第110話 贈呈
「サトル・・・彼女は一体何者なのだ・・・?」
「いや、俺もオリヴィエのことは詳しく知らん」
「ハァ・・・ハァ・・・オリヴィエさんは・・・速すぎます・・・」
「お、ミーナも来たな」
結局ファストの東門に着いたのはオリヴィエ、俺、アンジュ、ミーナの順だった。
オリヴィエが圧倒的一位で、俺とアンジュはほぼ同着、少し遅れてミーナが到着した。
本当は俺がステータスの差を見せつけてぶっちぎるつもりだったんだが、あんな反則的変態技を目の前で見せつけられて俺は序盤で戦意を喪失した。それ以降はわざとアンジュのペースに合わせて走り、ついでにファストに到着するまでに色々と話ながら来たというわけだ。
アンジュも最初こそオリヴィエに負けじと頑張っていたが、全くスピードを殺さずに真っ直ぐ突き進む異様な様を見て数分もしないうちに心が折れ、後は俺と一緒にそれなりの速度を維持して並走し、ここまで来た。
それなりと言ってももう少しでソニックブームが発生しちゃうんじゃないかと心配になる位、物凄い速度を出していた。まぁ実際にはそう思っただけで、音速なんかには全然届いていないと思うけどね。
ファストに近づいて森を抜け、街が見えて来たかどうかの場所でポツンと立っていたオリヴィエを発見した時は何で街のすぐ近くで待っていなかったのかと疑問だったが、彼女に聞くと「この力を人前で見せると驚かれると思って・・・」ということだった。
俺があまり目立ちたくないと言っていたのをちゃんと覚えていて、俺が気がつかないことにも気がついてくれるなんてオリヴィエはやっぱり気が効くよなぁ。
「ハァハァ・・・ふ~~・・・。みなさんあれだけ走り続けていたのに全然疲れてなさそうですね・・・」
両手を膝につき、乱れていた呼吸を何とか整えてから俺達に向かって感心したような、それでいてどこかちょっと呆れも見えるような微妙な顔をしたミーナが呟くように言った。
「サトルはかなり手加減していたようだし、私は普段からギルドの仕事をこなしていたからな。・・・それでもこの距離をこの時間で移動してしまった自分に驚いているがな・・・」
「やっぱりミーナはまだまだ体を動かすこと自体に慣れていない感じだな」
「そうですね・・・。私はこれまで戦闘はおろか、運動すら人よりもあまりしてこなかったですので・・・」
「大丈夫ですよミーナ、戦闘などはすぐに慣れます。私もそうでしたから」
うーむ・・・オリヴィエにそう言われても何か嫌味にしか聞こえないんだけど、物凄く屈託ない良い笑顔でミーナに語りかけている彼女を見るに、本人は純粋にそう思っているのだろうな。
・・・ミーナよ、俺に悲しそうな目を向けるのはよせ。オリヴィエにはきっと悪気は無いんだ。大丈夫。ミーナにあんな変態挙動は求めてないよ。まぁ頑張ろうぜ。お互いにな。
俺はしょんぼりしているミーナの肩をポンポンと叩き、無垢な心で無茶ぶりされた彼女を慰めてやった。
するとミーナはそんな俺の手にそっと自分の手を置き、「ありがとうございます」と小さな声で感謝の意を伝えてきた。
「それじゃ、見事一着で到着したオリヴィエにはこの「なんでもいうこときく券」を差し上げます」
「ありがとうございます!!」
ズボンのポケットに入れていた為、ちょっとしわしわになってしまっていた手書きの賞品を出すと、俺の目の前に瞬間移動したかのような素早さでオリヴィエが駆け寄ってそれを大事そうに受け取ると、それをまるで一万円札の透かしを見るように空に掲げ、破顔し且つキラキラした目で「なんでもいうこときく券」を見つめるオリヴィエ。嬉しそうでなによりです・・・が、
「重ねて言うが、それを使って聞く願いは俺が出来ることに限られるぞ。まぁちょっと頑張れば出来そうなこと位だったらいいけど、明らかに無茶なお願いは却下するからな」
「はい!」
俺の伝えた注意事項をこっちも見ずに空に掲げた券を見たまま元気よく返事するオリヴィエ。本当に大丈夫だろうな。世界征服した暁には半分よこせとか言われても、前半部分が既に破綻しているから即却下するからな。そんな願いをオリヴィエがするとは思えないけどね。
「オリヴィエさんはサトル様に何をお願いするのですか?」
「それはですねぇ・・・まだ内緒です」
ミーナに問われると掲げていた券を大事そうに胸に抱き、無邪気な笑顔で答えるオリヴィエ。
「んじゃ、家に帰ろうか。そろそろ日も暮れるだろうし」
そう自分で言った言葉で気がついたが、まだ日が暮れてないという事はゆっくり歩きながらだったとはいえ、行きで丸三日以上かかった道程をたった数時間で到着したということになる。
今日中に着くとは思ってはいたが、まさかここまでとはね・・・。一体時速何キロメートル出ていたのだろう・・・。
そんなことを考えながらファストの街の中へと入るべく東門へと近づくと、俺達を見つけた門番のマーキンが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「おい、お前達!大丈夫だったのか!?」
のほほんとした雰囲気で談笑しながら歩いてきたのに場違いの真逆なテンションで来たマーキンに対し、不思議に思っていた俺だったが・・・。
クイクイッと袖を引っ張られたので後ろを振り返ると、
「サトル様・・・私達はファストを出てから四日しか経っていませんので・・・」
あ~そっか・・・つまり、トレイルまで普通に行って片道三日以上かかるのにファストを出て四日目で帰ってきたとなると・・・道中で引き返したと思われたんだな。
しかも俺達が出発してから割とすぐのタイミングでトレイルからのスタンピード関連の注意喚起が出ているだろうし、そうなるとマーキンのこの反応も確かに納得できるな。
うーん・・・まぁそれなら勘違いさせたままでいっか。それ以外にこんなはやく街に帰ってきた理由も思いつかんしな。
「大丈夫だ。道中かなり魔物に襲われはしたが、このアンジェリーナさんに助けてもらったんだ」
「アンジェリーナさん!?サトル!なんだその他人行儀な呼び方は!」
こらぁアンジュぅ~。空気読まんかいっ。
「こちらのエルフの方に・・・か。・・・・・・なんかお前達、出発した時よりなんかやたらと装備が整ってないか?」
誰か、この細かいことに目ざとく気がついちゃう門番さんにピカッとするだけで記憶を改ざんする機械を使ってくれないだろうか。
「そうか?装備は出発前日までに用意していたぞ」
「あの日は朝もだいぶはやく出発しましたからね。暗くて気がつかなかったのではないでしょうか」
すかさず意図を汲んで話を合わせてくれるミーナ。アンジュは彼女の爪の垢とへそのゴマと枝毛の先端を煎じて口移して飲ませてもらった方がいいぞ。あ、口移しで飲ませてもらうのは俺もやってもらいたい。今度お願いしてみよう。
「そうか・・・?いや、そうだったのかもな・・・。最近は俺も気を張りっぱなしだったから疲れているのかもな。・・・とりあえず、君たちは通っていい。そこの・・・アンジェリーナさん・・・だったかな?キミにはこっちでチェックを受けてもらう」
「ほら、アンジェリーナさん。呼ばれてるよ。行っておいで」
「あ!また言った!こらサトル!私のことはアンジュと呼べと!・・・あ、おい、オリヴィエ、ミーナ!引っ張るな!私はサトルにぃ・・・!あたた・・・イタイ!ちょ・・・オリヴィエ・・・強いっ・・・強いって!」
そうして空気を読んだオリヴィエとミーナによって読めなかった金髪エルフが抵抗しながら連行されていった。
抵抗を続けていたアンジュに、最後の方はオリヴィエが笑顔で軽く関節を決めていたように見えた気がしたが、頬を緩ませた俺の頭の中で銀色の棒の先が閃光を放ったので、再び詰所から出て来た時にはそんな記憶はなかったことになっていたと思うのである。
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