第62話 特殊攻撃

6層についてすぐにステータスチェックをしてみると、俺の最初からつけっぱなしの4種と奴隷商人の計5種の職業がLv10、村人がLv8になっていた。

オリヴィエは剣士Lv8に上がっていたが、ミーナは槍使いLv6のままであった。

またレベル差が開いたが、たぶんこのまま続けていれば差はほとんどなくなると予想している。


ゲームでも新規参戦キャラのレベルは最初こそ開きがあるものの、そのうち高レベル帯になると最初の頃の差など誤差になったりするしね。


「よしっ・・・オリヴィエ、また索敵を頼む。・・・あ、最初は敵の強さを計りたいから数が少なそうな気配があったらそっちを優先的に選んで向かうこととか出来るか?」


1層進んだだけであれほど余裕だったものがいきなり歯が立たない位に強くなるとは思わないけど、安全策はとるに越したことはない。

石橋を聴診器つけて叩く必要はないにしても、足先で崩壊の予兆がないかを確かめる位のことはした方がいいだろう。


「わかりました。・・・それでしたらこちらですね」


少しの間くるくる回っていたオリヴィエレーダーはすぐに敵を察知し、俺達の案内をはじめてくれた。

ガチ有能。


はじめて訪れた6層だが、いまだに森の地形であるために全く新鮮味を感じられないダンジョンを進む。


「なんかこう・・・層が進んでも景色が変わらないとあまり進んでいる気がしないよな」


1層1層地形も敵も変わったりしたらそれはそれでめんどくさそうだけど、ここまで全く変更ないっていうのもな・・・。


「そうですか?たしかにここまではあまり変化はありませんでしたが、6層は音の景色がかなり変わっていますよ」


ごめん、俺は耳に視覚は搭載してないから音の景色を認知出来ないんですぅ。


「5層とはどう違うのですか?」


ほーら、ミーナもこっち側ですよ。


「この層は今までと違ってどうやら川があるみたいです。ちょうど単独の気配がそちらにあったので今向かっているところですね」


ダンジョンにも川があるのか。

もしかして、今まで経験しなかっただけで雨とかも降るのかな?

こんなとこでびしょ濡れになったりしたら嫌だなぁ。

レインコートなんてないし、あってもそんなん着て戦えないしなぁ。

そういえば、この世界に来て雨に降られたことないな。


「ダンジョンの川の水って飲めるのか?」


「飲むこと自体は出来るみたいですが、いくら飲んでも渇きは癒えないそうですよ。ダンジョンの自然物は一部、ククレ草のように採取できる一部のものを除き、この生えている木なども切ったら倒した魔物のように霧散してしまうようです」


ってことはダンジョン内部のものってすべて魔物と同じ由来の不思議物質で構成されてるってことなのかな。

魔法を使わずに水が確保できるなら便利かな・・・っと思ったけど、最近はMPにもかなり余裕が出て来たし、そもそも1回の戦闘で使える魔法ってクールタイムがあるから、今のところはほぼ1回なんだよね。


最初に使って、次に使えるようになった時にはもう魔法が必要な状態ではないからな。


そして、次第に俺の耳にも水音が聞こえてきた。

そのまま音のする方向へと進んでいくと、木々が途切れた場所に出た。

そこにはオリヴィエが言った通り、澄んだ水が流れる全幅が5mほどのしっかりとした川があった。


「居ました、あそこです」


「え?」


オリヴィエの視線を追うと、そこには・・・鮭が1匹、優雅に泳いでいた。

しかしその光景にはかなりの違和感がある。

違和感の正体は一目瞭然。何故なら視線の先で遊泳を続ける魚は爽やかな音を奏でる澄んだ川の中ではなく、その上空を優雅に泳いでいたのだ。


その姿はまるでネットゲームで位置情報のバグで、本当は川の中にいるのにサーバーとの同期がズレてその上空に表示されてしまったようだった。


「なんか、すっごい頭がバグりそうな光景だな」


魚は鑑定によるとミレアサーモンという名前で、れっきとした魔物であるらしい。

ダンジョンにいる時点で魔物なのは確実なのだろうが、浮遊は別としてそのサイズは自然界に存在しうる鮭のものだったので、逆に浮いている事実が不自然に映るんだよな。


「ばぐり・・・?どこかの方言でしょうか?」


「あ、いや。気にしないでくれ」


俺の呟きに反応したミーナだったが、どう説明していいのか分からなかった俺は濁してやり過ごした。

パソコンはおろか、電子機器の存在しないこの世界でバグと言っても虫がどうしたとか言われそうだしな。


「・・・来ます!」


オリヴィエの言葉をスイッチに頭を切り替え、戦闘モードへ移行すると同時に川の上を流れに逆らって遡上するような動きで泳いでいたミレアサーモンは、突如その動きをこちらに向け、川の上から飛び出してこちらに向かって飛んできた。


魔物を発見してその異様な光景の感想を抱いているうちに接近されてしまい、魔法で先制することが出来なかったが、今回の敵は単体だからその対処は難しいものではない。


真っ直ぐこちらへ泳いでくる鮭を剣で斬りつけると、攻撃を受けたホーミングサーモンは空中でピチピチ跳ねまわるという奇妙なリアクションを数回とった後、横倒しになっていた体を起こしてこちらを正面に向け、再び向かってくる・・・のかと思いきや、その場で体をピクピクと震えさせはじめた。


「・・・なんだ?」


急に動きを止めて小刻みにバイブレーションし出した魚に思わず足を止めて様子を窺っていると・・・


  プシュッ!


というまるでどこからか勢いよくエアーが漏れ出したような音がしたと思ったのと同時に俺の右肩辺りに衝撃が走った。


「!?」


前方から突然きた衝撃に、力が加わった俺の右半身を筆頭に体全体が後ろに飛ばされる。


「「ご主人様!」」


心配したオリヴィエとミーナが同時に俺を呼ぶ声が聞こえ、駆け寄ろうとしているのが視界の端に見えた。


俺は咄嗟に右足を引いて地面に突っ張り、飛ばされた右半身の衝撃を相殺する。

半身で飛んでいる状態だったから右足一本使えなかったが、それでもガリガリと土を削りながら徐々に勢いを殺していき、完全に停止したところで左足も地面に着いて完全に体勢を戻す。


「大丈夫だ。不意を突かれて飛ばされてしまったが、ダメージ自体は大したことはない」


右肩を見ると、衝撃があった部分を中心に濡れていた。

完全に油断していてもろに攻撃を受けてしまったが、何をされたのかはハッキリと見えた。


プルプルとミレアサーモンが震えた直後、やつの魚独特のおちょぼ口から水が勢いよく噴射され、俺の右肩に直撃したのだ。

備えの出来ていない状態で攻撃を受けたこともあり、リアクションが派手になってしまったが、その衝撃自体は5層のホブゴブリンの一撃とさほど変わらない位だったから、ヒールするほどでもないし、まぁしてもいいかな位の微妙なものだ。


「はじめて魔物の特殊攻撃めいたものを体験したな・・・」


そらそうだよな・・・。

魔法があったりする世界のモンスターが通常物理攻撃だけなはずはないよね。

ここに来てからというもの、狼やゴブリンばっかり相手にしていて、敵がそういったものを使ってくるということを考えておくという基本的な備えをいつの間にか放棄してしまっていた。


そしてまだその場で浮遊したままのミレアサーモンは、再びその体を振動させ始め、


  プシュッ!


と、先程と全く同じ攻撃をしてきた。


「いや・・・さ、す、が、に!」


直線軌道の攻撃はくる方向とタイミングさえわかっていれば避けることはたやすい。

最初の一言目でミレアサーモンの吐き出した水撃を躱し、標的に迫るための踏み込みと語気に力を込め、一気にその距離を詰める。


「・・・ナメんなよ!・・・っと!!」


前進に使った力も上乗せさせ、空中を泳ぐモンスターに思いっきり剣をその脳天に叩き込むと、今までにないまるで何かががっちりと嚙み合ったような感触を得る。






俺の渾身の力を乗せた一撃を直上から受けたミレアサーモンは、びたーんと地面に叩きつけられ・・・


そのまま霧散して消えた。

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