第87話 呼び出し

「おお!協力してくれるか!」


「今は少しでも戦力が欲しい時・・・これで少しは・・・」


カルロとダスティンは表面上は歓喜の表情を浮かべてはいるが、二人共がそれに少し影があるような気がする。

おそらくだが、まだまだ人手が足りないのだろう。心の底から喜びきれていないのが見て取れ、それが今回の問題の大きさを物語っていた。


「もう一つ聞きたいことがあるんだが、今回のスタンピードで襲撃してくる魔物の数というのは予想がつくものなのか?」


ある意味これが一番重要である。いくら俺達が問題なく対処できる魔物達の襲来といっても、その数が千や万を超えるようなものだとしたら、それはもう俺達がいくら強くても対処するのは不可能というものだ。

俺の範囲魔法の攻撃範囲はせいぜい密集している魔物だった場合でも4~5匹がやっとだ。ある程度の間隔を空けられたりしたら半分以下になるだろう。


よくある爆裂魔法のような広大なエリアを対象としたものも出来ないだろうかと試してみたこともあったが、そういった魔法がないのか、はたまた俺のレベル不足かはわからないけど、上手くはいかなかった。


もしかしたらもっと色々試行錯誤してみれば出来るかもしれないが、ダンジョンをメインに活動している俺達にはそんなに必要な場面は少ないと思っていたからあまり時間はかけていなかったのだ。ダンジョンでキノコ雲を作るような魔法なんて使ったって意味ないしな。


「ダンジョンが起こすタンピードは初回の場合、どこも大体同程度の襲撃となる。その魔物の数はおよそ二百だそうだ・・・」


カルロが悲壮感をにじませて返答してくる。その事実をあらためて突き付けられたダスティンは俯いてしまっていた。


「トレイル防衛につける人数はどの位なんだ?」


「ここは交易の要所ではあるが、一番近い国境は危険の少ないアリア神国なため、常駐している兵士は多くない。ほぼ全量動員しても150名程だ。だが、グラウ大森林の入口にあるダンジョンとその周辺で稼いでいたり、多くの護衛任務を目的にしている冒険者はかなり多い」


「冒険者への動員要請は私が責任をもって行います。なんとか50・・・いや、70人は集めて見せましょう」


「全員合わせても魔物と同数かちょっと多い位か・・・」


この世界の普通の人達は、少数の魔物をフルパーティー、つまり八人で対処するというのが当たり前で、その数を揃えてやっと安定した狩りが行える。

つまり、今回襲撃してくる二百匹の魔物を安全に対処するには単純計算で八百人から千人規模の人数が必要となる計算だ。


数だけいれば大丈夫というものでもないが、やはり数は力だし、数には数で対処するというのは基本だろう。

だからこそ、現状の数ではとても足りないということは二人共わかっているからこそ、今の表情なのだろう。


「なるほど。なんとかなるかもしれんな」


「「「「え?」」」」


この場にいる全員がハモった。カルロやダスティンに加えてここまで後ろで静かに控えていたオリヴィエとミーナまで声を揃えやがった。


まぁそうか。

普通に考えれば今の状況はかなり厳しいものだしな。


「個人の実力に定評のある冒険者や兵士をなるべく多く集めてくれないだろうか」


「集めて・・・どうするのだ?」


「ちょっとな・・・確認したいことがある」


「ふむ・・・」


俺の考えを読もうと思慮して黙っているカルロの代わりに、ダスティンが口を開いた。


「兵士は基本的な訓練は日常的に行ってはいますが、日頃からダンジョンなどで実戦を行っている冒険者に比べると、個々の実力はどうしても見劣りしてしまいますので、個人の・・・ということであれば冒険者の中から選出するのがいいのではないでしょうか」


「そうだな、頼めるか。ダスティン」


「丁度、西と北に向かう護衛依頼がすべてキャンセルとなり、森へ入ることも禁止しているので多くの冒険者がこのギルドと街に滞在しております。すぐに使いの者を出すので、少しお待ちいただければ心当たりのある人物を集めてみせましょう」


そういって、早速ダスティンが部屋の外へ出て、ギルド職員に大声で指示を出し始めた。

部屋に残って俺とテーブル越しに対面したままのカルロは、暗い表情のまま話しかけてきた。


「ほんとうにどうにかなるのか?」


「全く被害を出さないというわけにはいかないだろうが、少なくとも街が壊滅するようなことにはならないと思うぞ。・・・ちゃんとした人材が五人・・・いや、少なくとも後三人居れば、だがな」



そして、そのまま待つこと三十分程で再びダスティンが部屋に入ってきた。


「お待たせいたしました。現在滞在中で腕の立つ冒険者をギルドの一階に集めております」


はやいな・・・。逼迫した状況が行動の迅速さに繋がっているのかもしれないが、それでもこの広いトレイルの街中のどこにいるかもわからない、目的の人物達を一か所に集める時間としてはかなりはやいといえよう。


正直助かった。

待っている間、カルロの俺に対する興味がとどまるところを知らず、そろそろはぐらかすのもきつくなってきたところだったのだ。

そもそも貴族のカルロがなんで一般ピーポーの俺なんかに興味をもったりするのかね。

俺の方は興味なんてこれっぽっちもないんだけどな。


「それじゃ、下へ行きましょう」


早く行こう。すぐ行こう。

俺はカルロにそう促してソファーから立つ。

もう生まれはどこだのどうやってここに来ただの、俺にだってわからない質問をされるのは嫌だ。答えようがないだろ、そんなん。

二週間前に草原の木のそばでぽっと生まれましたって正直に言ったりしたら頭おかしいとしか思われないこと間違いなしだし。



俺達はギルドマスターの部屋を出て階段を降りる。

すると一階の広場では街に居る兵士とは違って種族も性別も装備すらもバラバラで個性豊かな人達が集まっていた。


「なんだなんだ?ミゲルにクロード・・・アンジェリーナまでいるじゃねーか。全員俺と同じでギルドに呼び出し食らったくちか?」


禿げ頭で斧を背負った筋骨隆々の男が周りを見渡しながら集まったそれぞれの人物名を口に出していた。


「うるさいぞ、ダズ。こっちは依頼がキャンセル食らってイライラしてるんだ」


禿げのダズにミゲルと呼ばれていた赤髪の男が腕を組んでクレームを入れる。

赤髪って元の世界だと天然物は存在するはずもなく、もれなく全員染料で作った色だったからどんな人でもコスプレ感がどうしても出てしまっていたが、やっぱり本物って違うんだな。全然違和感ねーや。


「急いで来いと言われたが・・・一体どんな要件で俺達を集めたんだ?アンジェリーナは何か聞いているか?」


鉢巻を頭に巻き、他の全員が鎧姿の中でこの男だけがゆったりとした服を身に着けている。


「決まり切ったことを聞くな。どう考えてもここのところ頻発している異常な魔物の出現に関することだろう」


アンジェリーナと呼ばれた女性・・・男勝りな言葉使いだが、白銀の鎧がよく似合う金髪の・・・エルフだ。

やっべぇ・・・すげえ美人。アニメなんかでは大体美男美女で描かれることが多い種族だが、どうやらこの世界でもエルフは美形らしいな。


鑑定で見た情報は、禿げ頭のダズが斧使いLv6。

赤髪のミゲルが剣士Lv6で鉢巻き姿の男はクロードという名で拳闘士Lv7。

そしてエルフで金髪美女のアンジェリーナが・・・おお、弓使いLv11か!


あれ・・・でも彼女、年齢が・・・。





種族の特性かなんかで若く見えるのか、はたまた彼女の若作りする技術が高いのか・・・。まぁ俺からしたらその年齢でも十分ストライクゾーンだから問題ないです。


俺からしたら、だけどね。

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