第81話 オーガ

逃げる・・・という選択肢も頭に浮かんだが、その場合は恐らく荷物をすべて捨てないと無理だ。レベルの恩恵で荷物の重さを感じにくいとは言っても、動きは制限されるし、速度も落ちる。


「オリヴィエとミーナは少し下がっていてくれ、まずは少し相手の強さを確認してみる。・・・万が一、俺が勝てなそうだったらすぐに逃げるんだ」


ダンジョンの様に階層を進めるにつれ、強さが増していくような場所であればある程度敵の強さに検討もつくが、外で出会った新しいモンスターで、しかも今回のように見た目からして脅威を感じる相手の場合は俺達のパーティーの中で一番

レベルの高い俺が相手してその脅威度を計った方がいいだろう。

オリヴィエ達にもしもがあったら今の俺はきっと自分がやられる以上に耐えられない状態になる。色々な意味でな。


「そんな!私達も戦います!」


「サトル様お一人で向かわせるわけには・・・!」


二人が珍しく俺の指示に抵抗してくる。でもこの抵抗は俺の為を想ってくれてのものとわかるから、こんな状態でも嬉しいね。

だが、その想いが逆に俺の意思を固める。


「ダメだ。今回は指示に従ってくれ。大丈夫、さっきも言ったが相手の実力を確認するだけだ。行けそうだったら二人にも加勢を頼むから準備していてくれ」


「・・・しかし!」


「オリヴィエ、頼む」


「・・・わかりました」


食い下がってくるオリヴィエだったが、そんな間にもオーガは俺達の方に向かってきている。オリヴィエも意見交換している時間などないことは分かってたから引き下がってくれたのかもしれない。


そしていよいよオーガが5m位まで迫った時、



 グゥオォォォォーー!!



腹の底に響くような雄叫びをあげながらこん棒を振り上げて走ってきた。


二人の前だから結構冷静に対処はしているが、もし俺一人だったらちびってるんじゃないかと思うくらいには大迫力だ。


早鐘を撃つ俺の心臓が自身の緊張を知らせてくる。こんな感じになるのはこの世界を現実と認識した後の初戦と、オリヴィエを救い出したファスト東の街道でのあの戦い以来だな・・・。


「ふぅ・・・おし!」


一つ息を深く吐き、動揺を抑えつつ、戦闘態勢をとる。


オーガはこん棒の射程内にまで迫り、左手の振りかぶったままだったそれを俺に向かって振り下ろす。

見え見えのそんな攻撃をわざわざ受ける必要もない。そのままオーガとすれ違うような形でこん棒を躱すと同時に右胴を横なぎで斬りつける。



 ガァアァァァー!!



重低音の雄叫びが響くと同時に紫色の血が噴き出す。


これは・・・いや、結論は急がない方がいいか。ここは慎重にいこう。


まだ完全にこちらに正対していないオーガに、今度はこちらから仕掛ける。

斬りつけられた横っ腹を抑えながら俺の通り抜けていない側から振り向こうとしたオーガは、その過程でこん棒を持っていた左手が俺の目の前を横切る形となり、俺の攻撃するタイミングに絶好の位置に来たそれを逃さずに剣を薙ぐ。


振り向きのタイミングと重なったことでかなりクリティカルな攻撃となった俺の斬撃は太いオーガの左腕を斬り飛ばした。


手から離れたこん棒が俺の後ろでドスンと音を立てて地面に落ちる。


・・・なるほどな。


「オリヴィエ!ミーナ!援護するからこいつと戦ってみろ!」


「はい!」


「えっ・・・えっ?・・・あ、はい!」


俺の突然の指示にミーナはかなり動揺している様子だが、あれだけ入念に強敵フラグを立ててからのものだからしょうがなくはある。むしろ即座に答えて既に行動にすら移しているオリヴィエの方が特異なのだろう。


オリヴィエは俺の指示後すでに飛び出して激痛に悶えるオーガに斬りかかっている。二度三度と素早く攻撃を繰り出しているうちに、遅れてきたミーナも槍の突きをオーガの太腿に突き刺していた。


このオーガ。たぶん強さは俺達が現在探索中のダンジョン6層のモンスターと同じ位だと思う。だが、ほぼ必ず複数体で遭遇するダンジョンよりも今回のオーガは単体な分、かなり余裕だった。

重厚な装備などはつけずに身軽な装備で素早く立ち回ることを主軸としてきたうちのパーティーにはパワータイプの鈍重なこのオーガのような相手はむしろやりやすい。


少ない手数の中でオーガの脅威度は低いという判定を下して二人の参戦を許可したわけだ。


こちらの攻撃が通らなかったら鈍重な攻撃であってもかなり苦戦を強いられることになるだろうが、先程の俺の攻撃はもちろん、オリヴィエとミーナの攻撃もキチンと現在進行形でオーガの肉を削ぎ続けている。


「ファイアーボール!」


あの大きなこん棒を食らって致命傷になったとき、ヒールが使えないと困ると思っていつもは先撃ちしている攻撃魔法も使わずにいたが、どうやらその心配もないようなので、今はオリヴィエの斬撃を食らいながらもなんとか残った右腕から拳を振り下ろしているが、その全てを見事に躱され、ただ地面に拳型の凹みを量産するばかりで俺に背を向けた状態の無防備な背中に火の玉を放つ。


すると、オーガは大きく見開いた目をぐるりと上に回し、白目を剝いたままズドーンと音を立て、虚脱した巨体を前のめりに倒した。


「ふむ、見た目の威圧感の割にはたいしたことはなかったな」


「強くなっていたとは思っていましたが、まさかオーガと戦える程になっているとは・・・」


「ご主人様が一緒ですからね」


「戦ってみた感じ、俺達が行っているダンジョン6層の魔物と同じ位の強さだったな」


「なるほど・・・だから私達にも戦えとおっしゃったのですね」


ここのところずっと戦い通しだったからか、最近では攻撃した際の剣の感触でなんとなくの敵の強さを計れるようになってきた。この辺もゲームではわからない現実の世界ならではのものなのだろうな。


攻撃も受けて見ようかとも一瞬頭をよぎったが、普通に痛そうだからやめた。だってあんな丸太みたいなこん棒を力量を計るという目的だけでわざと受けるなんて馬鹿らしい。攻撃した際の手応えでおおよそは分かるのだからそこまでする必要もないだろう。


「しかし、何故こんな場所にオーガが・・・」


「普通は出会わないものなのか?」


「そうですね。少なくとも私はファストとトレイルの街道にオーガが現れたという話は聞いたことがありません」


やはりフェロモンか?可愛い子ならいくらでも寄ってきてもいいけど、こんなでっかい緑の巨漢は要りません。

そんなことを思いながらオーガを見つめていたら、倒れているオーガにオリヴィエが歩き出し、突然オーガの下顎から生えている牙をククリの柄で叩き折りはじめた。


そしてその牙を手の平に乗せて俺に差し出す。

・・・いや、別に要らないんですけど・・・。なんか子供の頃に飼っていた猫がやたらと俺に死んだ蝉を持ってきてドヤ顔しているのを思い出すな。


「オーガの討伐証明となる牙です。トレイルに着いたらギルドへ報告する時に一緒に渡した方がいいと思います」


「やっぱり報告はしなきゃ駄目か」


「そうですね。冒険者ギルドへは報告した方がいいでしょう。そうすれば他の関係各所への対応はギルドが行ってくれると思います」


「そんなに大事なのか」


「サトル様はあっさり倒してしまいましたが、先程も言った通り、オーガが出現した際は兵士の動員もありえる事態です。・・・サトル様はあっさり倒してしまいましたが・・・」


大事なことだから二回言ったのか、呆れた感情が溢れてそうなったのか、どっちなんだい?もちろん前者だよね?ね?


「それじゃあ、少し急ぎめでトレイルに向かおうか。こういう時ってなんか起こりそうな気がするし・・・」






出現するモンスターの頻度が上がったとか、普段現れないモンスターが出たとか・・・ラノベ展開だとほぼアレの前兆だったりするよね。


この世界にもソレがあるのかは知らんけど。

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