第63話 ゴブリンPT
「ご主人様!一撃ですよ!凄いです!」
「物凄い迫力の一刀でしたね・・・魔物を一撃で倒すなんて・・・さすがサトル様です」
オリヴィエは興奮した様子でぴょんぴょん跳ねながら俺に尊敬の眼差しを向けてくれているが、そんなに近くで上下に跳ねたら君のたわわに宿っている男の夢も一緒に揺さぶられて尊敬できない眼差しを向けてしまうのでやめていただきたい。・・・いや、やっぱり引き続きお願いいたします。
今のが俗にいうクリティカルヒットとか会心の一撃とかいうやつかな。
自分でやっといてなんだけど、たしかに凄かった。
なんか・・・こう・・・攻撃の流れの動きがすべてが上手くいったような・・・理想とする型どおりに出来たみたいな、真っ白なパズルを形も見ずに当てずっぽうで試したのに、ピタッとハマったような感触。
「同じことを毎回やれと言われても出来そうにないが、上手くいくとこういう攻撃も出来るもんだな」
「・・・こうですかね?・・・こう!」
さっきの俺の動きを真似て素振りするオリヴィエ。
でも、あの動きを全く同じにトレースしても同じ結果にはならない気がするんだよな・・・なんとなくだけど。
この世界の事だから、攻撃の何パーセントで起こる・・・みたいなことがあったりしそうなんだよね。
「ちょっとビックリはしたけど、わかっていれば対処可能な範囲かな。攻撃を受けた感じも致命的ってわけではなかったし。これなら6層でもやっていけそうだな」
「ご主人様ならば問題になりようがありません。先程の戦闘で私達は何もできませんでしたが、勉強にはなりました。同じ攻撃がきても対処して見せます!」
「私は敵の正面に立つわけではありませんので、オリヴィエさんが大丈夫ならば問題ないですね」
「よし、それじゃあ次からは敵の数を選ばずに近くの敵から狩っていこうか」
オリヴィエとミーナからもGOが出たからお試しはやめて、ここからは普通にやることにする。
俺の指示に頷いたオリヴィエはさっそく敵を捕捉したようで、案内を開始してくれた。
「そういえば、さっきの魔物はどのようなものを落としたんですか?」
一緒に歩き出した直後にミーナが俺がさっさと拾ったドロップアイテムがなんだったのかを聞いてきた。
先頭を歩くオリヴィエはこちらを振り返りこそしなかったが、頭の上で動いていたレーダーがこちらをロックオンしたまま止まったので、興味はあるようだ。
「あー・・・これだ」
まだバックには入れずに手に持ったままだったそれを少しだけ削ってミーナの口の前に持っていく。
「これは・・・塩・・・ですか」
促されるままに俺の手の上の白い粉をペロリと舐めたミーナがすぐにその正体に気が付く。
「塩・・・だな」
川の上に居た鮭が塩をドロップするとか、なんとも微妙な気がするが、海から遡上してきたという裏設定でもあるのだとしたらおかしくもないことなのか?
ドロップアイテムは敵に関係したものを落とすことも多いが、ゴブリンフラワーという名の小麦粉とかはゴブリンになんも関係ない気がするが、アイテムの冠名にゴブリンってつけて無理矢理関連付けているような気も・・・。
あ、オリヴィエの耳がしょぼんってなってる。
さすがに塩はドロップアイテムじゃなくても手に入るしな・・・。
ドロップアイテムだから質がよかったりするのだろうが、舌の肥えたグルメでもない限り塩の良し悪しなんてわからんよね・・・。
少なくとも俺は、高級な塩を使っているよ、とか言われて上司に奢ってもらって食べた肉は、美味しい高そうなお肉だなぁという庶民的な感想しか抱かなかった。
コンビニで買える食塩を使ったものでも同じ感想になる自信だけは大いにある。
醤油とマヨネーズさえあれば大抵の物は美味しくなると思っている俺の貧乏舌レベルだけはそこら辺のものには負けませんぜ!
・・・自分で言ってて悲しくなってきた。
「まぁあの鮭が落とすのが塩だけってことはないだろう。もしかしたら魚を落とすかもしれないぞ」
しょげているオリヴィエのモチベーションを上げとかないとな。
戦闘に悪影響があってはいかん。
ちゃんと思惑通りに尻尾が揺れているのがなんとも可愛い。表情が透けて見えるようだぜ。
「ダンジョンに限らず、魔物が落とす物は最低3種類あるとされています。あくまで確認されている物の中では、ですが」
たしかにここまで複数種類をドロップする個体しか居なかったな。
中には3種類の確認を出来ていないものもいるが、オリヴィエの特殊モードが発動している時は対象の個体以外の遭遇率が著しく下がる傾向があるから、何種類かのモンスターは戦闘回数自体が少ないものも居たりするからしょうがないな。
「ご主人様、もうすぐです」
「お、はやいな」
オリヴィエの言葉に前方を注視してみると、3つの影が動いているのが確認出来た。
「あれ、またゴブリンか。・・・ん?」
次第にその姿をハッキリと視認出来る距離までくると、今までと様子が違うことに気が付く。
鑑定を使ってみると、
ゴブリンソルジャー
ゴブリンウォリアー
ゴブリンアーチャー
という3種類がそれぞれ1匹ずつ確認出来た。
装備はソルジャーが長剣、ウォリアーが短剣に盾、アーチャーが弓を持っている。
アタッカーとタンクと後衛というまるでバランスのいい人間のPTのようだ。
魔物もバランスとか気にするのかな?
「俺は剣と弓のやつを受け持つ、オリヴィエ達は盾のやつを頼む」
オリヴィエなら大丈夫だろうが、現状一番レベルの高い俺が攻撃力の高そうな個体を受け持つのがいいだろう。
俺だったらダメージを受けてもすぐに回復することが出来るし、ある程度攻撃を受けても大丈夫な自信もある。
自分以外のダメージはわからないからな。戦闘中にいちいち状況確認を行うと別のエラーが発生するかもしれないから、低確率でも起こり得るもしもはなるべく排除した方がいい。
だからオリヴィエには盾役の敵を当てがったのだ。
「「了解です!」」
「いくぞ・・・ファイアーボール!」
今回の敵は付かず離れずの位置関係にあったため、範囲魔法は意味を為さないと判断した俺は、右後方にいたゴブリンアーチャーをターゲットに魔法を放ち、その行方を見ないままに自身は長剣を持つゴブリンソルジャーに突撃した。
ギッ!?ギャアァァ!
俺の魔法がヒットし、不意打ちを食らったゴブリンアーチャーは魔法の勢いで後ろに飛び、草の上を滑ると、それを見た他のゴブリン達が俺達の存在に気が付き、汚い雄叫びをあげる。
しかし、完全に先手を取った形の俺達はそれぞれの魔物へのファーストアタックも勝ち取り、各々が一撃ずつ攻撃を当てる。
俺が矢継ぎ早に次の攻撃を当て、もう一撃・・・と思った時、風を切る音が聞こえ、矢が飛んできた。
「ほっ!」
しかし、その存在を認知していた俺はちゃんとそっちにも意識を向けていたことが功を奏し、ゴブリンアーチャーが放った矢をギリギリで躱すことに成功した。
俺もちょっとは戦闘に慣れてきたかな。
という感想を持った横でゴブリンウォリアーの短剣をすべて避けながら確実にカウンターを2、3回づつ当てるのを見ると自信を無くしそうになるな・・・。
「やあ!」
そんなくるくる回るオリヴィエとずっとコンビを組んでいるミーナも、どんどん連携力を増していて、隙を見て的確なタイミングで攻撃を入れていたりする。最初こそなれない戦闘に緊張していたミーナだったが、順調にこの状況へ適応してきているようだ。
「俺も負けてられないな・・・ファイアーボール!」
目の前のゴブリンソルジャーの剣を半身で躱しながら、次の弓を番えて弦を引こうとしていたゴブリンアーチャーへ再び魔法を放つ。
ゴブリンアーチャーは火の玉を顔面で受け止め、その攻撃はキャンセルされたようだ。
魔法を放った俺に薙ぎ払い攻撃をしてきたゴブリンソルジャー。
まるでバットを振るように剣を振るその左腕を狙い、タイミングを合わせて振りを小さくした剣撃を当てる。
すると、ゴブリンの腕が飛んだ。
牽制のつもりで出した攻撃は、相手の勢いも合わさって思いもよらぬ効果を生み出したようだ。
「お・・・っしゃ!」
片腕が飛んだことで勢いを失った攻撃は俺の横っ腹に当たったものの、ダメージはほとんどなく、絶好機を感じた俺はそのまま連続で攻撃を加え、ゴブリンソルジャーを霧散させた。
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