第83話 報告
「エリン!ダスティンはいるか!?」
「カルロ様!?ギルマスは今二階で会議中です」
トレイルの中に入ると、碌に街の様子も見る暇もなく冒険者ギルドへと連行された。
カルロという門番はギルドの中に入るなり、エリンという金髪ツインテールの受付嬢に大声で問いかけた。怒鳴られたに近い声量で突然話しかけられたエリンはビクッとしながらもキチンと質問に答えていた。
ギルドの中に居た職員達も何やら忙しそうに動き回っていたり、冒険者達は真剣な表情で仲間達と話していたが、何事かとカルロの方に振り向くも、どうやら彼はここに居る人間にはよく知られた人物らしく、彼を一瞥しただけで各々が自分の仕事や仲間との会話に戻っていった。
「そうか・・・サトル殿行こう」
クイルで調べた俺の名前を呼ぶのはいいけど、なんでそんな敬称なのかまったくわからんが、不快になる蔑称でもないから特に拒否する必要もないよな。
俺はカルロに頷いて見せてから、彼の後に着いていく。
彼はこの大きな街の門番を任されるだけあって、レベルもファストのマーキンよりも高いLv10だ。職業は見た目通りに槍使い。俺達のPT以外ではこの世界で見たどの人物よりも戦闘職のレベルが高い。
同じ職業のミーナに及ばないとはいっても、俺達は俺のチートで経験値をブーストしているから比較するのは違う。
経験値倍増のボーナススキルがない状態でレベル10まであげろと言われたら大変という二文字では言い表せられない努力が必要だろうな。
しかもこの世界の人間はレベルという概念を知らないから魔物を倒すことが実力の向上の近道となるということも知らない状態なのだ。
だから実力向上を図る場合はこの世界ではダンジョンに入ったり魔物と戦うことが一番なのだが、それを知らなかったら多くの時間を訓練などに充てたりしてしまうだろう。
それが無駄だとは言わないが、レベルを上げるという目的に関しては遠回りであることに変わりはない。
そんな中でレベル10になっている彼は魔物と積極的に戦っていたのだろう。
35歳という年齢から考えてもそのくらいでないと二桁のレベルに到達することはかなり難しいように思う。
俺は二週間でレベル14だが、これはボーナススキルのおかげだ。20倍を単純計算すると280日になって1年足らずでいけるように思うかもしれないが、それを達成するには俺達と同じ速度でモンスターを狩らなければならない。
マルチジョブも魔法使いもいない状態でそれを達成するのはおそらく無理だ。
それだけ俺の持つボーナススキルが強力だということだな。
カルロの後についていってギルドの左奥にあった階段を登り、右手に進んだ突き当りに両開きの大きな扉があり、そこをノックもせずに突き開けるカルロ。
「ダスティンはおるか!」
えぇ・・・いくら緊急事態でよく知った仲だとしても街の門番がギルドのマスターの部屋にそんな入り方してもいいもんなのか?日本だったら警備員が勤め先の同級生の社長のところにへーい!とかいって入るようなもんだろ?
ちゃんとクビが飛ぶぞ。こっちの世界じゃ職だけじゃなくて実物が飛びそうでこっちがこええわ。
「な・・・!?」
ほらー・・・強面のおっさんが非常識な行動に驚愕の表情してるだろぉ。俺は知らんからな。
「カルロ様!?そんなに慌てて如何なされましたか」
あれ?受付嬢が~様とかいうのは形式上不自然なものではないから特に気にしなかったけど、ギルドマスターである彼がその敬称を使うという事は・・・もしかして。
「西門でグラウ大森林の様子を確認していたところ、この者達が街道より現れてな・・・」
「なっ!あなたはまた護衛もつけずにそんなところにお一人で行ってらしたのですか!?こないだセバスにあれだけ注意されていたというのに・・・」
あれ、やっぱりこの人って門番なんかじゃなかったのかな?なんか名前だけで執事とわかるような全次元執事界No1みたいな名前も出て来たし・・・。
ギルドマスターのダスティンは頭が痛いのか、額に手を当てて首を左右に振っていた。
お、この人もわりとレベルが高いな。戦士Lv8だ。
なんか体型もがっちりしているし、元冒険者か兵士かなんかだったのだろうか。
「今は緊急事態だ、捨ておけ。それよりも・・・このサトル殿がオーガと遭遇したようなのだ」
「緊急事態という言い訳は前にも・・・って、オーガ!?」
座っていた机に両手をバンっと叩きつけてその身を起こし、カルロに目を剥く。
「それが本当ならばすぐに兵の手配を・・・いや、この状況ならば冒険者の動員要請も・・・」
「いや、それには及ばん。オーガはこの者たちがすでに討伐したようだ」
そう言って俺が渡していたオーガの牙をコトリと机の上に置いた。
「なっ・・・!?この若者たちがオーガを!?」
「若くして戦士の適性を持っていた。おそらく後ろの二人も・・・」
特に隠す必要も感じないし、オーガを倒したのが俺一人だったら話が変な方向にいっても嫌だったから俺はカルロの問いに頷いて返した。
「それにしてもオーガをたった三人で・・・信じられん・・・」
「俺は疑ってはいないが・・・たしかに、討伐証明を持っていたというだけでは周りを納得させられる材料としては不足しているかもしれんな」
なんでカルロが俺に信をおいてくれるのかはわからないが、言っていることは間違いないだろうな。一匹でも兵の動員がかかるという話のオーガをこんな若い三人が討伐したなんて話は普通だったら信じられないだろう。
・・・俺が自分のことを若者という日が再び来るとはな・・・。心はずっと少年だったけどね。
でも、俺のような鑑定を使える人物がいない限り、俺達の実力をこの場ですぐに計るようなことは出来ないだろうな。
「そうですね。この報告を議題に上げるには少しその信用を欠くかもしれません。私が無理矢理押し通すことも出来るとは思いますが、その場合は職員や冒険者は要らぬ疑念を持ったままになり、仕事の精彩を欠くことになるかもしれません」
強力な魔物が出た・・・という報告をすることは簡単だが、その報告が信用に値するものでなければその対応をすること自体に疑問を抱く者も出るかもしれない。そしてそういうものが複数人居てしまっては、まともな仕事など出来るはずがない・・・ということなのだろう。
「ふむ・・・サトル殿。申し訳ないが、このギルドの訓練場で俺と手合わせしていただけないだろうか」
あー、そうだよな・・・鑑定を使わずに実力を計るんだったらそういった手段になってしまうか・・・。
んー、まぁこの人と戦えるところを見せればその場で納得してくれるんだったらやってもいいか。この後外にでて実際にオーガを倒して見せろとか言われたらめんどくさいしな。
「わかった。でも俺は人と戦ったことがないから怪我をさせてしまうかもしれないぞ」
「お、おい!お前・・・!」
「大丈夫だ。ポーションの準備もある。存分に力をふるってもらって構わないぞ」
おー、すっごい自信だな。さすがレベル10。でもそうは言っても俺はレベル14×5+9だからな、手加減は必要だろう。
「了解だ」
俺が了承すると、カルロはついてこいとばかりに顎で示し、颯爽と扉を出ていったので俺達はそれに続いていった。
うーん、俺達の目的地はこの街の商業ギルドとオルセンだったはずなのだが・・・全然違う場所で、今日会ったばかりの門番(?)と戦うことになるとか・・・どうしてこうなってしまったのだろう。
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