第74話 使徒
「すいません。もう一つ質問よろしいでしょうか?」
「はい、ミーナ君。どうぞ」
その控えめな手の挙げ方可愛いね。オリヴィエの元気なやつもいいけど。
「サトル様が違う世界からいらしたというのはわかりました。ですが、どうやってその世界からこの場所へいらしたのでしょうか?魔法がないというお話でしたので、それ以外の手段というのがどうしてもわからなくて・・・」
「あー、それなんだが・・・俺にもよくわからないんだ」
うーん、なんて説明が難しいな。
突然メールで送られてきたVRMMOのβ版をプレイしていたらいつの間にかそのゲームの世界に似たここに来ました!とか説明をしようものならさすがに頭おかしいと思われるか。俺だって思うもんな。
まぁ彼女達にとって意味不明な単語ばっかり並んでいるからおかしいと思われる以前の問題かもしれないけど。
ここは、適当に要約して話すか。
「えーっと、なんか知らない手紙が来て、その中に書いてある物語を読んでる途中で、気がついたらその物語に似ているこの世界に居たんだ」
お、なんか我ながらいい感じに説明出来た気がする。
手紙に書いてある物語とかめっちゃわかりやすいやん。さすが俺。やるやーん。
「手紙を読んでいたら・・・この世界に?」
俺の説明を珍しく神妙な感じで聞いていたオリヴィエが突然目を大きく開けて何かに気が付いたような、人類最高の発明を思いついたような表情を浮かべると、
「・・・ハッ!その手紙は神様からの手紙で、それを読んだからご主人様が使徒様としてこの世界にいらしたのでは!?」
え・・・なんでそう・・・いや、そうなるのか?
確かに俺もあのゲームを作ったやつはそういう属性にあたる人物の仕業なんじゃないかと密かに思ってたが・・・。
「なるほど・・・この世界の創造主が物語としてサトル様に手紙を出し、この世界に召喚したと・・・であれば、サトル様はやはり使徒様ということに・・・」
げげっ。
なんか話がやばい方向に・・・。
俺はただの人生途中下車のおっさんニートだったんだからそんな大層な人物じゃないっす!
たぶんあのメールもCM見て寄付しちゃうような頭お釈迦様の人物に送ろうとしてたのに、手違いで俺に送ったに違いないっす。
いや、そもそも考えが逆なのかもしれんな。
元の世界で最も必要のない人物を選定してこの世界に送りつけたのかもしれん。
お前はこの地球で最も必要のないホモサピエンスだ!そんなやつは異世界におくっちゃる!的な?なんでそんなことをするのかは知らんけど・・・。
なんか悲しくなってきたからもう深く考えるのはよそう・・・。
無駄に自分の位相を上げるつもりはないけど、だからって別に無下にしてもしょうがないよね。俺はMだけど、頭にドは付かないし。
俺が密かに落ち込んでいる横でもう俺の方にまで風が吹いてくるほどにブンブン尻尾を振り回すオリヴィエが満面の笑みでいる。気持ちだけじゃなくてなんか実際にちょっとピョンピョン跳ねてるし・・・。
ハロウィンだからって全然知らん小さい子が突然やってきた時、家に買い置きしてあったお菓子を上げたらちょうどあんな感じのリアクションをしていたな。無邪気やね。
というかなんでそんなに俺を使徒にしたいのか・・・。
「俺はそんな大層なもんじゃないと思うけどなぁ」
使徒って宗教心ゼロの俺にはよくわからんが、たしか元はキリスト教かなんかの言葉で、某アニメでも使われていたように12人の弟子を指して言う言葉だったような気がする。要は神様に遣わされた者ってことでしょ?
俺はそんな感じの人物に何かの手違いかどうかはわからんが、この世界に送られたのはまぁいいとするけど、特になんも言われてないし聞いてないんだから、使命のようなものがない以上、遣わされたということにならん気がするんだが。
「いえ、もうご主人様が使徒様であることは間違いないと思います!普通では考えられない凄い力も持っていますし!」
「確かに・・・サトル様の特殊な力は使徒様であるならば納得です」
この世界に来た時にもらったボーナススキルは神様からの思し召しということならば、それに遣わされた俺は使徒ということになるのだろうか?
でも、別に何の指示も貰ってないし・・・というか説明すらなかったしな。
そんな雑な扱いされる使徒っているん?
「うーん、でもまぁ別に頑なに否定するのも変な気がしてきたけど・・・」
「じゃあ!!」
だからチューするぞ。近すぎるってば。次やったら絶対するかんな!
「いや、やっぱり俺は使徒じゃないと思う。もしそうであったとしても積極的に人に公言するのはやめておくよ。俺はそんなに立派な人物じゃないしな。オリヴィエ達もあまり人に言うのはやめてくれ」
人に崇められて悦に浸るような趣味は今んとこないんだ。
そんなことされてもオロオロするだけで恐縮してしまう自分が容易に想像出来るぞ。
「そんなことは・・・!いえ・・・わかりました。ですが、やはり私はご主人様は使徒様だと思います!」
「オリヴィエがそう思ってくれる分には構わない。だが、重ねていうが、俺はそんなに大層な人物じゃない。いたって普通の人だっていうことは忘れないでくれ」
あまり俺を神格視して失望されたくない。今後ずっとそれに見合う行動なんかできっこないぞ。なんせ庶民中の庶民(中の下)だからな、俺は。
それにしてもオリヴィエは使徒に対する熱意が凄いな。なんか特別な思い入れとかがあるんだろうか。
まぁ度が過ぎなければ身内でそう思われる分には別に困らないだろうし、オリヴィエの様子だと今までずっとそうだと思ってくれてたんだろう。なんか俺に対する信頼が凄かったしな。
これまで無償の信頼を感じていたが、その根底にあったのは俺が使徒だと断じてのものだったのだな。
たしかに彼女からすれば俺は突然現れて瀕死の状態から救ってくれた人物であり、しかも俗世に疎くて謎の力を行使しまくって・・・。
うわぁ・・・思い返してみたらオリヴィエがそう思うのも無理はない気がしてきた。
自覚はあったつもりだけど、どう考えても普通じゃないもんな。
あ、俺は普通だよ。普通じゃないのはボーナススキルなんだからねっ!
うーむ・・・だったら無理にそれを否定して彼女を悲しい気持ちにさせる必要もないか。
あまりそれをひけらかして公言しまくったりしたら空の上か別次元か知らんけど、そこらへんに住んでいる人にほんとに怒られそうだから、それさえしなければまぁ大丈夫だろう。
「はい!わかりました!」
これ以上ない笑顔で返事をくれるオリヴィエ。・・・大丈夫・・・だよね?・・・ほんとにわかってる?
「私も了解しました。・・・あのぅ、この際ですからついでに聞いてしまいたいんですが・・・」
「いいぞ。なんでも聞いてくれ」
もはや俺に何も隠すことなどないのだからな。
尻の穴だってかっぽじって俺も知らないシワの数を数えたっていいんだぞ。
俺の力を知っておくことで頭のいいミーナなんかがいい使い方を提案してくれそうだし、教えておいて損はないだろう。
二人には言ってないが、これからもパーティーは増やしていきたいし、その度に説明するのはめんどくさいから、今後の説明は全部ミーナに丸投げするのもアリか。
すまんな、ミーナ。
俺のめんどくさがりは世界をも超えてしまうのだ。
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