第105話 評価
「ご主人様、先程はギルドで私の知らない名前がいっぱい出てきましたが、あれはいったい・・・」
「・・・ふっふっふ、あれはいい物だ」
「ダイチの特産物だろう?口にしたことはないが、とても高価なものらしいぞ」
コラ。せっかく電子レンジが必殺技で送り先相手と一緒に搭乗した男の台詞で濁したのにネタバレするんじゃありません。
アンジュが口にしたダイチっていう国なのか街なのかわからない地名は俺も知らないけど、そこで俺の注文内容が手に入るのならば記憶しておく価値はありそうだな。
「アンジュさん、ダイチではなくヤマトだと思いますよ」
くそう・・・記憶したのにすぐクリーンアップの対象になる情報だったとは・・・アンジュめ。
しかしヤマトって大和のことかな?ダイチと読み間違えたのだからたぶんそうだよな。だとしたら凄い日本っぽい名前だけど、この世界にもあるのかな?「なぜか異世界にある日本みたいな国」ってやつが。
だとしたら、俺の注文したあれやこれが存在する理由もわかる。
「んぐ・・・そ、そうともいうな!」
それは苦しい、苦しすぎるよアンジュさん・・・。
この世界は何故か日本語だからもちろん漢字も普通に使われている。それ故の読み間違いだったのだろうけどな。
「まぁ、なんにせよ俺が注文した品がちゃんと届けば色々と美味しいものが作れると思うぞ」
「本当ですか!?」
みんな、気をつけろ。あれは狩る側の目だ!
オリヴィエのやつ、久しぶりに獣人部分を剝き出しにしてきやがったな!可愛いじゃねぇか・・・キラキラさせやがって。
凄い勢いで俺に迫ってきたオリヴィエにたまらず半歩下がり両手で迫りくるハンターを押し戻す。
「お、おう・・・。こないだまでのは俺的には結構不満だったからな。期待してもらっても大丈夫だと思うぞ」
なんせ色々足りないものを省いたまま調理したものでもかなりの高評価だったからな。欲しいものが揃って望んだままのものが作れたのならば間違いなくいいねをいっぱい貰えるはずだ。チアーや色付きコメントだってきちゃうかもしれない。
「今までのよりも美味しいもの・・・これはまた商業ギルドが喉から手が出るほど欲しがりそうですね・・・」
既に喉から手が出ている娘が俺の目の前に居ますけどね。
「でもどれもこれも高価な物だって話だし、レシピを教えたところで完成品が高すぎて売れないんじゃないか?」
正確な値段はまだ聞いていないが、おおよその概算を聞いたところ、俺の今の全財産をはたいても全然買えないほどだったのだが、そこは先の件で迷惑料として値下げしてもらったりしてもらった。
それに、ミーナを買う時に対価として教えたフリットのレシピを活用してすでにだいぶ儲けているらしく、今後も安定した利益も見込まれているらしいので、ミーナの対価としてはかなりのものとなってしまったからそのことも大幅な値下げの理由にしてくれたようだ。
俺としては別にこれからもダンジョンで稼いでいくつもりだったから多少借金してもすぐに返せる自信はあったんだけどな。
スタンピードを被害なしで治めたことへの感謝の気持ちも言葉の端々から感じ取れたのでそれもあったのかもしれないな。
俺としても感謝の気持ちとお礼はこれからも遠慮なく受け取っていく所存ですので、そちらもどうぞ遠慮などせずどしどし申し出てくれよな!
あ、そこで遠巻きにこちらを見ている綺麗なおねいさん、君もウチに来るかい?俺には奥の手もあるから夜の戦いでは何人いても平気な自信があるんだZE。
その後もどんな料理なのかどんな味なのかとしつこく聞いてくるオリヴィエをひらりひらりと華麗に回避し、楽しみを来たるその時にまで持ち越すことに成功した俺と愉快な仲間達はカルロの待つ領主館に到着した。
中に入ると、正面玄関を入った時と途中で見かけた大きな部屋とその導線の豪華さに圧倒されたが、それよりももっと驚いたのがそれ以外の場所がそれまでの豪華さと打って変わって結構普通な感じだった。
内装的にはファストにあった白鯨亭とそんなに変わらない感じ、所々に申し訳程度に飾られた装飾品が貴族の館なのだと思い出させてくれる位だった。
本人曰く、「どうしても必要な部分以外は意味がないから金をかけていない」ということだ。
貴族としてそれはどうなのかと思ったが、たまに見かけた装飾品なども貴族の務めとして付き合いなどで購入した品なのかもしれない。
この屋敷を見ても彼の性格が見て取れるようだ。
どうしてカルロがこんな大きな街の領主なのに男爵といった貴族としては低い階級なのか疑問だったが、ここを見るとそれもなんとなく納得してしまう節がある。
無駄を抑えると言えば聞こえはいいが、貴族の下に群がる有象無象にとってはその無駄こそが美味しいのであってそこを律されたら彼らの旨味が消失してしまうことになる。そしてその有象無象の無能の中にも一部に何故か絶大な権力を握っていたりする者達が存在することも往々にあることだ。
そんな存在に旨味を与えないとなると、貴族社会では出世しづらいのかもしれないな。知らんけど。
知らんけど、たぶんきっとほんとにそんな感じなんじゃないかと思ってもいる。前の世界でも似たようなもんだったしな。
本当に会社を思って仕事を真面目にやっているやつほど出世せず、たいして仕事も出来ないのに、会議での発言や上司へのおべっかで上手く立ち回っているやつほどどんどん出世したりするもんだ。
ほんとは会議が重要じゃなくて、そこで出た決まり事や結論を履行することこそが重要なのに、トップの人間は履行した人間ではなく、会議で発案した人間のみを評価して出世させたりするのだ。何故ならそいつはトップの人間は現場などに来ることもせず、上がってきた報告書だけを見て判断し、自分が出席した会議に同席したその発案者しか知らなかったりする。
少なくとも俺が所属した会社はこんなんばっかりだった。
いくら現場で頑張ってもその評価は全部上司に持っていかれ、俺の働きはほぼすべてそいつの利益になっていた。しかも会議で出すべき議論もほとんど現場の人間から吸い上げた報告書をもとにして作成していたんだから笑えるよな。
俺がそんな会社に嫌気がさして辞めるって言われた時の上司はよくしてやったのにとかふざけたことをぬかしていたが、こっちの台詞だと言い返してやった瞬間に真っ赤になったそいつの顔を思い出すと今でも笑えるけど、その結果会社はそのまま何事もなかったように存続し、ただの中年ニートが誕生しただけだったのだから、俺も世渡りが下手くそだよな、と切ない気持ちになった記憶は結構新しいものだ。
俺は我慢できずに会社を去る決断をしたが、カルロはそんなことはせずに出世しづらい状況下でもちゃんと頑張っているようだ。
というか一企業の下っ端会社員だった俺と階級で言えば下から数えたほうがはやいとはいえ、ちゃんとした男爵という貴族であるカルロを比べるのは少し・・・いや、かなり違うか。
実際、カルロが全く評価されていないというのは違うだろうしな。そうじゃなければこんな重要そうな街の統治を任せたりはしないはずだ。
・・・なんか昔のことを思い出してたら悲しくなってきた。
いいもん、俺はこの世界を謳歌してやるもん。
「ご主人様?」
俺が人知れず昔を思い出して少し落ち込んでいたら、その小さな変化にオリヴィエが気がつき、心配した様子で俺に話しかけてきた。
「あ、いや・・・大丈夫だ。ありがとう」
こんな情けない過去を持つ俺にも、今では俺の事を思ってこんなにも優しく接してくれる人がいるのだ。・・・大事にしよう。
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