第88話 補正値
「この者たちがこの街で突出した実力を持つ者達だ。他にもいるにはいるが、今すぐに呼べる人材はこれがほぼすべてといってもいい」
ダスティンはギルドの一階大広間の中央部分に集まっていた者達に向かって手を広げ、俺にそれらを案内した。
示された先を見る。招集に応じて集まったであろう人物達は十数名で、その全員がギルドの中央に集まっていた。
先程そこに集まっていたすべての者に鑑定をしたが、レベル6以上の人物は話題に出ていた五人のみで、他はレベル5がちらほらと、残りはレベル4以下だった。
カルロとの手合わせでも思い知らされたが、実戦においての実力というのはレベルだけで計れるものではない・・・が、それでもやはりレベルの差が肉体的に与える影響は無視できるものではない。
実際、洗練された動きを見せたカルロの攻撃にも、実戦経験の浅い俺がレベルによる影響でもたらされた反射神経と身体能力のみで対処出来たのだ。
無意味・・・とは言わないが、レベルが上がる度に感じる能力の向上具合は短期間で実感している俺がよくわかっている。
何年もかけて一つずつレベルを上げたならその実感は薄いものになるかもしれないが、俺は数日で・・・それこそ毎日のようにレベルを上げてきたから自分の体が日々強化されていくのを実感し続けていた。
日本に居た頃と比べたら、もはや今の自分は映画などに登場しているような超人と同じような存在になっているのだと思う。
レベルがもたらすものを一番実感しているのは俺かもしれない。
だからこそ、それがすべてではないと思いながらもやはり無視することはできないのだ。
「そうしたら、赤髪の男と腕を組んでいるあの男と金髪のエルフの女性・・・それとあそこの窓際に立っている男をまた二階に呼んでくれるか?」
俺はギルドの入口側、その窓横の壁に背をつけて俺達の様子をじっと見ていた青髪の短髪の男を指をさして指名した。
「え、あの男を・・・?」
困惑するダスティンに黙って頷いてみせる。
彼からすれば、突然自分が呼んでいない人物を呼べと言われたのだ、そら困惑するだろうな。
だが、あの男は外せない。
なぜならあいつはこのダスティンと同じ、レベル8の戦士だったからだ。
一階に降りた時に真っ先に集合している人物すべてに鑑定をかけた後、念のためと思ってギルド内に居た他の冒険者にも鑑定を使っておいたところ、大体が2~3レベルだったのに、一人だけやたらと高いレベルの冒険者を見つけたのだ。
名前はマルク。優男のイケメンの雰囲気に似合わない大剣を背負っているが、よく見ると鎧から少しのぞかせている二の腕なんかは筋肉がしっかりとついている。
ダスティンがマルクに近寄り声をかけると、ピクリと眉を動かして、何故かこちらをじっと見つめてきた。
男と見つめあって喜ぶ趣味はないので、俺はバッチリあってしまった視線を外し、さっきまでいたギルドマスターの部屋へと戻る。
「それで、あの者たちを使ってどう今回の事態を乗り越えるのだ?」
一足先に戻っていたカルロが部屋に入ってきたばかりの俺に質問を投げかけて来た。
「ちょうどいい、下の冒険者が戻ってくる前に先に男爵に実感してもらおう。とりあえず、俺のパーティーに入ってみてくれ。あ、男爵って今どっかのパーティーに入っていたりする?
「パーティーか?いや、入ってはおらんが・・・しかしそれなら先程一階に行った時に・・・」
説明するのはめんどくさいからカルロの話の途中で彼をパーティーに加えようと念じる。久しぶりのパーティー設定変更だ。
「むっ!?・・・りょ、了解した」
訝し気な表情を浮かべていたが、俺のパーティーに入ることを承諾したカルロ。
そういやオリヴィエとミーナの時もそうだったが、このパーティーに入るか入らないかの問いかけってどういう風にやっているんだろうな。
サポシスさんのような声が頭の中で語りかけてきてたりするんだろうか。
「・・・こ、これは・・・!?」
パーティーに入ったカルロは自分の両手を見ながら何かに驚いている。
何も感じていなそうだったら何かで実感してもらおうかと思っていたけど、どうやら必要なさそうだな。
職業にはステータスを上昇してくれる補正値が付いていることはこれまでの検証でほぼ間違いないと思っている。
だからマルチジョブのボーナススキルで六つの職業を同時につけていて、プラスでオリヴィエとミーナの二つで合計八つ。ここまではフルパーティーでもあり得るのだが、さらに現在はカルロが入ったことで九人分もの補正値が上乗せされた。
しかも俺達のレベルはかなりの実力者でもある彼よりもさらに高いのだ。補正値もその分上がっていることだろう。
今カルロはかつてないステータスの向上による実力の向上を実感しているはずだ。
「どうだ?これならかなりいけそうだと思わないか?」
「・・・」
あれ、大丈夫だと思ったけど、困惑したまま動きも表情もフリーズして返事が返ってこなくなってしまった。ちょっとだけプルプルしているか・・・?
なんだ?急なステータス上昇でお腹でも痛くなったか?
「お、お前・・・いや、貴方様はもしや!?」
この反応・・・どっかで、いや、俺だってまだ耄碌する程年を取ったつもりはない。つい先日後ろの二人にも同じ反応をされたんだから、心当たりはある。
だけど、なんでそんなにみんな鋭いんだ?そんなに変なことしたかな?
「あ・・・いや、これはなるべく内密にしていただきたい。出来ればこれからくる冒険者達にも男爵の方から厳命してくれると助かる。じゃなければ俺はこの戦いに助力することは出来ないと思ってくれ」
もうこの際だ。変に否定すると要らぬ憶測を生んでしまうだろうし、ここはこの事態を利用して俺の特殊性を男爵に口封じしてもらった方がいいだろう。
どうせ俺の力をフルに利用しないとこの事態を乗り切ることは出来ないだろうし、手加減なんかして逆に俺達の身に危険が及ぶようなことになったら身も蓋もない。
だったら最初から全力で出来ることをして協力した方が、それが自分達の身の安全にもつながるだろう。
使徒だのなんだのと思われる位は別にどうってことないさ。命あっての物種だしね。
「わ、わかりました・・・。私に出来ることは何でもいたしましょう」
後ろで控えているオリヴィエがなんか満足そうにウンウンと頷いている。やっとわかりましたか、的な声が聞こえてくる気がするわ。俺はわかってほしくなかったんだけど。
「敬語も辞めてくれ、ただの平民だと思って接してくれるとありがたい」
「いや、それは・・・。い、いえ・・・そうですね。わかりまし・・・わかった」
「ありがとう」
俺がお礼を言うと、カルロは少し驚いた顔をして・・・うわっ、頬を高揚させるなよ。おっさんの照れ顔なんか見たくもないぞ。
・・・とはいってもカルロは38歳だから、前の世界の俺よりも年下なんだよな・・・全然見えないけど。苦労してるとやっぱり顔とかに出るのかな。
するとガチャリと音を鳴らし、部屋の扉が開いてダスティンが戻ってきた。後に続いて先程俺が指名した四人の男女も入ってくる。
「連れてまいりました」
ダスティンがカルロにそう言うと、彼は立ち上がって入ってきた冒険者達に体を
向けた。
「よくぞ呼びかけに応じ集まってくれた。まずは礼を言わせてくれ。今回来てもらった理由だが、おそらく日々様々な依頼をこなしている君たちも薄々気が付いていることだろう」
一つ間を置いて、続ける。
「このトレイルの西、グラウ大森林でスタンピードが発生した」
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