第64話 アズーカ
前衛の片割れを失ったゴブリンPTは非常に脆かった。
途中で魔法による牽制攻撃を当てていたこともあり、距離を詰めたゴブリンアーチャーは抵抗という抵抗をする間もなく倒すことが出来、一方で見事にその攻撃をオリヴィエに躱され続けていたゴブリンウォリアーは、俺が参戦した直後の一撃で霧散し、ポトリと白い塊が地面に落ちる。
「・・・ん?なんだこれ・・・」
ゴブリンアズーカ
最後に倒したゴブリンウォリアーがドロップした白い塊のアイテムを見て、また小麦粉か、と思ったが、一応鑑定して見た結果、それは小麦粉ではなく、名称だけでは何なのか判別がつかないものであった。
前にホブゴブリンが落としたのはゴブリンフラワーという小麦粉だったことから鑑みるに、調味料だとは思うから舐めて見ればわかると思うんだが・・・。
なんか正体不明の白い粉状の物ってちょっと軽い気持ちでテイスティングするのは怖いよね・・・。何がとはあえて言わないけど。
もし劇物だとしたら取返しのつかないことになるし、ここはちゃんと安全策をとった方がいいだろう。
ってことで、サポシスさん・・・おなしゃーっす!
・・・。
ん?
ゴブリンアズーカは、砂糖に該当するアイテムです。
おお!砂糖か!!
俺はさっそく塊の一部を削り取って確定した味を確かめる。
確定情報を得た後に確かめるというのも変な感じがするが、やはりこの味は実感せねばならんだろう。
だって、砂糖だぞ。
こちとら甘党なんじゃ。この10日で得た甘味が3人でメープルシロップちょっとづつなんて、足りるわけないだろうが。
サポシスさんありがとう。頼りになります。
なんかウィンドウが開くまでに微妙な間があった気がするんだけど、検索に時間がかかったりするもんなのだろうか。
「ご主人様、それは?」
「ほれ、オリヴィエとミーナ、あーんしてみ。あーん」
「?」
不思議を感じながらも素直に口を大きく開ける二人。
ああ、スマホがあればこの光景を記録しておくのにな・・・。今はしっかり俺の脳内に焼き付けておこう。
俺は雛鳥のようになった二人に一欠けらづつゴブリンアズーカを放り込む。
ゴブリンアズーカって名前、何なんだろ?鑑定では名称しかわからないんだから、わかりやすくシュガーにしてくれんもんかね。
「・・・!?」
「んんーっ」
ミーナは目を丸くして驚き、オリヴィエは頬に手を当てて甘味を楽しんでいた。
「砂糖ですか!ダンジョンで手に入ると本に記載はありましたが、ゴブリンが落とすとは知りませんでした」
「んふぅ~。甘いです~ぅ」
「砂糖が手に入るってのはかなりの朗報だな。デザートはそんなに作ったことないけど、これを機に色々作ってみるのもアリかもな」
ケーキくらいは興味本位で作ったことあるけど、ケーキを作るのはまだ色々足りない。
だけど、この砂糖はそれ単体でも甘味としては十分なくらい質も高いし、この世界の余り甘くない果物も、これがあればジャムとかに出来るだろうしな。
市場には野菜の他にちゃんと果物もあったのだが、元の世界の品種改良が進み切ったものと比べると、酸味ばかりが目立って甘味は奥の方に少し感じる位のものだった。
だから今まで味見するだけで購入までには至らなかったのだが、砂糖があるならそれらにも利用価値が生まれるだろう。
今度街に行ったら買っていくかな。
「デザートを作れるのですか!?」
「いや、作れるというにはおこがましいとは思う位だが・・・まぁ簡単なものならな」
そんなにブンブンと尻尾で期待を表されても砂糖だけじゃただ甘いっていう大雑把なものくらいしか作れる自信がないぞ。
まぁ経験上、そんなんでも凄く喜んでくれそうな気がしないでもないけれども・・・。
「砂糖以外の物は1層なんかと同じゴブリンナイフだったが、低確率でも砂糖が手に入るとなるとちょっとやる気も湧いてくるな」
「ですよね!」
「あ、5層の小麦粉や万能酵母に続いて6層でも砂糖が手に入ったとなると、もしかしたら他にも何か有用なものが手に入るかもしれないから、近くの魔物から順番に倒していこう」
あぶないアブナイ・・・せっかく新しい層に来たのに、また出現割合が「何故か」隔たるところだった。
他にもいいものが手に入るかもしれないと言っておけばオリヴィエも作為的選択はせずに、高効率の均等なエンカウントを促進してくれることだろう・・・たぶん。めいびー。
「了解です!・・・あ!すぐ近くに魔物の気配があります!」
少し高揚した顔で案内をはじめるオリヴィエの足取りはとても軽そうだ。
まぁ、もしこの案内先の敵や今後戦う6層のモンスター達からのドロップアイテムが食べ物ではなく、他の事で役立つものだったとしても、俺は嘘はついてはいない。
だって有用なものとは言ったが、「食べ物」とか「美味いもの」なんてことは一言もいってないからね。
ふっふっふ。これぞ完全犯罪だよ明智君。
「それにしても、サトル様と一緒に戦っていると、どんどん自分の力が向上している気がするんですが、これも何か秘密があるんですか?」
「そこに気が付くとは流石だね、ワトソン君」
まぁ実際、こんなスピードでレベルアップしていたらおかしいとは思うよな。
俺のボーナススキルであるPT取得経験値倍増は20倍の経験値が貰える。
これは複数ジョブ持つ俺には実質120倍ものスピードで、オリヴィエとミーナはマルチジョブはないから20倍なのだが、そもそもPTの取得経験値は人数で割られているはずだ。
2人ではそこまではっきり実感できなかったが、3人になった時のミーナのレベルアップは倒した敵の数からすると、かなり鈍かった。
だから経験値がPTで分割されていると思ったのだが、だとしたら普通のPTはダンジョンを探索する際はフルPTで挑むことが当たり前だし、そうじゃないと厳しいというのが現状のようだ。
だからフルPTでやっと敵を倒しても貰える経験値はソロの時の8分の1となり、そもそも大変なレベルアップがさらに鈍化していくことになる。
その点、俺達は20倍されているうえに、PTメンバーまで少数と来ているのだから、計算するとこの世界の通常の成長速度の53倍以上もの速度で成長出来る。
って、凄いな・・・俺。
なんか知らんが頭の中で即座に計算出来たぞ。
掛け算と割り算なんか大人になってからというもの、スマホという身近な便利ツールの中の電卓とかいう文明の利器に頼り切って俺の演算能力は日々退化を続けていたが、これも若返った影響なのかな?
「ワトソン・・・とは何かの比喩表現ですか?」
「あ、いや・・・忘れてくれ。ちなみにちゃんと成長の秘密はあるぞ。秘密だけど」
ボーナススキルは別に教えてもいいけど、さらに突っ込まれて由来なんかを聞かれたら俺にもわからないとしか言えないし、下手なことを言うとまた俺=使徒説が再燃しかねない。
だったらまぁなんかわからないけどよく育つな、くらいに思っていた方が健全な気がするんだ。
「秘密ですか・・・」
秘密だっていっただけなのに、「なるほどナルホド」とか小さく呟いているミーナは顎に手をやって何かを考えているようだ。
なんかそんなヒントにもならないピースから正解に限りなく迫ってきそうな雰囲気があるから凄いよな。
まぁ今すぐは無理だろうけどね。
まさか俺が異世界のVRMMORPGのβテストでゲームをはじめて、そこで設定したスキルがこの世界に来てそのまま受け継がれているなんて、IQが2億あってもわからないだろう。
俺自身だって未だにわけわかってないからな(笑)
「ご主人様、そろそろ見えると思います」
お、近いと言うだけあってほんとにすぐだったな。
ミーナとちょっと話している間に次の標的に辿り着いてしまった。
「お・・・?あれは・・・」
オリヴィエの導きで見えてきた敵は、また初めて見るモンスターだった。
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