。
オリヴィエ達を失うくらいならば他者を葬ることに二の足を踏むようなことはしない・・・ということだ。
今回もアイツらの首を飛ばすことを躊躇していたら、俺に気がついた男がウィドーさんを盾にとって人質としていたかもしれない。
そうなればいくらステータスが高くても彼女を無傷で救えることは難しくなるかもれない・・・。俺の魔法やスキルに即死の類のものはないからな。
まぁ今日に関しては無傷で救えたかというと・・・少し遅かったかもしれないが、それでも彼女の命が助かるのであればあんなクズの命など何度でも消してやるさ。
どっちが尊いかなんて比べるだけウィドーさんに失礼だろ?
「よ・・・っと。死体は重いって聞いたことあるけど・・・ほんとなんだなぁ。ま、今の俺がほんとの意味で重いと思うほどじゃないけどね」
重いと思うほどの想いが主で表におもんぱかるYO。
と、くだらないことを言っている間に台所にある勝手口からゴミをみっつ外に放り投げた。
投擲する瞬間に思いっきり力を入れて森の方まで飛ばしてやろうかとも思ったが、こいつらも一応「証拠」なので家の周りに作ってある柵のそば位までで許してやった。感謝しろよ。
「あとは・・・この血をどうしようか・・・掃除道具って確かオリヴィエが揃えてたよな」
俺は道具を探しに二階へと向かう。
「おや?どうしたのだサトル。まさか・・・彼女の着替えを覗こうとしたのではないだろうな?」
「いや・・・」
「なんだい?旦那はワタシの裸を見たかったのかい?」
ここぞとばかりに意地悪そうな顔で茶化してくるウィドーさん。だが、
「うん、見たい」
「「なっ!?」」
そんなお母さんが中学生にする意地悪みたいなことがこの中年の心を持つ俺に通用すると思うなよ。ほんとに見たいしな。見してくれんの?
予想していなかった俺の返答に驚いたあと、真っ赤になって俯いてしまったウィドーさんと「ななな、なにを言っているのだ」とか「あなたは使徒としての自覚を・・・」とかアタフタしながら小姑のようなことを言っているアンジュ。
自覚を持てと言われてもまだ俺は完全に認知してないんだからねっ。そうじゃないかと思っているだけなのと完全に確信を持っているのとでは天と地の差があるのだよ、アンジュ君。
「まぁ二階には掃除道具を取りに来ただけだよ。台所があいつらのせいで汚れちゃったからな」
「全く!だったら彼女ではなく私の・・・え?あ、あぁ・・・掃除道具を、か。なるほどな」
ん?今キミなんて言おうとした?まぁええか。
「あ、それならワタシも手伝うよ」
「・・・大丈夫か?あそこには・・・」
「大丈夫さ。あの位のことでワタシはどうにかなるようなタマじゃないさね」
・・・強い人だな。
果たして男に襲われた直後にこういったことを言える人がどれほどいるだろうか。
比較対象に出会ったことはないけど、ほとんどの人は酷いショック状態になるんじゃないだろうか。なのに彼女はこんなにも・・・。
「ありがとう」
彼女が気丈であればあるほどもっとはやく助けられたのではと思う後悔も強くなるが、同時にどこか救われた気持ちになるのも確かだった。
だから俺は手伝いのことの以外にも色々な意味をその言葉に含ませ、言った。
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