第70話 カンバセーション

やはり6層の経験値はおいしいな。


昨日の夜のダンジョン探索で俺のレベルは1上がって13に、変えたばかりの商人も6から8になっていた。

オリヴィエの剣士は12に、ミーナの槍使いも11になってたが、朝起きて潜ったダンジョンでオリヴィエ達は据え置きだったが、俺のレベルは更に1上がり、商人が9に、それ以外も14になった。


移動する手間も欲しい食材もいっぱいある現状、とりあえず経験値的なおいしさを感じなくなるまでは6層でもいいかもしれないな。

先に進みたい好奇心もあるけど、まだこの世界に来て2週間も経ってないからな、そんなに生き急いでも仕方あるまい。


「この朝飯を食べ終わったら予定通り、街へ行こう」


ダンジョン産の素材を売るのと食材の買い出しをちゃちゃっと済ませて、もっかいダンジョン行けるなら行きたいな。

モンスターから食材がドロップするようになってからというもの、倒した時のちょっとした楽しみになってしまった。

倒した瞬間にアイテムが出てくるからちょっとしたガチャ感覚だよね。


「んぐんぐ・・・わかりました!」


「もう3人で目一杯運んでも一回では運びきれない位のものが溜まってますからね、一度数回に分けて運んですべて売ってしまいますか?」


「いや、急ぎで欲しいものも特にないし、別に溜めといてもいいかな」


あまりいっぺんに運び込むとまた受付嬢のマリアの顔が引きつっちゃいそうだしね。


「そうですか・・・そうですね、了解です」


言い方に含みがある感じだったが、ミーナの表情をみてみると不満とかそんな感じではなく、何かを考えて自分の中で納得したというような雰囲気だった。

きっと何も考えてない俺の思考を深読みしていい感じに解釈してくれてそうな気がする。


「そういえば、ダンジョンの中の広さってどの位あるんだ?」


いつもオリヴィエだよりで森の中をぐるぐる回っているけど、特に壁や崖のような、いわゆるマップの端みたいな場所というのは見たことがない、まさか無限に広がっているってわけでもないだろうし、ダンジョンの端っこってどうなってるんだろう。


「広さ・・・というのは、全体の、ですか?」


「あー、いや・・・それも気になるけど、1層毎の」


「それでしたら本で読んだことがあります。確か、古いダンジョン程層ごとの広さは多少広くなるという話ですが、それほど劇的な変化ではないようです。大体どの方向にも1日中真っ直ぐ歩いて端から端まで到達できる位の広さらしいですよ」


人の歩く速度って確か平均時速4km位って聞いたことがあるな・・・ということは24時間で96km・・・大体1辺100km四方ということか?


「その1日中というのはぶっ通しで歩き続けてということか?」


そこの定義がほんとに1日なのか、もしくは休憩しながらとか通常活動できる範囲でのことなのかでだいぶ話が変わってくる。


「えっと・・・確か、昔にそこら辺の検証をした変わり者の冒険者が、魔物に出会わず歩いて入口まで戻ってくるまでに2日かかった、という記載をしていただけだったので詳しくは・・・」


「なるほど」


その書き方だとぶっ通しなのか程よくなのかでかなりの差があるな。

入口の場所にもよるけど、まぁぶっ通しなら100km、休憩しながらとかだったら50km位って感じなのかな。


「ありがとう、それでも大体の感じはわかったからだいぶ助かる」


「はい!お役に立てて嬉しいです」


言葉だけでなくほんとに嬉しそうにしているミーナの表情を見てるとまた何か聞きたくなっちゃうな。

毎日食事を一緒にしているし、こういう時間を有意義に使ってこの世界のことを色々聞くのもいいね。


すると、隣で静かにもぐもぐし続けていながらも俺達の話を静かに聞いていたオリヴィエが口を開いた。


「ダンジョンの端ってどうなってるんでしょう?」


毎回すべてを理解したように魔物の元へと案内し続けてくれているから勘違いしそうになるけど、オリヴィエもほんとはダンジョン初心者なんだよね。

そうは全然見えないけど。


「確かに、気になるな」


俺とオリヴィエの視線が自然にミーナへと集まる。

そんなミーナも何も乗っていない匙を唇に当てて何を見るということではなく、物事を思い出すとき特有の目線を右斜め上に送って答え始めた。


「えーっと、確か同じ本に・・・あっ、頂上が見えない程高い壁が現れた・・・と書いてあったと思います。登ってみようとしても掴めそうな場所がことごとく滑って断念したともありましたね」


壁か・・・割と普通だったな。

突然見えない壁に阻まれたり底が見えない程の崖が現れたりするよりは現実的か?

まぁ何故か登れないという時点で不思議空間ではあるだろうけどね。

不思議空間で何故か登れないってことはそういうことなんだろう。


「頂上が見えない登攀不可の壁か・・・ちょっと見てみたいな」


ちなみに、ダンジョンの入口が端ではないのかという疑問ははなからない。

何故ならダンジョンは外から入る時は大岩に先が見えない影が張り付いたような穴が空いているのだが、ダンジョン内の層移動の場所は大岩に階段があるというこれまた不思議な作りになっている。

岩に穴があって中に登りや降りの階段が付いているのだが、降りはともかく、登りは明らかに岩の高さより上に続いているのに、岩の上に出るなどということはなく、階段をそのまま登り続けると上の層に辿り着く。進行方向は下が進みで上が戻りだ。

3次元的に考えれば地下深くに潜っている感じなのだろうが、ダンジョンは別次元的な感じがするからそういうことでもない気もする。


そしてそれがダンジョンの中にポツンと存在していて、俺達は毎回そこから出入りしているので、まだダンジョン内の壁を見たことがないというわけだ。


「機会があったら一度向かって見ますか?その日はダンジョン内で休むことになるかもしれませんが」


俺に提案しているオリヴィエだが、その表情は自分でも興味がある風な感じだな、たぶん。ちょっとウキウキしてる雰囲気がにじみ出てる。


「そうだな。ダンジョンは毎日潜ってるし、同じ事を毎回繰り返しても飽きてしまいそうだから、たまには違うことをしてもいいかもな」


「ダンジョンで野営するなら今日の買い出しで色々準備した方がいいかもしれませんね」


テントとは言わないけど、外で簡単な調理できるような道具があればダンジョンの中で手に入れた食材を料理することもできるだろうし、ミーナの言う通りそういったものを揃えてもいいかもしれない。


「なんかちょっと楽しみになってきたな。ちょっとした遠足気分だ」


先生、おやつはいくらまでですか?バナナはおやつに入るでしょうか?そもそもバナナはこの世界にありますか?


「・・・普通のダンジョン内の野営はそういったものではないと思いますが・・・サトル様ならばそのくらいの余裕も納得してしまいそうになります」


ミーナ君、それは俺が普通ではないということでしょうか。あ、みなまで言わなくていいです。自覚してますので。


「就寝時の警戒はお任せください!」


胸ギュポーズでフンスと鼻息を荒げる当家のオリヴィエさんはその能力もつい一昨日に実証されたばかりなので頼もしさが半端ないです。


この世界を謳歌するんだったらその一部であるダンジョンも最大限に楽しむことも必要かもしれないな。

命の危険がある場所ということを忘れさえしなければ、俺達なら大丈夫だろう。

おやつとか密かに用意していったら喜んでくれるかな。






なんかちょっとほんとに楽しみになってきている俺がいる。

こういう寄り道を楽しむことも大切なのかもしれないな。

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