第71話 停止

「え?なんで?」


「あー、こりゃギルドから停止処置を食らってるなぁ」」


朝食を終えてファストへ来た俺達は、冒険者ギルドでありったけの戦果を売ってマリアの引き攣った顔を拝んでから、今は市場に来て食料を買いに来たのだが、そこで予想外の対応を受けることになった。


軽くなったバックにありったけの野菜を買い入れようと、市場のおっちゃんにギルドカードを提示したところ、取引が出来ないと言われて返ってきたのだ。


「停止処置?」


「そんなバカなことがありますか!サトル様は不正取引など行っておりませんよ!」


屋台のオヤジの言葉にハテナマークしか浮かばなかった俺とは対照的に激しい反応を見せ、声を荒げたのは俺達の中で普段一番温厚なミーナだった。


小柄な体を屋台の狭い取引カウンターにこれ以上ない程身を乗り出してオヤジにプレッシャーをかけまくっている。


「そ、そんなことオイラに言われてもよぉ・・・こんなことはオイラも初めてだからよくわからんけども、クイルが赤く光るってのはそういうことなんだろう?」


「な・・・!?すいません、もう一度支払い処理をしてみてください」


「そら別に構わんけども・・・」


そう言って俺からもう一度ギルドカードを受け取ったオヤジは取引カウンターの隅に置いてあるクイルに今度は俺達にやるぞ、という意味を込めた目配せを送った後、ギルドカードをかざして見せる。


すると、小さな箱状のクイル全体がピカピカと2回赤く光った。

オヤジは「な?」と俺達に一語だけ言葉を発してからギルドカードを返してきた。


「確かに赤く光ったな。2回」


光量はそんなに大きくなかったけど、まだ真昼間の外ではっきりと視認出来る位なんだからそれなりに光っているはずだ。


「何故・・・」


一緒に確認したミーナはすでに顎に手を置いて考察スタイルに突入している。

俺には何が何やらさっぱりだからこういう事になった時、ミーナの存在は本当に助かるな。


俺達はもちろん不正取引などはしてないし、むしろこのカードをかざすってだけの取引でどうやって不正するのかすら俺にはいまいちわからない。

というか、そんなんしたらこの世界じゃ職業落ちとかして大変なことになるんじゃないのかな?・・・うーん、わからん。


「困ったな、もう野菜の在庫はほとんどないぞ」


肉はダンジョンで手に入れたのをまったく売ってないからまだ余裕があるし、今のペースで手に入るなら今後も尽きることはないと思うから大丈夫なんだけどね。


「私は野菜がなくても大丈夫ですよ!」


むしろその分肉の占有率に嬉しそうにしてるまでありそうだな、君。

だがそれは甘いぞ。


「これが続くと小麦粉とか自作出来ない調味料も購入出来なくなるから、フリットとかもいずれ作れなくなるぞ」


うおっ!こっちを見てくれるのは目の保養にもなるから別にいいんだけど、そんな勢いで首を旋回させたら痛めるからやめておきなさい。


「すぐに抗議にいきましょう!どこに行けばいいんですか!?領主館ですか!?それとも帝城!?」


そんな物騒なとこに抗議に行ったりしたら、購入どころか今後外を出歩けなくなりそうだから勘弁してください。


「いえ・・・街の商業クイルに関しての一括管理権限は商業ギルドが持っていますので、そこで何らかの間違いがあったのでは・・・」


「いや、たぶん間違いじゃないんじゃないかな」


「えぇ!?ということはサトル様が不正取引を・・・!?」


突然の俺の言葉をカミングアウトと勘違いしたミーナが青くした顔を困り顔に染めて俺の顔を見上げていた。


「ちゃうちゃうちゃう、俺はそんなことはしてないし、やり方もわからないよ


「え・・・?でも間違いじゃないと・・・」


「たぶん・・・だけどね」


だが俺の予想の確度はかなりあると思う。

だってそれしか思いつかないし、そもそもこの世界に来て日が浅い俺が知り合った人物なんて両手で足りる位だしな。


しかもその中で商業ギルドとなったらもう一人しか思い当たらない。

正直、屋台のオヤジにギルドからって言われた時点でもう俺の頭の中でそいつの顔が浮かんできてしょうがない。


「やはりミーナの件でしょうか?」


「私が・・・???」


俺達の会話を横で聞いていたオリヴィエも気付いたようだな。だけど当事者のミーナだけがまだわかっていない。

まぁオリヴィエと違ってミーナは俺がこの街に来た時期を知らないし、しょうがないのかもしれないけど、いつも察しの良い彼女だけがわかってない今の状況はかなりのレアケースだね。


「とりあえずこのまま放置するわけにもいかないから、商業ギルドに行ってみようか」


「え、えぇ・・・そうですね」


「いきましょーう・・・!」


右手を上げて出発の狼煙をあげたオリヴィエだったが、直後に表情が鋭くなり、俺のすぐ横に近づいてきて小声で話しかけてきた。


「ご主人様、また例の気配です」


例のってあれか、前回街に来た時にずっと俺達を遠くから覗き見していたあれですね?

・・・ん?ってことはもしかして、


「これもアイツの指示なのかもしれんな・・・ギルドまでの道中はミーナを挟んで警戒して行こう、俺が先頭を行くからオリヴィエは後方を頼む」


ミーナはレベル11の猛者だからゴロツキなんかに後れをとらないだろうけど、剣を持っている俺とオリヴィエに対して、ミーナの武器は槍のため、納品物をパンパンに持ち込んできた今日は剣に比べてかさばってしまうから置いてきたのだ。

こういうとき用に護身用の小さい武器を持たせてもいいのかもしれないな。


「了解です」


「え?・・・えぇ?」


神妙な表情で頷くオリヴィエと俺への報告が聞こえなかったため、何が何やらわけがわからない様子でオロオロしているミーナ。

キョロキョロしていて怯えている様子が小動物みたいで愛らしいからそのままにしとこうと思ったら、オリヴィエが耳打ちをしてしまったので、キリっとしたいい顔になってしまった。今の感じも好きだけど。



俺達は短い一列縦隊で商業ギルドへと向かう。

警戒はしているが、俺の指示もあってむやみに周りを見渡すようなことはしていないが、どうしても緊張感は出てしまっている。

いくらレベルが上がって強くなったからって、少し前までただの村人2人とニートだったんだからこの辺はしょうがないよね。


指示した俺だってなるべく普段通り歩こうとしているが、今考えてみたらこの並びでいることも、そもそもこんなに無言で歩いていること自体が普段と違うから、もし素人の俺が監視側だったとしてもこの状況を見れば警戒していることは一目瞭然だろう。


まぁ別に相手の油断も騙し討ちもするつもりはないから、俺らの警戒がバレてもし不審者達が襲撃しようとしているやつらだった場合、それによって二の足を踏むことになる、ということになるのだったらそれもいいのかもしれない。


今更思い出したように会話を始めてもそれはそれで違和感満載だからそのままサイレントモードで足音だけを鳴らし続けたが、襲撃が来ることもなく、俺達はすんなりと商業ギルドまでたどり着いた。


「どうだ、オリヴィエ。まだいそうか?」


「はい、ずっと同じ位の距離をとってこちらについてきていますね」


ずっと見ているだけなんて一体何を目的としているんだろうな。

もしかしたら襲撃なんてするつもりなんて一切なくて、監視だけが目的だったりするのかな・・・?

その場合はやっぱりここに所属しているアイツが関わっているのかな?




俺がこの街で恨まれてそうな人物No1。

俺に嫌がらせしてきそうな人物No1。

むしろこいつしかいないだろうという人物No1。


商業ギルドの副ギルドマスター、ガレウスが。

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