第100話 失念

 グギャアァァァァーーーーーーーーー!!!


相変わらずボリュームは凄まじいものの、これまでとは比べられない程、もはや悲痛さのようなものまでをも感じてしまうほどの叫び声をあげるアースドラゴンは、首を上下左右に振り、背筋を伸ばしたり丸めたりと地面を転げまわりはしないものの、そのダメージの大きさを体全体で表現していた。


「おー、斬れた斬れた」


最初の攻撃の時、俺の攻撃はアースドラゴンの硬い鱗を斬り、その下の皮膚にまで傷をつけたのだが、あの時の斬撃はそれほど力の入っていないものだった。

だから目一杯の斬撃を繰り出せば尻尾くらい斬れんじゃないかと思ったんだが、ここまでスパッと切れるとは思わなんだ。


恐らく剣を新調せずに最初に持っていた銅の剣のままだったらここまでの結果にならず、もしかしたら剣が折れてしまうことになったかもしれないな。カルロに後でお礼の一つでもしておくか。


俺が斬り飛ばしたアースドラゴンの尻尾はその膨大な遠心力で遥か後方の地面に落ち・・・うわ、なんか動いてないか?あれ。

巨大なトカゲみたいだとか思ってたけど、こいつほんとはドラゴンじゃなくてほんとにただでかいトカゲなんじゃねーのか?


・・・いや、トカゲは電撃を放たないし、牙も持ってないか。


 ガァルルァァァーーーー!!


ジタバタしていたアースドラゴンだったが、再び一つ咆哮をあげると、その動きを落ち着かせ、こちらを睨みつける。


「怒る気持ちもわからなくはないが、襲ってきたのはそっちだからな。俺は降りかかる火の粉を払っただけだぞ」


話が通じるとは思っていないが、やつの視線に非難の意思を向けられたのを感じたので、こちらも遺憾の意を返させてもらった。

今まで圧倒的強者の立ち位置に居ただろうアースドラゴンは恐らく自分が害されるなど微塵も思っていなかっただろうな。

なんでトレイルに来たのか知らないけど、襲ってきたからにはこちらにだって迎撃する権利はある。やられる覚悟もなしに襲ってきたらダメなんだからねッ!


俺の非難をちゃんと受け取ったからなのかはわからないが、アースドラゴンは眼光鋭く上目使いで俺の事を睨みつける。

すると、顎を引くことで俺に向けられる形になった頭の両端の角がまた閃光を放ち始めた。


「それはさっき見た!」


混戦時ならともかく、こんだけ真正面から睨み合ってる状態なのに全く同じ攻撃が通用すると思うなよ!


「ストーンバレット!」


照準をアースドラゴンの右側の角につけて魔法を放つと、俺の手のひらから石の礫が超高速で飛んで見事に命中する。


おおぉ・・・レベルが上がったからか魔法の威力も速度もなんか凄いな。

アースドラゴンの電撃を礫の衝撃でキャンセルできればいいかなくらいに思っていたのだが、俺が放った礫はその目標自体を貫き、折り飛ばしたのだった。


バチバチと帯電するように準備段階にあったアースドラゴンの電撃は角が折れると静かに周囲へ放電してしまい、それを攻撃に利用することはかなわなくなったようだ。


その間も両側から容赦ない槍の連続突きと短刀の華麗な舞いのような絶え間ない斬撃が竜の両脇腹を襲う。高レベルの二人が全力で攻撃するとあんな音がするんだな。このまま続けていたら武器の方がアースドラゴンより先にお亡くなりになるんじゃないかと思うほどの、ゲームの効果音みたいな音を発している。


自慢の範囲攻撃もそれを行うための尻尾自体を失ってしまっているため、両側に居る脅威を払う事すらできず、ただただ攻撃を受け続けている。

こうなってしまうと大きな体はただの的だな・・・。こちらからの攻撃を受け付けないならともかく、自慢の鱗も次々に剥がされ、次の攻撃で的確にその場所を狙い撃ちされる。


本来ほとんどの攻撃を高硬度の鱗による防御力で弾き、巨体を生かした大質量攻撃と、上空や範囲外からの攻撃にも電撃を飛ばすことで対処するという強敵の魔物なのだろうが、肝心の防御が通用しない相手はきっとこいつの想定外なのだろうな。周辺に対する有効な手段を失い、前進しようにも前には自慢の尻尾を一刀両断してしまうような人物が立ちはだかっている。


もはや音量の大きな咆哮を上げることすらなくなり、低い唸り声をあげながらどう行動していいのかわからなくなったのか、アースドラゴンはただよろよろと力なく後退している。


「・・・なんか可哀そうになってきたな・・・」


とはいってもこのまま見逃すわけにもいくまい。

俺達に怯えて森の奥に引き籠ってくれればいいが、変に恨みを持たれて回復した後に復讐に戻って来られたら嫌だし、その時に俺達がその場にいて対処できるかもわからんしな。


今も続く両脇腹容赦なしアタックはかなり痛そうだし。せめてもの情けだ、すぐに終わらせてやろう。


「恨むならここに来ようと決めた自分を恨めよ」


俺は素早くアースドラゴンの懐に飛び込むと、ジャンプして目標を目の前に捉え、剣を竜の首目掛けて振り下ろした。

尻尾を斬り飛ばした時とは違って文字通りの意味で地に足がついていない状態での攻撃となったため、もしかしたら目的達成には数回の攻撃が必要になるかと思ったが、いい方向で俺の予想は外れ、アースドラゴンの首はスパッと胴体とお別れをしてドスンと地面に落ちた。まだ落とした首と頭を失った胴体がピクピクと動いてる。キモっ。


「思ったよりも簡単に斬れたな・・・致命傷は与えられる自信はあったけど、まさか一撃とは・・・ってうわっ!」


俺は尻尾の時の感覚との相違に疑問を覚え、それを解明すべくまず自分のレベルを確認してみたのだが、原因はやはり俺のレベルの更なる上昇だったようで、俺のレベルは52になっていた。

連続討伐によるボーナスが乗算だというのはやはり正しいようで、俺達がアースドラゴンと戦っている最中にもどうやら残った魔物達の経験値ですでに高レベルだった俺のレベルも簡単に上がっていったようだ。

あ、そうしている最中にしぶとく生き残っていたアースドラゴンが全く動かなくなり、またレベルが3上ったな。


アースドラゴン自体の経験値量が多かったというのもあるだろうが、計算方法が掛け算である以上その取得量はどんどん加速していくのは当たり前なのだが、もうその上昇量はレベルが上昇することで増えていくものよりもはるかに上回っているようだ。

補正値がなくなったことでカルロとマルクの殲滅速度はかなり落ちたものの、スタンピードの魔物達相手ならば普通に倒せる実力は残っているようで、着実にその数を減らしている。アースドラゴンとの戦闘中に上ったレベルは彼らが倒したものが・・・ん?


あれ?そういえば、オリヴィエとミーナを除くメェンバーはあまりのレベルアップ速度にレベルが上がり過ぎるまずさを感じたためにすぐにPTから外したはずだ、だから俺のPTを外れたカルロ達が倒した魔物から得た経験値は、既に彼のPTメンバーでもない俺達には入ってこないはずなのだが・・・だとしたら何故アースドラゴンとの戦闘中もレベルが上がっていたのだろうか・・・。


その時、俺の視界には既に事切れ全く動かなくなったアースドラゴンの前足に刺さっていた矢が入ってきた。


「おーーーい!サトルぅぅぅーーー!」


後方から金髪エルフが弓を持った左手を大きく振り、なにやら嬉しそうにこちらに向かって走ってきた。


「あ」


やっべ・・・その存在を忘れていたわけではなかったのだが、アンジュを俺たちのPTから外すことを失念していた・・・。





恐る恐る鑑定を走り寄る彼女に使ってみたが、結果が映し出されたウィンドウのレベルの欄には54という数字が見えた。

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