第92話 装備

「ご主人様!どうですか?」


「うむ、シゴデキ感が凄くていい感じだ」


「シゴ・・・デキ?」


白銀の鎧に身を包んだオリヴィエがくるりと回って俺に感想を求めてきたが、返答が理解できなかったため困った顔で文字通り首を傾げるオリヴィエ。相変わらず可愛いよネ。

トレイルに着いてからというものずっとむさいおっさんとばっかり話していたから普段から可愛いのに相対効果でそのプリティーさが数倍になったように感じるね。

俺の理解できない単語は毎回不思議がるものの、特に追及してこないことをいいことに最近は説明も訂正もしていない。投げっぱなしジャーマンである。ちがうか。


「ミスリルが高価だというのは知識としてありましたが・・・なるほど、実際に手にしてみるとその理由がわかる気がしますね」


自らが持つ今まで使っていたのとは違う、少し凝った装飾のついた槍を見上げながら言うミーナ。

彼女もオリヴィエと同じ鎧に身を包み、可憐さを増していた。


「見た目よりも凄く軽いよな。それなのに強度は普通の鉄とは比べ物にならないという話だから凄いよな」


これで肩甲の部分が動きに合わせて伸び縮みなんかした日には戦闘民族をはじめとした宇宙の帝王達がデフォルトで装備しているあの鎧も出来るんじゃないかと思ったもんだが、さすがにあんなゴムみたいに自在に形を変えるようなことはなかった。

それでも鉄より強いのに凄く軽いこのミスリルの鎧は俺達の戦闘スタイルにも凄く合っていて気に入っている。



  ミスリル装備は装備している使用者の魔法効果を向上させます。



おお、そんな付加価値も付いてるのか。素晴らしいね。

こんなのがたいしたものは・・・なのはさすが貴族というところか・・・。





「気になったのですが、サトル殿のその装備は見た目とは違う、何か特別なものなのですか?」


冒険者ギルドを退出しようとした俺達を呼び止めたカルロは、装備のことについて聞いてきた。


「え?これは見た目通り普通の銅の剣・・・だと思うけど。防具はファストの店で買ったものだし・・・。あ、それと、敬語は使わなくていいからな」


丁寧な言葉使いが癖づいたりしてそれが誰かに聞かれたりしたら「なんでこいつは貴族に敬語を使われてるんだろう?」とかいらぬ詮索をされるかもしれないでしょっ。気をつけなさい。

ちなみに俺側が貴族に対して敬語を使っていないことにツッコミをいれたやつはあとで職員室まで来なさい。


剣は最初から持っていたやつだから、もしかしたらなんか特別な力を隠し持っているのかもしれないけど、鑑定で銅の剣ってだけ書いてあったしたぶん普通の銅の剣なはずだ。

もし違ったらこのところ凄い俺の意図を汲んでくれるサポシスさんから訂正が入るだろうしな。


「普通の・・・」


なんだ、なんか文句でもあんのか。

たしかに装備はいい物の方がいいんだろうけど、今のところは特に変える必要性がないから変えてないだけだしぃ。

そもそもファストに売ってる防御力の高そうな装備って持ってみた感じ凄い重かったり、動きづらそうなものばっかりだったから変えなかっただけだしぃ。

決して細かい装備更新がめんどくさかったとかじゃないんだからね。


「今は特に強い装備が必要と感じなかったから買いなおしてはなかったが、いいものが見つかれば購入しようと思っている」


「それならば我が家にある装備を提供させていただけないだろうか」


え?いいの?


「ありがたいが、無償でうけとるわけには・・・」


ほんとはすぐにでも飛びつきたい気持ちでいっぱいだったが、日本人的無駄な遠慮精神が脊髄反射で出てきてしまった。


「それならば今回の依頼の報酬の一部として受け取ってほしい。なーに、どうせすぐに用意できるのは使っていない余りものばかりなので使ってくれた方が死蔵させるよりいい。それに、その装備で少しでもトレイルの被害が減るならば安いものだ」


「そうか、それならありがたく受け取っておこう」


よかったぁー・・・。遠慮をまっすぐ受け止められなくて助かったぁ。

結果的に一回遠慮したことで俺の好感度が上がったか?・・・相手がカルロってんじゃ攻略のモチベーションは皆無だが・・・低いよりはいいだろ。


「それではいくつか見積もってきま・・・くるから待っててくれ」





そうしてカルロが持ってきた装備を俺達は今試着しているところだ。

全員が全身を同じ白銀装備で纏っている姿を見ていると凄い統一感が出るな。高級感がありすぎて冒険者のPTってよりもどこかの近衛兵みたいになってるけどな。


「ミスリルの装備をポンと出すなんてやっぱり貴族は凄いな」


正直この装備がどの位の価値を持っているのかを正確に把握しているわけではないが、ミスリルが安いとは思えないし、この装備の細かい場所には凝った装飾なんかも入っているから少なくともチープなものなんかではなく高級品なのだろう。安価なものに装飾なんかいれるわけないしな。

そんな装備を死蔵させるなんてカルロは相当な資産を持っているのかな?男爵って貴族の中では低い爵位だと思ったけど、貴族というだけでやはり平民とは全く違うものなんだな。


そんなことを考えていたら、ミーナが近くに寄ってきて俺に小さな声で囁いてきた。


「サトル様。いくら貴族といえど、ミスリルの装備を余りものとして所持しているはずがないと思います。おそらくはこちらに気を使ってのことでしょう」


「・・・なるほど」


つまり前者のは俺が受け取りやすくするための方便でとってつけたように言った後者の発言が真意か。俺に恩を売るっていうのもあるだろうが、やっぱり第一はこの街を守る確度を上げるための行動だったのだろう。


高価な物なのは間違いないだろうが、これで街が守れるかもしれないとなったら安いものなのだろう。実際俺達の戦力を上げることが一番の近道なのは間違いないだろうから、彼の選択は誤りではないはずだ。


俺としてもいい装備がタダで・・・いや、これはこの依頼をうけた報酬なのだから正当な対価か。ならば受け取っても全然問題ないはずだ。


「しかしどの装備もピッタリだな。よく見ただけで俺達に合ったものを選べ出せたもんだ」


ミスリル装備はミスリルの鎧の他に腕と手の甲を守るミスリルガントレットに、腰から太腿を覆う脚装備のミスリルレギンスと脛から下の足装備であるミスリルグリーヴがあったがそのどれもがジャストフィットって感じ。

この屋敷では見ただけで全身採寸が出来るようなスキルを持った人間でもいるのかな?・・・そんな限定的なスキル、やだな。


「装備というのはそういうものです。採寸などが大きく違わなければ装備者の体に合うようになりますよ。例えば体の大きな竜人族用にあつらえたものをドワーフ族が装備することは大きさが違いすぎて出来ませんが、体の大きな人族が装備することなら可能だと思います」


へー、それって装備が体に合わせて形状を変えるってこと?どんな原理でそんなことが起こるん?やっぱり魔法か?魔法なんか?便利すぎんか、魔法。


でもオリヴィエが当たり前のように「そういうもの」と言っているからこの世界では装備が体に合わせて変化するというのは常識的な現象で、当たり前の出来事なのだろう。重力があることに普通は疑問を持たない様に、そうなることが自然ならばそれに対して疑問を持つ方が難しいのかもしれないな。


ならば装備が装着者に合わせるのが普通でそうじゃない方が不自然というのがこの世界においての常識なのだろう。

オリヴィエが俺がそのことを知らないことを不思議がらないのは俺がこの世界の常識に疎いことを知っているからだ。これからもお願いします。


そういやこの白銀の感じ、細かい意匠や装飾は違うが材質や色はアンジュの装備している物と似ているから彼女のやつもミスリル製なのかな?

どっかの長の娘とか言ってたような気がするからああ見えて高級品を身に着ける位のお嬢様だったのかね。だとしたらだいぶなお転婆さんだけど。


その時、大きな音を立てて扉が開いた。


「カルロ様!」


軽装の装備だが、この街で見た衛兵と同系統の物を身にまとっているのでおそらくトレイルに配属されている兵士だろう。


「何事だ、騒々しい。今は俺の客人が居るのだぞ」


カルロが眉をひそめて飛び込んできた兵士に問いただす。


「も、申し訳ございません・・・急を要する報告でしたので・・・」


「・・・何だ、言ってみろ」


カルロはもうそれが何かをわかっている風な感じだな。まぁ今の状況なら当たり前か。






「スタンピードが発生しました」


悲壮な表情を浮かべながら兵士がそう報告した。

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