第112話 捕縛

「うわあああぁぁぁーーーーん」


名前を呼ばれたウィドーさんは目の前に差し出された手と俺の顔をキョトンとした表情になり数秒間交互に見て、状況を理解した所で綺麗な顔をくちゃくちゃにして俺に抱き着いてきた。


こんな経験ないからどうしたらいいのか分からなかった俺は両手でバンザイの姿勢をとってしまったが、とりあえず泣いている彼女を慰める為に背中をポンポンしてあげた。


「おい!どうし・・・なんだおま・・・ギャッ!」


「てめぇ!なにしや・・・あひゃっ」


「ヒィ!ばけも・・・ぴゅ」


「や・・・やめ・・・あべし!」


階段の方からオリヴィエに圧倒されたのであろう男達の情けない断末魔が聞こえてくる。

人数分の悲鳴が聞こえて来たし、あっちも無事に制圧できたみたいだ。


男の怒号が聞こえてくる度にウィドーさんの体がビクビクッと反応していた。あのクールなウィドーさんがまるで幼児のようにギャン泣きしている・・・相当怖かったんだな。


俺が彼女の背中をポンポンさすさすしていたら、他のことに気を回せる余裕ができたからか、今までも俺の胸板に触れていたお胸の感覚が鎧越しにもだんだん伝わってきた。

しかも現在の彼女は装備解除されていて防御力がほぼ0なので、この感触はきっとおそらく直の生ってやつだろう。


このままなのは流石にマズイと思い、彼女の両肩を掴んで引き剝がした・・・のだが・・・、


「・・・あ」


その結果、メロンとチェリーのダブルコンボが俺の視界に入ってしまった。

誓って言おう、わざとではないと・・・。


だが、そんなことにウィドーさんは気がついていないのか、彼女は俺の目をウルウルした目でじっと見つめるばかりだった。まぁ今の今まで泣いていたんだから涙目なのは当たり前なのだがね。


しかしなんだろうね、この雰囲気。

まるでキスする前の恋人のような・・・。


「ご主人様」


「ひゃ、ひゃい!」


突然真後ろからかけられた言葉に体が飛び跳ねる。

振り向くとそこには無表情のオリヴィエが立っていた。


「そ、そっちのやつらも無事倒せたようだな」


「はい、あの程度の相手ならば問題になりようもありません」


俺が声をかけるとオリヴィエはニコッと笑顔を向けて答えた。

・・・なんかさっき一瞬だけめっちゃ怖い顔していたような・・・いや、気のせいだよな。


俺はなるべくウィドーさんの方を見ないように立ち上がり、とりあえず外でまだ警戒しているであろうミーナとアンジュと合流するために外へと向かった。


その道中でオリヴィエを配置していた二階へ続く階段の方を横目でチラリと見た。そこには四人の男の無残な惨殺死体が・・・あるわけでもなく、俺の予想とは違ってまるで何もなかったかのような様子だった。


「あれ、オリヴィエが倒したやつらはどこにやったんだ?」


「賊達ならば無力化して玄関の外に放り出しておきました。状況からして大丈夫だとは思いますが、全員を殺してしまうとこちらの言い分が通りにくくなる場合もあるかと思いまして」


なるほど・・・全員殺してしまうと俺達が無実の罪の人間をいわゆる「死人に口なし状態」にしたと思われるかもしれない・・・ってことか。そんなことまで全く気が回らなかったなぁ・・・さすがオリヴィエだぜ。


まぁ、オリヴィエ自身も言っていたけど、あくまでそれはかなり薄い確率で存在するだけであって、今回の場合は別に全員を殺してしまっても特に問題は起こらなかっただろうな。


俺達はファストに帰ってきたばかりだし、出発の時も帰還した時も門番のマーキンさんとは顔を合わせている。この街に居なかった人間が計画的殺人を行えるはずもないし、さらにこちらには被害者のウィドーさんも居るしな。


「サトル様!大丈夫でしたか!?・・・あれ?そちらの方は・・・」


外に出ると、ミーナが駆け寄ってきた。そしてそこにはオリヴィエの言う通り、四人の男がうめき声をあげていたり、気絶したりして倒れている。

ミーナは俺の後ろからおずおずとついてきたウィドーさんを見つけ、すぐに状況を察したようで、自分のカバンの中から大きめの布を取り出して服がボロボロになってしまっている彼女に心配そうにしながら肩にかけてあげていた。


「一応周りを軽く走って見回ってきたが、どうやら他に賊は居ないようだ」


「ありがとう、アンジュ。ミーナもな」


軽くとは言っていたが、アンジュがここに戻ってきたスピードと彼女の性格を鑑みると速度を活かしてかなりの範囲を索敵してきたんじゃないかと思う。話の端々から彼女は妥協をしない実直な印象を受けるしな。


俺はあらためて俺の家に侵入しやがった男達に視線を送り鑑定を使うと、四人全員が盗賊レベル1だった。


レベル1の盗賊初心者の分際で盗賊レベル56を持つ俺の家に入ろうなどと片腹痛いわ。

こういうのっていきなり空き巣とかやるんじゃなくて最初はスリとかからはじめるもんなんじゃないのか?知らんけど。


「しかし・・・この家を買って初めて少し家を空けたタイミングで丁度空き巣に入られるとはなぁ・・・。やっぱりこういう被害ってここじゃ結構多かったりするのか?」


「全くない・・・というわけではありませんが、ファストは真面目なマーキンさんが居るのであまり大きくない分他の街よりはわりと安全だと思います・・・」


だけど俺の家はそのわりと安全な地域で被害にあった・・・ということか・・・。この家が街から少し離れていることにも原因があったりするのかな?


「それじゃ今回はたまたま少ない被害のうちの一件になってしまったってことか」


「いえ、違うと思います」


偶然被害にあったという俺の言葉をすぐさまオリヴィエが否定した。


「ご主人様、彼らに見覚えはありませんか?」


「え?こんなブサイク共の知り合いなんて俺にはいないぞ。こんな世紀末にいっぱい居そうな雑魚キャラモヒカンヘアのやつも知らんし」


ってかオリヴィエにやられた四人目のやつは絶対お前だろ。お前だったらあの秘孔を突かれた時にしか出ない台詞も何か納得できそうだ。


「サトル様・・・この変な髪型の男は初めて見ましたが・・・他の三人は私も見覚えがあります」


え?ほんとに?

俺はミーナも知っているという男達の顔をあらためてよく見てみた。


「あ」


こいつら・・・確かに知ってる。

あれだ、あのいつだったか・・・ファストのダンジョンへ探索に入る前、声をかけてきてオリヴィエ達にいやらしい下卑た視線を向けやがったくっさい男達だ。


「あの時のやつらか・・・」


あれ?でもあの時のこいつらはレベル2とか3の戦士や剣士だったような・・・。

それじゃあの後に盗賊に落ちてこんなことをはじめたってことか?


「おそらく私達を監視していたのもこの男達だと思います」


「あー、そういやそんなこともあったなぁ」


あの時は結構警戒していたのだが、その後のギルドカードのことやらスタンピードのこととかですっかり忘れてたわ。


なるほど・・・俺達が出掛けた後に空き巣に入られたというのは決して偶然なんかじゃなく、散々付け回して監視して俺達が家を空けることを知って・・・。


「つまりはこいつらは計画的に犯行をおこなったってことか・・・」


コクリと頷くオリヴィエとミーナ。

それだったら盗賊レベル1なのも、もしかしたら空き巣に入る前に落ちたのではなく、この空き巣を実行したために盗賊へと落ちたのかもしれないな。ざまーない。






それにしても・・・俺は人を殺したというのに、全く負い目も感じてないどころかむしろゴミを掃除出来て清々した様な感じすらある。

俺にはこんなにも殺人に対しての適性があったのかと、少し怖くなったのだが・・・そんな気持ちもすぐに消え、今はどうでもよくなっていた。

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