第77話 旅の支度
「ふぉのふぁふぉひふふぁんふぁ、ふぉのよーにふぃてふぉしへてふれふんれふふぁ?」
「え?なんて?」
毎回美味しそうに食べてくれるのはいいけど、ハムスター状態で話しかけてくるのはお行儀が悪いからやめなさい。全く何言ってるのかわからんかったぞ。
「むぐむぐむぐむぐ・・・んく。失礼しました。そのさぽしすさんはどのようにして教えてくれるのでしょうか?」
「前は俺にしか見えない板のようなものを空中に浮かべて文字で伝えて来たんだけど、ついさっき頭の中に直接語り掛けてくれるようになった」
「透明な板!?ついさっき!?頭の中に!?」
食事中に大きな声を出すんじゃありません。気持ちは分からんでもないけどね。
サポシスさんが喋り出した時は俺もビックリしたもんだ。彼女に自我がありそうって事前に思っていなかったとして急にあんな声が頭に響いたらおかしくなるぞ。
「うむ。直接声を聞くとサポシスさんって呼ぶのもなんか変な気がするな。・・・女性の声だし、シスって名付けよう」
(ネーミングを受け付けました。ありがとうございますマスター)
やっぱり綺麗な声だなぁ。もし実像化することが出来たとしたらさぞ美人となることだろう。イメージとしては中学生しか乗れないロボットに色々厳しめに命令してくれるお姉さんの上官って感じがする。
「シス・・・さんですか。彼女の声は私達には聞けないのですよね?」
「うーん・・・どうなんだ?」
声に出して聞いてみたけど、別にこれでも大丈夫だよね?
(私はマスターのボーナススキルであり、その対象はマスターのみとなります。よって、現状そのような機能は備わっておりません)
問題なかったらしい。
「そうか・・・残念だが、それは出来ないそうだ」
そう伝えると二人共思いのほか残念そうにしていた。
「そうですか・・・私もいくつか直接質問をしてみたかったのですが・・・残念です」
「へー、何を聞きたかったんだ?代わりに聞いてあげようか?」
ん?なんか急にモジモジしだしたな。ミーナにしては珍しい反応だ。
「い、いえ・・・だ、大丈夫です」
顔まで赤くしちゃって、俺に聞かれたら恥ずかしい質問なのか?お父さんはそんなふしだらなことを聞く娘に育てた覚えも何も育ててません。
実際何を聞こうとしたのだろうか、もしかして俺の弱点を探ろうとしたり?
夜の弱点ならいくらでも教えてあげるんだから直接聞いてくれてええんよ。いっぱいあるしね。
「そうか?遠慮しなくてもいいぞ。俺経由になってしまうが、聞きたいことはなんでも聞いてくれていい」
「はい!美味しいものの作り方を教えてほしいです!」
欲に忠実でいいね。オリヴィエたんは。
だそうですが、どうなんだ?
(美味しいもの、という定義が曖昧すぎるのと、味覚がない私が主観的判断を出来かねるという問題がある為、その質問には回答が出せません)
たしかーに。正論ですな。
「どんなものが美味しいのか、そもそも食事をしたことがないのでシスにその判断が出来ないというもっとも回答を頂きました」
「え!?シスさんはご飯を食べたことがないのですか!?可哀そうです!死んじゃいます!」
オリヴィエはシスという存在は認知しているが、それがどのようなものなのかはまだ分かってないようだな。
「オリヴィエさん。おそらくシスさんに食事は必要ないのではないでしょうか」
「えぇ!?食べる必要がない人っているんですか!?」
「えーっと・・・」
こっち見んなし・・・現状は何を言ってもたぶん理解してくれないだろうから、時間が解決してくれることを願うばかりだ。そんな正当な理由を持つ俺はそっと目を逸らす権利だってあるはずだ。ちょっとした罪悪感はあるが、今はミーナ。君に任せた。
あ、プクーって膨れてる。可愛い。
「トレイルまで一週間くらいかかるとして、その間は野宿になると思うけど、寝る時とかはどうするんだ?テントなんかはもちろん持っていけない・・・というか買うこと出来ないから持ってるものでなんとかするしかないのか」
「てんとというのがどういうものかはわかりませんが・・・基本的に野宿の場合は地面に布を敷いてその上で寝るのが普通ですね」
テントも駄目か・・・この世界の言葉は日本語なのに、外来語がすっぽり抜けている時があるから現代日本から来た俺はたまーに不便さを感じるよね。
テントって日本語ってなんていうんだっけ・・・天幕か?どうせ持っていけないから今はどうでもいいか。
「地べたか・・・ハンモックみたいなのを作ってみたくもあるけど、あれは突然の襲撃時に転げ落ちちゃいそうだし、そもそも明日までに作るのは不可能か」
「今回は準備する時間もないので仕方ないですね。はんもっくというのも今度教えてください。作れそうならやってみたいです!」
オリヴィエは裁縫も出来るのか。料理もある程度出来るし家の掃除だって積極的にしてくれるからいいお嫁さんになれるよね。俺のな。
「んじゃ俺とオリヴィエの背負い袋に食料をパンパンに入れてミーナのバックには下着の替えや調理器具なんかの雑貨を入れるようにしようか。食べれそうな動物とかが居たら狩りとかって出来るか?」
「私は村で狩猟をしていましたので得意ですよ!獲物が居れば肉を沢山獲ってみせます!」
久しぶりにフンスオリヴィエを見た気がするけど、つい二、三日前にも見た気もする。
この世界は日付とか曜日なんかを確認するものがないからあれがいつの事だったのかわかりにくいんだよな。結構毎日同じことを繰り返してるからそれが余計にわかりづらさを加速させている。
オリヴィエの戦闘センスはもう俺らには嫌というほどわからされているし、あの動きが狩猟でも使われたら森の食料が枯れてしまうのではないのかと心配になるほどだ。探知能力も凄いからマジであり得そうで怖い。
以前にオリヴィエが奴隷になるのを全力で止められたという話を聞いたが、もしかしたらそういうことも加味されていたのかもしれないな。
「ハハハ・・・頼もしいことこの上ないけど・・ほどほどにな・・・」
旅のことを色々決めながらの食事を済ませた俺達は翌日の準備を食事中に決めたとおりにさっくりと・・・オリヴィエが背負い袋が壊れそうになる位に肉を入れこもうとするのをやめるように説得したの以外・・・済ませ、ちょっとはやいけど明日に備えて今日はもう寝ることにした。三戦くらいの激闘をしてからだけどね。
ちなみに準備してから飯といっていたのに何故逆になったのかというのは、珍しくオリヴィエじゃなくてミーナのお腹から悲鳴が聞こえたから順序を逆にしたのだ。色々考えすぎたため、カロリーを消費して胃袋に直撃したらしい。
まぁ食事中に準備の相談が出来たし、結果的に効率よく準備出来たから丁度良かったまである。
ありがとうミーナの胃袋。これからも内臓仲間のブレインさんには大いにお世話になるだろうからよろしく言っておいてくれ。
明日からはこの世界に来て・・・というより、前の世界の人生を含めても初めての徒歩旅になる。不安半分楽しみ半分・・・いや、不安一割楽しみ九割かな。
だって俺一人だったら割合が反対になってもおかしくないけど、美少女が二人もついてきてくれる上にどちらもとても頼もしいときてるのだ。楽しみじゃないはずがない。
どっかの異世界ものみたいに魔法でドーンと一瞬で家を建てられたりしたら便利なんだけど、この世界の魔法はそういったことは俺の検証結果だと出来なそうだしな。
俺は心地よい疲労感と柔らかい二つの肉に包まれながら初めての旅に思いを馳せ、重くなってきた瞼に抗わず、そのまま夢の世界へと落ちていった。
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