第66話 思わぬ失敗

俺は卵、オリヴィエは肉の入手でPT内の平均テンションがかなりあがった俺達は、その後もかなりのペースで狩りを続けた。


鳥牛狼グループの時の様なばっちりとハマった采配の継続は中々に難しかったが、初期采配の大切さを経験したことは大きく、敵の特徴を考慮した指示を意識付けることでその精度は増していき、かなりいい指示が出せるようになったと思う。


6層は他にスパイクウッドという5層のウォーキングウッドの幹に棘を追加して少し強くしたようなモンスターが出現したのを最後に、それ以上新しい種類とは出会わなかった。


腹ヘリ状態になるまで狩りを続けてダンジョンを出ると、いいアイテムでテンションが上がったからか、朝のダンジョン探索をせずに昼までゆっくりしていたからかはわからないが、どうやらいつもよりも長く籠っていたようで、ダンジョンから出ると森はうっすら暗くなりかけていた。


「ちょっと長くやり過ぎたな。真っ暗になる前にさっさと家に帰ってしまおう」


ダンジョンの中って太陽は存在しないのに常に一定の明るさを保っているから時間間隔が狂うよな。

普通のPTは泊りがけでやるという話も聞いたが、中に入って出たら昼夜逆転とかしないのかな。

時計とかも見たことないし、その辺はどうやって管理しているんだろうか。


「冒険者でダンジョン探索後の感覚のズレというのはよくある話のようですね。ですが、普通のPTは次の探索までの準備や傷の治療などもあるため、通常は連日探索を行うということはないので特に問題になるということはないそうです」


ミーナよ、そんなに「普通」とか「通常」とかいう単語を強調しないでも大丈夫だぞ。

俺達のPTが普通じゃないなんてーのはもう十分理解しているんだから。


どんどん暗闇の深さを増す森の中を足早に進み、家へと着いた頃にはすっかり日は落ちていた。



今回は興奮して少し長く潜り過ぎたが、その見返りもしっかりとあったようだ。


装備を脱いで一息ついたところでステータスを確認してみたら、俺の戦士、魔法使い、僧侶、盗賊、奴隷商人のレベルは2つ上がって11になり、村人も7から9になっていた。

オリヴィエも剣士7から9に、ミーナの槍使いも6から8に上がっている。


ダンジョンに入ってから一回の探索で俺とオリヴィエのレベルが2つ上がるのは初めてだったので、やはり強さに比例して得られる経験値も上昇しているのだろう。


「よし、腹も減ったし飯にしよう。今日は卵も結構手に入れたから新しいものも作れそうだぞ」


「あの・・・ご主人様・・・」


あれ?俺が食事というと、いつも瞳を輝かせるオリヴィエが今日はなんかシュンとしているな・・・。


「どうしたオリヴィエ」


「すいません・・・先程魔物が落とした物を整理していたら・・・」


そういって右手に持っていた背負い袋の中身を見せてきた。


「あー・・・そうか、そうだよな・・・」


考えれば当たり前で十分起こり得る出来事だったのだが、いざそれを目の前にすると結構気持ちが下がるなぁ・・・。


オリヴィエが報告して見せてくれたものは、背負い袋の中で割れてしまっていたランバードの卵だった。


ドロップアイテムとして手に入れたそれは持った感じも少し叩いて確認した時の印象も、かなりしっかりとしていたという感想を抱いたが、物が物だけに破損も考慮して途中でファングハウンドがドロップした狼の皮で包んだりしたのだが、なにぶん背負い袋は戦闘中にもずっと背負ったままなため、どうやらその激しい動きに耐えられなかったようだ。


俺達のPTの中でも敵の正面にずっと立っていて回避と攻撃の1人2役も十分以上にこなしている一番動きの激しいオリヴィエが持っていたということも大きかったのだろう。

彼女は食料に関するドロップを発見すると、嬉々としてまっさきに回収していくから、今までの流れのままに特に指摘することもなく卵も持たせてしまった俺の責任もでかい。


あんなに嬉しそうに回収するオリヴィエに注意すること自体も無意識下で躊躇っていたのかもしれない。


「・・・ごめんなさい」


余程悔しかったのだろう。

目尻に涙を溜めて謝ってくるオリヴィエはいつも元気に暴れている尻尾も内側に巻いてシュンとしてしまっている。


「まぁ起きてしまったことはしょうがない。今回のことは事故だったし、オリヴィエは悪くないから謝らなくていいぞ」


プルプルと震えて小さくなっている彼女をそっと抱き寄せ、小さな子をあやすように頭をポンポンする。・・・あ、我慢できない。

ポンポンの過程で小指に触れていた、いつもはピンと立っている耳が元気なく垂れていたのもついでにサスサスした。


俺の胸で大人しくしていたオリヴィエは、少し身をよじってくすぐったそうにしている。

俺の欲望に負けた行動だったが、彼女の気持ちを落ち着かせる効果もあったようで、体の震えもすっかりなくなる。完全に偶然の産物だがな。言わないけど。


「落とす魔物はわかっているし、今日の感じだと特に狙っていかなくても十分な量を手に入れられるだろうから、また明日ダンジョンに行ってとりにいけばいいさ」


するとオリヴィエは直上にある俺の顔を見上げて、笑顔を見せてくれた。

涙を堪えていたことを示す頬の赤が彼女の魅力をさらに引き出していて、それに一瞬で魅入られた俺は、彼女の唇に近づいていく・・・。


と、そこで横から視線を感じた。


その根源を探ってみると、壁から少し赤くした顔をちょっとだけ出してこちらを見ていたミーナとばっちり目が合う。


「あ・・・ミーナもおいで」


一瞬気まずい空気が流れたが、考えて見ればオリヴィエもミーナも俺のものなので、そんなことに気を使う必要は・・・まぁないわけではないけど、今は必要ないだろう。


俺の言葉にてててっとこちらに近づいてきたミーナもすでにオリヴィエの居る俺の胸中に抱き寄せる。

オリヴィエもミーナの場所を作るように少しだけ半身を引いた行動を見るに、特に悪感情もなく受け入れてくれているようだ。


「よし、それじゃこれの中身をちゃちゃっと片付けて飯にしようか。今日は色々な食材と調味料が手に入ったからな、美味しいものを作るぞ」


しばらく二人の柔らかさを楽しんだ後、いつまでもこうしていたい感情を何とか抑えて二人に伝えると、美味しいの言葉にオリヴィエの尻尾も元気を取り戻し、いつものように暴れている。


汚れてしまった背負い袋を洗うため、俺達は残った中身の回収と卵の殻を撤去する作業にうつる。

その際に卵の殻を手に取ってみたが、やはり思った通り結構な硬度を持っているランバードの卵。


激しく動き回ったとはいえ、これを割るには相当な衝撃が必要だと思うのだが・・・と思ったら、緩衝材に使っていた皮の内側に、同じファングハウンドからドロップする「ファングハウンドの大牙」が入り込んでいた。


皮は卵の周りを包むようにしたが、特に縛ったりもしていなかったので、激しく動く中でどうやら皮と卵の間に潜り込んでしまっていたようだ。


「なるほど・・・これが原因だったのか」


今後は卵と一緒にこういった破損を促すようなものを一緒に入れないといったことも必要かもしれないな・・・。

だが、モンスターのドロップするアイテムにはゴブリンが落とすダガーやナイフのように、破損を促すようなものはかなりあるし、アイテムのドロップは確率で、しかもこれまで手に入れてきた食材アイテムはどうやらどれもレアドロップに属するものがほとんどな印象だ。


毎回ダンジョンから戻るような時間になると、3人しか居ない俺のPTの持ち物はほぼパンパンになる。

だからそんな気の利いた仕分けが毎回できるかどうかと言われると・・・多分無理だ。


だからといって卵は欲しいから、諦めて置いていくなんていう選択肢はあり得ない。





うーん、これは何か対策が必要になるかな・・・。

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