第65話 好采配
鳥類独特の首振り動作で周りを見渡すダチョウより少し小さい位の大きさでそれと同じような細長い首の鳥、大きさこそ通常のものだが、胴回りが異様に細い牛、フォレストハウンドより一回り大きく牙が非常に発達した狼がそれぞれ1体ずつ。
少し遠めの位置で身を隠してちょっとの間観測してみたが、三者三様の初遭遇のモンスター達は、それぞれがまとまりのない動きをしていたものの、何故かつかず離れずの位置関係をキープし、決して離れることはなかった。
鑑定を使ってみる。
ランバード
スリムブル
ファングハウンド
「さっきとは打って変わってまとまりのなさそうな魔物達だな」
「そうですね。ダンジョンでは同じ種類の魔物が固まる傾向が強いらしいですから、こういう形は珍しいのかもしれません」
実際今までダンジョン内で戦ってきたモンスター達は全部同じ種類だったり、1匹だけ違うパターンが多く、こういった全部バラバラなということはあまりないな。
「今回は牛と狼は俺が、鳥は2人にお願いしようかな」
草陰に隠れながら小さな声で指示を出すと、いつもなら元気な返事が飛んでくる二人だが、今は敵に気付かれないように様子を窺っている状態なので、ちゃんと空気を読んで了承の合図は声を出さずに、真剣な表情でコクコクと頷く。
「よし、行こう。・・・ファイアーボール!」
俺はその場で立ち上がって奥側に居たスリムブルをターゲットに魔法を放ち、少しだけこちらよりの位置に居たファングハウンドへ対峙するために向かう。
「!」
戦闘開始後に姿を現したのが俺だけだったためか、攻撃してない残りのランバードもダチョウの様に2本足で俺に向かって凄い速度で駆け寄ってくる。
こいつは名が表すように飛ばないタイプの鳥類モンスターなのか、羽を畳んだまま走っている。
「やあ!」
ランバードがいよいよ目の前まで到達しかけ、対処しようと立ち止まって剣を構えたその時、細長い首の根元辺りを剣線が走る。
オリヴィエだ。
攻撃を受けたランバードはその瞬間、首を回してオリヴィエの方を向くと、クエーっと一鳴きしてターゲットをオリヴィエへと移した。
「頼んだ!」
「はい!」
俺の言葉に返答しつつ、敵のクチバシ攻撃を回避しながらも、その回転を利用して攻撃へと転じるオリヴィエの動きはいつ見ても凄い。
続いてミーナもしっかりと槍での突きをしっかりとランバードに当てていたのだけを見て、俺は自分の役割を全うするために残りの2匹に目線を送る。
狼も結構な速さで向かってきていたが、まだ攻撃範囲には届いていない。
ランバードの速度が速すぎたことが逆に敵の攻撃タイミングのズレを生んでくれたため、同時に対処しなくて済んだようだ。
俺はそれ以上の移動はせず、向かってくる敵を待ち受ける形で迎え撃つ。
遠くでファイアーボールの衝撃から立ち直ったスリムブルもこちらに駆けだしてきたようだ。
5m程の距離まで駆け寄ってきたファングハウンドが飛ぶ。
これはフォレストハウンドで同じような攻撃を幾度となく対処してきた動きだ。
その経験が活き、俺は冷静に薙ぎ払うような攻撃で相手のこちらに向いたベクトルをずらしてファングハウンドの攻撃を無効化しつつ、ダメージも与える。
フォレストハウンドの時はこの攻撃で90度方向に吹き飛ばすことが出来たが、大きさと共にその重量も増していたファングハウンドは俺のすぐ横を通り過ぎる位がやっとだった。
攻撃は受けていないから結果としては同じだが、もしもう1匹がランバードではなく、ファングハウンドだった場合は攻撃のタイミングが同時に来て攻撃を受けていたかもしれないな。
今回のモンスター3匹の移動速度はランバード、ファングハウンド、スリムブルの順で、後者になるほど遅い。
スリムブルも鈍足というほどではないが、速度差は目で見て明確にわかるほどにはある。
その速度差が功を奏し、俺が攻撃したファングハウンドはすぐ後ろに着地したが、魔法攻撃の立て直し時間と初期位置の遠さとファングハウンドとスリムブル自体の速度差により、スリムブルはまだ俺の場所までは5秒以上はかかりそうだ。
この時間差は普通なら短いが、戦闘中においては一つのアクションを起こすには十分な時間といえよう。
俺はスリムブルの到達予想時間を頭の中に設定しつつ、後ろのファングハウンドに剣を振り、着地したばかりでまだ体勢を整えきっていなかったファングハウンドを、俺の追撃でさらに後方へと飛ばす。
そしてそのまますぐに横へ飛ぶと、俺の居た場所をスリムブルが通過していった。
よし、完璧ぃ!
ここまでこちらの攻撃はすべて上手くいき、相手の攻撃はすべて回避しきっている。
オリヴィエもいつも通り踊るように回避しつつ攻撃を当て、ミーナもその後ろから的確なタイミングで突きを繰り出していた。
しかし、あのランバードのくねくね動く首の動きからしなるように飛んでくるクチバシ攻撃をよく避けられるよな・・・。
これ以上オリヴィエの動きを見ていると、見惚れそうになってしまいそうだ。
自分の戦いに集中しよう。
「ファイアーボール!」
ここまで何回も魔法を使ってきたから、今はもうクールタイムは数えなくてもかなりの精度で感じ取ることが出来る。
俺は再実行のタイミングですぐさまスリムブルに魔法を放つ。
頭を下げてその角で刺すように直線的な突進をしようとしていたスリムブルに火の玉が直撃し、その勢いを完全に殺すことに成功し、止まった牛の眉間に剣を振り下ろす。
ブモーっと苦しそうな鳴き声を上げたスリムブルに返す刀で逆袈裟切りをお見舞いすると、スリムブルは霧散した。
すぐに振り返って次の攻撃を警戒したが、ファングハウンドは起き上がったばかりでこちらに唸るばかりであった。
こうなるともう楽勝だな。
複数相手ならともかく単体で、しかも新しい個体ではあるが、今までと似たような攻撃方法をとるファングハウンドに苦戦するようなことはない。
オリヴィエも相変わらず安定した戦いぶりを見せていて、その上でミーナとも上手く連携し、以前のように攻撃がミーナにいかないように調整までしているようだから、あの様子では苦戦しそうにもないな。
そしてその後の戦闘は特になんの問題も起こらず、俺がファングハウンド、ランバードの順番で倒して終了した。
「ふぅ・・・今の戦闘はかなりいい感じだったな」
今回は最初に指示した采配がかなり・・・というか満点と言える出来だったんじゃないだろうか。
・・・まぁ指示は適当だったから完全に偶然の産物だけどな・・・。
敵の進軍速度が違うとこちらへの攻撃タイミングのズレを生む。
それを利用できればかなり有利に戦いを進められそうだな。
「サトル様の采配が素晴らしかったですね」
完全なる偶然の産物だったなんてことはいちいち言う必要もないから黙っておこう。
逆に一番早いランバードに魔法を当ててスリムブルを待ち受けた場合、もしかしたら同時に攻撃を受けることになったかもしれないから、今まで適当にやっていた最初の指示も今後はもっとちゃんと考えないと、ミーナに何も考えてないことがバレるかもしれないな・・・。
「ご主人様!ご馳走です!」
オリヴィエがキラキラした笑顔でスリムブルが落とした「スリムブルの肉」を見せてきた。笑顔ごしに尻尾も元気に動いているね。
「あ、こちらの魔物は卵を落としているようですよ」
ランバードが落とした鶏卵の3倍、高さ15cm程はありそうな「ランバードの卵」を持ってミーナが報告をしてきた。
うおおお!タマゴー!
肉も嬉しいけど、卵はかなり嬉しいぞ。
サイズがサイズだけに味が少し心配だけど、ここまでダンジョン産で美味しくなかったものはないから大丈夫だろう。
食料3連を期待してもう一つのドロップアイテムも期待したが、最後の1個は「ファングハウンドの大牙」で食材ではなかったが、念願の卵を手に入れた俺のテンションはかなり上がっていた。
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