第79話 焚き火

あれから一日中歩き、何度もモンスターと遭遇したが、最初の暗闇で出会った数回以降は日も登ったおかげで対処も警戒も楽になり、行軍の速度もだいぶあがった。一撃で倒せるから出会っても歩みが止まらないほどだ。

そしてそのまま進み続け、日が暮れそうになったところで野営の準備を始めた。


今は焚き火に使う枝を拾い集めているところだ。

普通はちゃんと火が付くまでは燃えやすい小枝なんかを使うが、俺は魔法で簡単に着火することが出来るから最初から大きめのもので大丈夫。魔法って便利よな。


「この森ってゴブリンとフォレストハウンドしかいないのか?」


横で同じく作業を手伝ってくれているミーナに問いかける。

今回なんかは出会ったモンスターは全部ゴブリンしかエンカウントしなかったんだよな。

この世界に来てすぐの頃、ククレ草採取とレベルアップ目的の狩りを行った際もゴブリンとフォレストハウンドしか出会ってない。


「魔物ではない動物も住んでいるはずですが、この森は大型の動物はほとんどおらず、そのほとんどがうさぎやリスなどの小動物です。ですが、日頃から魔物と共棲している小動物は非常に警戒心が強く、滅多に人の前に現れませんね」


あ、普通に動物っているんだ。今まで出会わなかったから気が付かなかったけど、そういや馬車に使っている普通の馬とかもいるんだからそりゃ動物だっているわな。


「魔物は二種類だけなのか?」


「いえ、森の外周部はほとんどその二種ですが、ファストとトレイルの間にあるグラウ大森林の奥へ進めば進むほど強い魔物が生息しているそうです」


へー、この森ってそんな名前だったんだ。大森林ってことは結構大きな森なのかな?モンスターも奥へ行けば強くなるというのもよくある設定だよな。森の中心部に主みたいな存在もいるのかね?特に会いたくないから行こうとも思わないけど。


「枝はこんなもんでいいだろう。オリヴィエのところに戻って飯にしようか」


「わかりました」


野営の経験値が全くない俺は焚き火で一晩燃やし続けるのにどれくらい必要なのか全く分からなかったけど、二人で両手いっぱいに持ったからさすがに大丈夫だろ。もし足りなかったら近くの木からちょっと拝借したっていいしな。


野営場所に選んだところからもあまり離れず枝をとり終わったのでオリヴィエのところにはすぐについた。


「あ、おかえりなさい。いっぱい集めてきましたね」


「やっぱりこんなに要らなかった?」


「使わなかった分は置いていけばいいので特に問題はないと思いますよ」


ということは集めすぎだったってことね。まぁオリヴィエの言う通り余ったらただその場に置いてけばいいから気にすることもないけどな。


とりあえず持ってきた木を俺達が集めに行っていた間にオリヴィエが作ってくれた簡易的な寝床近くに置き、魔法を使って火をつける。

間違えてターゲットを定めてしまうと目の前に浮かべた火の玉がせっかく組んだ枝の中心部に炸裂してすべてを台無しにしてしまうが、さすがに魔法を使い始めて2週間近くも経っている俺はそんな初歩的な失敗などはせず、三角錐型に組んだ枝の頂点へとそっと移動させ、火をつけた。


「魔法は便利ですねぇ」


「そうですね。ただ、こんな使い方をサトル様以外の人が出来るかは疑問ですが・・・」


実際のところどうなんだろうな。この世界の普通の魔法使いってどういう魔法を使っているのかちょっと気になってきたな。

ファストでは魔法使いは居なかったし、魔法のことを聞くにしても使えないのになんでそんなことを聞くんだみたいに思われそうで誰にも聞いてない。

俺が魔法を使えることを言えば大丈夫だろうけど、それはそれでめんどくさいことになる気がするんだよなぁ。


「トレイルの街っていうのはファストよりも大きいのか?」


「帝国にある街のなかでは中規模ですが、南部の中ではかなり2番目に大きな街ですね。ファストは交易も侵攻の恐れもほとんどないアリア神国に接している辺境の街なので、かなり規模的には小さい街だと思います」


アリア神国ってたしか前にちょっと話題に出た戦争を起こしてその大半が職業落ちになってしまったアホ宗教国だったっけ。

そんなとことお隣さんで、しかも交流もないとなると立地的にはかなり価値が薄い場所になっちゃうから中々発展しづらくはありそうだな。


平和な世の中っていってももし力の強い国家が隣接していたら、警戒する必要はあるだろうし、そうなればかなりの数の兵を配置しなければならないだろう。

そうすれば自ずと色々な需要が生まれ、それを供給するために商人や人が集まり、発展する。


しかし、ファストのご近所さんはそんな脅威もないうえに交流もないなら経済的な伸びしろが限定的になるのはしょうがないだろうな。


「それならトレイルには魔法使いって居たりするのかな?」


「居ると思いますよ。トレイルには人気のダンジョンがありますので、手練れの冒険者が集まっているという話です。昔、私の村で剣士の適性を得た者が冒険者になるためにトレイルへと行きましたが、幼いころから冒険者に憧れていたその者がよく私にそういった話をしていました」


「へぇ~。オリヴィエは冒険者になるつもりはなかったのか?」


「私も剣士の適性を得られれば目指そうかとも思っていましたが、14歳になっても適性を得られませんでしたので諦めていました」


「あー、そういえばそうだったな。オリヴィエは剣聖になりたいんだったよな」


「はい!亡くなった母が子供の時に聞かせてくれた伝説の剣聖のお話が大好きだったんです!」


オリヴィエは片親だったのか・・・ミーナも含めて俺は二人の事をほとんどなにも知らないに等しいよな。

でも、小心者の俺は昔の事とかをあまり根掘り葉掘り聞いたりなんかしたら嫌われちゃうんじゃないかとかくだらないことを考えてしまってあまり詳しく聞くことを避けてたりするんだよな。


二人の事は信用しているけど、俺が自分に自信が持てないのはこの世界に来る前の42年間という長い期間で熟成されたものだから、こればっかりはすぐに解消できるとは思えない。


でも、そんな中でもかなり頑張っている方だ。

街の人間やオリヴィエ達に少し尊大な口調をしているのも、元々こういう話し方などではなく、こういった態度を取ることでミジンコほどしかない自信を少しでも矯正していこうと思っていたからだ。


だから少し気を抜くとつい染みついた下請け根性が顔を出し、敬語と卑屈な態度が出てしまいそうになるが、今のところはぐっとこらえて自分でも結構いい感じに出来ている・・・と思う。みんながどう思ってるのかは知らないけどね。


「剣聖って伝説なんだな。今は誰も持っていないのか?」


「皇帝から称号としての剣聖を与えられた者は居ますが、職業として剣聖を持つ者はいないとされてますね。最近では物語の中だけに登場する架空のものだと主張するものまで出てきていますが、昔はたしかに存在したというのはたしかだと思います。ある時期の色々な国の歴史書などにも度々登場していますし」


剣聖は・・・あります!


だってシスが言っていたからね。

えーっと・・・確か・・・。なんだっけ?


(剣聖は剣士の最上位職業です。剣士の上位職業である剣豪からなることが出来ます)


さんきゅーシス。でもまだいきなり頭の中に声がするとビックリするな。ちょっと体がビクッと跳ねてしまったよ。まぁそのうち慣れるだろう。


あれ?でも剣聖の詳しい情報ってサポート範囲外とかじゃなかったっけ?


(あの時点で私が出せる情報はあそこまでだったのです。今は先程の情報が上限となります)


なんかよくわかんないけど、ちょっとづつ解放されていく感じなのかな?

それともシスとの親密度で解放されていくギャルゲー方式か?


(・・・サポート範囲外です)


なんか変な間があった気がするが、気にしないでおこう。


と、その時グゥゥゥ~というオリヴィエの下腹部から抗議の声が聞こえ、それを慌てて抑えたオリヴィエの本体が赤い顔をして俯いた。


「つい焚き火を前にしてゆっくり話し込んでしまったな。今すぐ飯にしよう」


「・・・すいません」





か細く可愛い声で恥ずかしそうに謝るオリヴィエだったが、彼女の後ろでは尻尾の動きで少し土埃が舞っていた。

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