第76話 音声機能
「レベルがわかってもらえたなら次は簡単だ」
「・・・本当ですか?」
これまで散々驚きっぱなしだったミーナがついに俺の言葉を疑い出してしまった。助けてオリヴィエもーん。
「た、たぶんな・・・。PT取得経験値倍増で倍率は20倍だ」
「ふぅ・・・なるほど、私達の異常な成長はやはりサトル様の力でしたか・・・」
額に手を当てて、頭を左右に振っているミーナ。そのポーズを見るとやれやれだぜって言いたくなるからやめてくれないかな。ワクワクしちゃう。
「あれ、驚かないの?」
「もう驚き疲れてしまったので。それに、これについてはそんな力をお持ちになっていると薄々思っていました。日毎につく力が異常でしたので・・・」
「ハッ!確かに・・・ご主人様と一緒に戦っていると物凄く強くなれた気がします!」
妙に納得している人、新発見に歓喜している人もいます。そしてそのコントラストを楽しんでいる俺もいます。
「ちなみに俺の職業は六つ同時に付けられて、それぞれが20倍だから、たぶん単純計算で人より120倍位はやく成長することになると思う」
別に言わなくていいことだったんだけど、驚かなくなった人を驚かせたくなってしまった俺もいたので・・・しょうがないよね。
「ひゃくにじゅっ・・・!?」
やったぜ。敢えて言った価値もあったもんだ。
「ハァ~・・・そういうことですか」
ああん、その溜息も凄くいいかもしれない。一回カスであると言ってみてくれ。
「フゥ~・・・残り一つですよね?・・・もう驚きませんよ、さあ!来てください!」
一呼吸入れた後に両手を広げ、急に気合を入れて受け入れ態勢を整えたミーナ。
だが、いいのかい、残りはとっておきだぞ?
残りの一人は我が四天王でも最強なのである!
「最後の一つはシステムサポートと言って、大体の事は聞けば教えてくれる」
「え・・・?誰がですか?」
「システムサポートが。俺は最近はサポシスさんって呼んでる」
「サポシスさん・・・教えて・・・?」
驚愕するミーナを見る俺の視界の端でまるで返事をするかのように無記のウィンドウを閉じたり開いたりするサポシスさん。
最近俺はこのスキルには自我があるんじゃないかと思っている。
何故かって言われると上手く説明出来ないんだけど、なんか表情を感じるんだよね・・・何でって言われると困るけど。
もう自我があるんだったらいっそのことウィンドウじゃなくて声に出してくれればいいのにな。視界の端をチカチカされると結構気になるんだよね。
音声機能をオンにしますか?
「え?」
「どうされました?」
「あ、いや・・・」
「?」
急に声に出しちゃったのは俺が悪いけど、まだフリーズしているミーナの代わりに俺に声をかけてくれたオリヴィエは頭の上にハテナマーク出てるけど、たぶん俺の方がでかいの出てる自身がある。
じゃ、じゃあオンにしてみます。
心の中で許可を出すと、
(音声機能がオンになりました。よろしくお願いします、マスター)
「あ、よろしくお願いします」
透き通った女性の声が俺の頭の中で響き、つい反射的に口に出して返答してしまった俺に出しっぱなしのハテナマークを少し大きくしたオリヴィエだったが、すまない、今の俺はそんなことに構っている暇はないんだ。
(私に質問する時は表層意識下で念じるようにしていただければ返答いたします)
(こ、こういう感じ?)
(イエス、マスター)
なんか凄いべっぴんさんのような・・・アニメでいうお姉さんキャラみたいな声が頭に響くから凄いドキドキするな・・・。
前々から女性的なイメージを抱いていたけど、凄いピッタリで逆にビックリだわ。
「・・・ハッ!・・・すいません、私の負けです・・・ビックリしすぎて少しほおけてしまいました・・・」
大丈夫、すぐそばで人知れず俺も同じくらいビックリしていたから。ウチら、ビックリ仲間だねっ。
「一つ確認ですが・・・」
「あ・・・はい、ミーナ君。どうぞ」
正気を取り戻してすぐに質問するとは・・・やるね、君。
「私達に色々なことを質問されていたと思うのですが・・・その、さぽおとしすてむ・・・というのがあるのであれば必要なかったのでは?」
「あぁ、それね。このサポートシステムは凄い便利だけど、ちょっと便利すぎるからなるべく使わないようにしてたんだ」
「便利すぎるから・・・とは?」
「俺はこの世界に来て色々楽しもうと思ったんだけど、なんでも教えてくれるってことは自分で考えたり発見したりするという楽しみの数々を放棄してしまうってことだと思ったんだ。ミーナやオリヴィエに聞く、というようなこともそこに含まれている。だからサポシスさんには本当に必要だと思ったことしか聞かない様にしている」
全てを知る権利を得ることは誰もが憧れる有益性を持っているものだとは俺も思っているが、それと同時にそれを手に入れることでかなり多くのものも失ってしまうとも思っている。
だからなるべく聞かないようにしているのだ。
まぁ聞くときはあっさり聞くけどね。都合がいいとか意思が弱いとかいうんじゃないぞ?それはそれ、これはこれの精神。人の半分は水でもう半分はご都合主義で出来ているのである。
「なるほど・・・確かにそうですね。本の知識は欲しいですが、全てをもらったら読むことの楽しみも奪われてしまう・・・という感じですか?」
「そうそう。そんな感じ」
「さすがご主人様です!」
最近思ってきた。適当に褒めてない?キミ。
褒めることに主軸がいっていて、理由が二の次になってるでしょ。実際今も話の内容の半分くらいしか理解してないっぽいのに褒められた気がするし・・・。でもまぁ嬉しいと思ってしまう単純人間なのでまたお願いします。
(流石です。マスター)
あれ、褒める主体がもう一人増えた・・・?
しかも話しかけてないのに話しかけて来たし・・・やっぱり自我あるやん。
キミの事に関してはトレイルに向かう道中にでも詳しく聞かせてもらうからねっ!
(了解です。マスター)
あ、そうだ。トレイル・・・準備しなくちゃ。
「俺の特殊な力・・・ボーナススキルはこれで全部だ。とりあえず明日の出発の準備をして飯にしよう。何か質問があったらまたその時聞くよ」
「はい・・・また質問させていただきますね」
「了解です!」
驚きの連続で少し疲れ気味のミーナとご飯の言葉にビクンと反応して物凄く元気になったオリヴィエ。
毎日違う表情を見せてくれるキミたちはほんとうに可愛いね。
「準備といっても簡単な調理器具と最低限の食料を持っていけば大丈夫か?足りなそうだったらトレイルで買い足せばいいし」
「あ、取引停止処分は商業ギルドに所属しているすべての店舗に適用されますので・・・」
「あ・・・そうか・・・」
ちなみに取引停止はクイルによるギルドカードだけではなく、顔絵付きの手配書の配布による周知で現金による取引も出来ないようになっていた。
商業ギルドを出るときに呼び止められてその手配書を渡された時はびっくりしたものだ。
なんせ本当に写真でとったかのような俺の顔の絵がその手配書にでっかく書いてあったのだから。
聞くところによると、ギルド登録をしたものはクイルでその情報の一部を紙などに転写したりすることが出来るようで、俺の顔もそうやって手配書に書かれたようだ。
しかも取引停止などの情報も他のクイルに転送できるそうで、こういった処分なんかはすぐにすべてのギルドへその情報が一斉送信されるようになっているらしい。
凄く便利だとは思うけど、こういう風に悪用されると物凄くめんどくさいことになる機能だよな・・・。
せめて手配書が郵送だったりすればそれが届く前に俺達がトレイルに行って買い物が出来たのに、一瞬で送信されてしまっては追いつきようがない。
くそう、ガレウスめ・・・オルセンに会って処分を撤回してもらったら覚悟しておけよ。
一発か二発か四、五発は殴ってやるからな。
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