第73話 告白
商業ギルドを出た後、俺達はすぐに家に帰ってきた。
買い物の出来ないファストに居ても何もすることがないし、隣町トレイルに行くための準備もしなくてはいけないからな。
ちなみに入るまではあった不審な気配は、商業ギルドを出るとなくなっていたらしい。
もしかしたらその気配もガレウスがらみなのかね。
まぁそうであっても・・・なくたって警戒しなくてはいけないことに変わりはない。やることが一緒ならばそれが誰の差し金なのかは二の次でいい。今試案しても予測の範囲を出ないしな。
「そういえばトレイルまではどの位かかるんだ?」
道程はファストの東門を出て街道をまっすぐ行けば着くという事は聞いたけど、目的地までの距離を聞くのを忘れてた。
「私がここに来た時は馬車で三日かかりましたが、あの時は護衛を雇っていなかったので、かなり急いでいたように感じましたので、通常ならばもう一日くらい余計にかかるかもしれません」
つまり、普通に行くと馬車でも四日かかる道程なのか・・・。
馬車ってどの位の速度で進むものなんだっけ?
「歩きで言った場合って馬車に比べてどの位遅くなるのかわかるか?」
「馬車の状態と運用方法でかなり変わりますが、今回の場合は定期輸送に便乗する形で向かったという話なので、荷をかなり積んだ状態で出発したと思います。それならば速度はそんなに出ませんので、徒歩よりも少し早い位ですね」
馬車って意外に速くないんだな。
まぁ元の世界でも生物界ナンバーワンのスタミナで長時間走れるのは人だって話だし、荷物を持たないのであれば人の移動速度ってかなり優秀な部類なのかもな。
「それなら別に馬車を使う必要もないか」
「荷を積まないのであれば、馬を借りて駈足で行けば明日出発でも道中で追いつくと思いますよ」
「え?オリヴィエって馬に乗れるの?」
「狩りを行う村では馬は必須なので、私の村で乗れない者はおりませんでしたね」
乗れんのか・・・すげー。
そういやオリヴィエって村人のまま魔物と戦った経験もあるとか言ってたな。
村では狩猟もやっていたのか。なんか想像出来てしまうのが怖い。きっとそこでもあの戦闘センスをいかんなく発揮して村に大いに貢献していたのだろうな。
「もしかしてミーナも?」
「いえ、私は御者なら出来ますが、乗馬は経験がないです」
よかった。仲間がいて。あ、俺は御者すら未経験だから仲間でもないか・・・。
「うーん、今回は徒歩でいいか。世話の仕方もよくわからんし、そもそも俺は馬に乗れんしな」
乗馬も楽しそうだから練習して乗ってみたい気持ちもあるけど、今はそれよりもオルセンに会うことを優先すべきだろう。
この世界だとその機会はいくらでもありそうだしな。
「そうなのですか?」
俺の言葉を聞いたミーナが不思議そうな顔をして聞いてきた。あ、オリヴィエも同じ顔してる。
「うん。そもそも馬を実際に見たのもオリヴィエを助けた時が初めてだった位だからな」
「・・・馬を?・・・すいません、サトル様の育った場所で馬は使われていなかったのでしょうか?」
「そうだな。俺が育った場所では馬は娯楽以外には使われてなかったからな。あ、そういえば馬運車はよく見かけたな。あの小さい窓からちらっと顔も見えたこともあったっけ。すまん、さっきの初めては撤回する。ちょこっと見たことあったわ」
そんな初めて規定を厳格にしなくてもいいかもしれないけど、嘘は良くないからな。こういうのもちゃんと訂正しておくことで、俺の信頼度も激上がりっていうすんぽーよ。
あれ、なんかミーナの顔が驚きに満ちている気がする。それに比べてオリヴィエは逆に納得したような表情をしているな。
二人のリアクションが全く違くてなんかおもろいね。
「馬を娯楽に・・・?馬運車とは一体・・・?」
「ミーナ。ご主人様は私達とは違う場所からいらしたのですよ」
「違う・・・はっ!やはり使徒様!?」
やべ、元の世界のことを懐かしんで何も考えずに発言していたらまた使徒様説が浮上してしまった。
しかもこないだきっぱり否定したのに、オリヴィエったらまだ俺の事を使徒だと思っていやがったな。
もう別に話してもいいか。
どうせこの世界の常識の無さからまた使徒様とか言われかねんし、変に拗らせて祭り上げられでもしたらめんどくさいからな。
神の使いが許されるのであれば、異世界から来たって言っても頭おかしいやつとか思われないだろ。
「いや、俺は使徒じゃないってば。別に隠そうとしてたわけじゃないから話しておくわ、俺がどこから来たのか」
おお・・・。オリヴィエの瞳がキラキラしている。
それに対してミーナは神妙な顔をしているな。俺の次の言葉を固唾を飲んで待っている。変に思われるとしたらオリヴィエじゃなくて彼女だろうな。
なんかオリヴィエって何を言っても信じてくれそうだし。
あ、俺の前で正座はやめなさい。
座った状態でそんなに尻尾振ったらホコリが舞うでしょうが!
「俺はこの世界じゃない別の世界から来たんだ」
「やはり使徒様!」
うわっ。急に立ち上がって俺の目の前にそのキラキラの顔を接近させないでくれ。チューしちゃうぞ。
「だから違うって。う~ん・・・なんて言えばいいか・・・。神の住む世界とかじゃなくて、違う世界から来たんだ。俺はそこではただの普通の人だったよ」
普通の人以下のほぼ最底辺だったってことは別に言わなくていいよね。
さすがに俺にだって恥ずかしいことの一つや二つや九つや・・・もっとあるが、とにかく、俺のダサい過去の一つ位隠してたって罰はあたらんだろ。
俺だって可愛い娘には見栄を張りたいんだ。
「・・・すいません。質問してもよろしいでしょうか?」
「はい、ミーナ君。どうぞ」
片手の肘を畳んだままちょこんと挙げて俺の許可を待つミーナに指をさしてすぐさま認可する。
「何故違う世界とわかったのでしょう?ただこの世界の別の場所から転移してしまったとかではないのですか?」
ワープとかあんの?俺も使ってみたい!
というのは後回しにしとくか、そんな雰囲気じゃないし。
「それは色々あるな。まず、俺の居た世界ではもう未開の地というのはほぼ無いと言っていい。だが、俺はこんな場所は知らないし、街だってこんな形態のものはもう今はない。それに、魔物もいないし、魔法だってなかった」
「魔物がいない!?魔法も・・・。ですが、それはその様な特徴の・・・いえ、未開の地がないとおっしゃってましたね・・・」
ミーナはやっぱり頭がいいなぁ。
俺の少ない説明から自分の中で発展させて疑問点を解消していっているようだ。
「はい!」
ミーナと違って元気よく手を挙げて待つオリヴィエに俺はミーナの時と同じ返事をした。
「はい、オリヴィエ君」
「そのご主人様の居た世界が神の世界なのではないでしょうか?」
「いや、俺の世界でも神への信仰はあったし、違うだろ。そもそも俺が神だったら80億人も神が居ることになるぞ。さすがにそれはないし、俺は普通の人間だったと自信を持って言えるぞ」
もうそれはかなりの自信がな!・・・ここをあまり強調すると涙が流れそうになるからやめておこう。
なんかオリヴィエはちょっと不満そうだな。そんなに俺が使徒であってほしかったのか?
「80億!?サトル様の世界ではそんなに人族が!?」
今日はよくその表情を見るな。なんか面白くなってきた。
「うん。まぁここと違ってオリヴィエみたいな種族は居ないけどね。・・・確かに数にすると凄いよな。増えすぎて問題にもなってたし」
「・・・なるほど、未開の地がないわけです・・・そんなに人が居たら住む場所を確保するのも大変でしょう」
「土地的には別にまだまだ余裕はあったけど、これ以上増えたら食料の方が危ないっていう話だったな。まぁ俺の国は豊かな方だったからそんな実感はなかったけど」
アフリカの人達が危険で大変です!
だから寄付してください!っていう金かけたCMがテレビで流れてたのを見て、そんな金があるんだったらその製作費を寄付しろよって思った記憶があるな。
ニートだったけど、それまであまり金を使っていなかったから貯蓄があった俺でもそんな遠くの国に支援するような余裕なんかなかったしな。
ああいうのって庶民向けのCMなんかで訴えたって意味がないと思うのは俺だけでしょうか?
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