第78話 出発
「よし、行こう」
昨日はかなりはやい時間に寝ただけあって、真っ暗闇の中で目が覚めた。
いつも暗いうちに活動を始めるが、そんな中でも闇の深さはいつもより増し増し硬め濃いめ多めに感じる。
まだ寝ぼけてて何言ってるかわからないが、俺の中の声は誰も聞いていないので特段問題は・・・
(マスター、今の発言の意味が理解出来なかったので、説明を求めます)
あ・・・まだ寝ぼけているのかな。美女の声が頭に響き渡ってるわ。
・・・。
シスよ。人間というものは時々意味不明なことも考えるものだ。気にするでない。
(了解しました。そのようにいたします)
俺のボーナススキルであるサポートシステムが俺の中で喋るようになって彼女の自我が加速しているような気がするが、まだ音声機能をオンにしてから半日しか経っていないから実はウィンドウの時からこんなものだったのかもしれない。
そうだとしたら視界の端のアピールを無視し続けたのはちょっと可哀そうだったかもな。
「ご主人様、やはり背負った感じ、やはりもう少しスペースがある気がします食料をもうちょっと詰めたほうが・・・」
「オリヴィエさん。それ以上詰め込んだら間違いなく途中で背負い袋が壊れます。我慢してください」
「うぅ・・・」
めっちゃ哀しそうにしてかわいそうな気がするけど、そんな目で見られても言っていることは完全にミーナの方が正しいので、特に援護することなく諦めろという意味を込めた視線と態度を送る。
すると、諦めたオリヴィエがしょぼーんとしてしまうが、こればっかりはしょうがないだろう。
旅立ち前にテンションが落ちたままになっても旅に支障が出かねないから少しオリヴィエの気分を上げてやるか。
「まぁまぁ。旅の間に美味しい新料理を披露してやるから元気出せ」
「ほんとですか!?」
あ、少しだけ上げるはずだったのに、尻尾の勢いを見るに、どうやらMAX近くまで上げてしまったようだ。
調整がムズイな、オリヴィエは。
「さあ出発しましょう!ご主人様の料理があればどこまでも歩き続けられますよ!」
いや、歩き続けられたらそもそもその料理を作れないけどな。
あ、手を引っ張らないで。そんなに急いで何処へ行く。
・・・ってトレイルか。
いざ行こう。
目的地はまだ見ぬ隣町トレイル。
目的はガレウスの顔面を殴る・・・じゃなくてオルセンに取引停止の撤回をしてもらうために商業ギルドから預かった手紙を渡して、身の潔白を承認してもらってからガレウスの顔面を殴るのだ。
最初の否定は間違ってなかったから要らんかったな。
「へー、松明ってほんとに燃え続けるんだなぁ」
真っ暗闇の中を照明も持たずに歩くのは無理だから、昨日のうちにミーナとオリヴィエが松明を作っていてくれた。
俺のイメージだと布かなんかを木に巻き付けてたっぷり油を沁み込ませたものを燃やすのかと思ったが、それでも一応機能はするものの、わりとすぐに燃え尽きてしまうとのこと。
一番いいのは自然の状態で油分を大量に含んだ松の根を使うのがいいらしいが、ファスト付近には松が自生していないらしく手に入らないので、枯草をきつく編み込んだものを木の先端にぐるぐる巻きにしたものを人数分用意してくれた。
草なんかすぐに燃え尽きてしまうのではないかと思ったが、きつく編んで更にぐるぐるに巻き付けた枯草は外側からゆっくり燃焼することですぐに燃え尽きることがないらしい。
パチパチと静かに燃え続けるのを眺めているだけでワクワクしちゃう俺はサバイバル経験値がほんとに0なんだと実感する。
旅の隊列はダンジョンと同じく、先頭に探知担当のオリヴィエ、殿に俺で間にミーナを挟む陣形だ。
今はもう別にミーナを挟んで守るような形にしなくても大丈夫だが、槍使いで中衛であるミーナを真ん中におくことは戦略的にも理にかなっているのでそのまま採用している。
松明は人数分あるが、固まって歩けば別に全員が持つ必要もないため、先頭のオリヴィエだけが持っていて、俺とミーナは色々なことに対応できるため、なるべく両手を空けて歩くよう昨日オリヴィエから言われた。
家を出てから暗闇の中を黙々と歩くこと十分程、オリヴィエが後ろの俺達に静止を促すように松明を持っていない右掌を俺達に向けると
「ご主人様、前方から・・・恐らくゴブリンだと思われる気配がします。こちらに気が付いているようですね。数は恐らく三匹か四匹だと思います」
と、暗闇の中でも抜群の性能を誇るオリヴィエソナーは相変わらず優秀だが、さすがにこんな闇の中で灯りを点けて歩いていたらそんなソナーよりも先にこちらに気が付かれるのはしょうがないだろう。
「オリヴィエ、気配というのは近づけばはっきりとわかるものなのか?」
「今の距離だとおおよその方向だけになりますが、どんな暗闇でもこのように他に雑音の少ない静かな森の中であれば半径40m位の距離のものはかなりはっきりと捕捉してみせます」
半径40mて・・・田舎の学校の大きな校庭なんかでも真ん中に居るだけでその全ての範囲をカバー出来てしまうぞ・・・。凄すぎるでしょ。
それなら大丈夫だな。というかそもそも相手は俺がレベル1の時でも普通に倒せたゴブリンだし、もし攻撃を受けることがあったとしても今のオリヴィエのレベルなら全く問題ないレベルだろう。
「オリヴィエが松明を持ったまま戦闘を頼む。俺は敵が視認できない遠距離に向かって魔法を撃っても当てる自信がないからこの戦闘では魔法は使わないでおく。オリヴィエは攻撃よりも回避に比重をおいてくれ。相手はゴブリンだから全く問題はないだろうが、今回の戦いを闇の中の状況下で、もし今後手ごわい相手に出会った場合の予行演習としてやってみよう」
「はい!」
「了解です!」
俺の指示に返答した直後、ゴブリンの居るであろう前方へオリヴィエが厳しい視線を送ると、
「・・・来ます!」
オリヴィエからの指示が出てから数秒後、正面の暗闇から徐々に見えてきた。
お馴染みのギャッギャッという独特な声を出しながら小走りでこちらに向かってくる緑色の小鬼達が完全にオリヴィエが照らす松明の灯りの範囲に入ると、その数もはっきりとわかる。オリヴィエが事前に言った通り、四匹だ。
数はいるものの、特に統率のとれたような動きもなしに個々で突撃してくるゴブリンを、武器を手に迎え撃つ体勢をとる。
どうやら全てのゴブリンのターゲットはオリヴィエへと向かっているようで、四匹全員がそれぞれがバラバラにオリヴィエへとこん棒を振って攻撃しているが、その全てが空を切り、彼女の動きの軌跡を松明が美しく残す光景だけが続いていた。
あまりに洗練された動きに残像を残すようについていく松明の火が彩る景色があまりに綺麗でそのまま見入ってしまいそうになるが、さすがに戦闘中にそんなことをするわけにはいかないため、俺とミーナもオリヴィエに夢中なゴブリン達へと攻撃を開始した。
手始めに一番近いゴブリンに縦一文字斬りをお見舞いすると、剣はそのまま振りぬくまで止まることはなく、地面に刺さってようやくその動きを止めた。
余りの手応えの無さに感触はまるで巨大な豆腐でも切っていると勘違いしたほどだ。
その勢いのまま近くのゴブリンから順番に一匹、二匹と一刀のもと斬り伏せていく。
一撃な上、剣筋を敵の体に通しても妨げられることがないとなると、もう走りながらただ素振りしているのとあまり変わらない。
最後にいまだオリヴィエが夢中なゴブリンに斬りかかろうとしたが、俺の攻撃が届くより先にミーナの一突きで倒れた。
「うーん、さすがにゴブリンだと弱すぎるな」
「いえ・・・この場合はサトル様が強すぎるのだと思いますけど・・・」
自分が褒められたわけでもないのに頷きながら自慢げな表情で悦に浸るオリヴィエも最初は自分自身の評価と釣り合わないことから凄い違和感を感じていたものの、なんか最近はすっかり慣れてしまったな。
よし、今度オリヴィエが褒められることがあった時に同じことをやってやろう。
仕返・・・恩返しはちゃんとしないとねっ!
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