第61話 範囲魔法
オルセンの屋台を後にした俺達は、食材の買い物を済ませてそのまま家に帰宅した。
やはりオルセンの屋台の登場で今まで廃棄していた小魚にも価値が生まれたのと、獲れた分のすべてを既に商業ギルドに確保されていたため、俺達が購入する分は既になかった。
オリヴィエが残念がっていたが、別にフライは小魚でなくても作れることを伝えると、落胆から一転してその表情には花が咲く。
小魚は買えなかったが、普通のサイズの魚は普通に売っていたため、そっちを中心に買い、今はパンが作れるようになったため、小麦粉を大量に購入した。
今のところ我が家の食卓に並ぶうち、小麦粉を使ったものの占有率は半端ないのでいくらあっても問題ないだろう。
そんなにすぐに痛むものでもないしね。
ちなみに例の不審人物達は俺達が屋台街に入って少ししたくらいのタイミングで居なくなったらしい。
明らかに行動を追っていたことから彼らのターゲットが俺達にあることはほぼ確実だと思うが、いまいち目的がわからないのが不気味なところではある・・・が、それだけでこちらから危害を加えた場合はこちらが加害者となってしまう可能性が高い。
だからもどかしいとは思っているものの、今のところは放置としている。
「荷物を置いたらダンジョンへ行こうか」
ダンジョンへ行ってレベルを上げることは俺達の安全にも直結する。
金策にもなるし、空いた時間は積極的に潜っていきたい。
「わかりました!すぐに準備しますね」
もう慣れた準備を済ませ、ダンジョンへと向かうことにする。
目標は前回の探索後に言った通り、6層だ。
「今日は5層の魔物を狩りつつ、6層を目指そう」
「わかりました!」
「了解です」
ダンジョンに潜るとなるといつもオリヴィエは元気だな。
ミーナも静かに気合を入れているようだ。
ステータスチェックも済ませて家を出て、ダンジョンの入口まで来た。
今日はあの不快な連中もおらず、すんなりと入口を通り、中へと入る。
「・・・ご主人様、こちらです」
入ってすぐにレーダーをフル回転させるオリヴィエは、もう何も言わずとも索敵を実行してくれる。
オリヴィエの導きに従い少し進むと、魔物の姿が見えてきた。
またゾンビじゃないかと懸念していたが、予想と違って見えてきたのは蠢く木ウォーキングウッド2体とホブゴブリン1体の混成だった。
「俺は木の方に行く!」
「「はい!」」
戦闘中の指示はなるべくわかりやすく簡潔にしたい。
だからこういう混成グループの場合は複数体の方を俺が担当することにして指示の簡素化を図っているのだ。
「ファイアーレイン!」
俺が魔法名を叫ぶと、手のひらから打ち出された炎の塊がウォーキング2体の木の頭上で弾け、細かい矢のような形状となった炎が標的に降り注ぐ。
最近はずっとファイアーボールを使っていたが、魔法はある程度イメージとあった魔法名で発動させることで実現する。
実は今朝の午前中、二人が寝ていて暇だった時間に範囲魔法的なものを使えないかと検証していたのだが、その時にまずそれっぽいストームとかトルネードとかをやってみるも発動せず、上手くいったのがこのファイアーレインだったのだ。
発動するのはどういう基準なのかはいまだにわからないから、現状は暇なときに色々試してみるしかないだろうな。
降り注いだ炎はモンスターの体で小さく延焼した後、5秒程の時間で消えていった。
ダメージは与えているだろうが、印象的にファイヤーボールよりは小さい気がする。
まぁ範囲攻撃1体当たりのダメージが単体攻撃よりも小さいのは当たり前だよな。
2体同時にダメージを与えたため、2体とも俺に向かってくる。
望むところなので、ゆっくりと剣を構えて2体同時の攻撃に備える。
ウォーキングウッドは両端に伸びている腕のような枝を振り回して攻撃してくるため、割と人体に似た動きをしているから予測がしやす・・・いと思ったら
「おぉ!?」
左の個体はいつも通り枝を鞭のようにしならせた攻撃だったが、右のやつは幹を大きく前後させてまるでヘッドバッドのような攻撃をしてきた。
虚を突かれた俺は予想内の枝は躱したものの、2m程の背から振り下ろされた太い幹の攻撃を右の肩口で受けてしまった。
「ぐっ・・・この!」
頭上から振り下ろされる丸太のような幹の攻撃のインパクトの割には衝撃は大したことはなく、すぐに反撃の一撃を加える。
斬りかかっていない方から次の枝が飛んできたが、視界内に捉えていたそれを冷静に標的にされた頭を下げ、躱して俺の攻撃にまだひるんでいた幹攻撃をしてきた個体に再び斬りつけると、霧散した。
1対1なら余裕を持って対処できる。
3回程攻撃したところで倒すことが出来た。
単体魔法で相手した時はその後の物理攻撃が3回必要だったということはなかったから、やはり範囲魔法であるファイアーレインはファイアーボールよりも1体あたりのダメージ量は少ないのだろう。
だが、半径2m程に影響を及ぼす範囲魔法は状況によっては2体以上のモンスターへ同時攻撃することも出来そうだ。要は使い方だな。
2体のウォーキングウッドを倒した俺は、まだ戦闘中のオリヴィエ達の元へと向かい、オリヴィエに夢中になっていたホブゴブリンの背中へと剣を振り下ろし、それを消滅させた。
「やはり、ご主人様にはまだまだ及びませんね」
「サトル様に普通の人間が対抗するのはかなり難しいかと・・・」
いや、俺は普通の人間のつもりなんですけど・・・。
ボーナススキルとかいうチート持ってる時点でそれは通用しないか。
今回のドロップアイテムはウォーキングウッドからはブランチという木の枝とメープルシロップ、ホブゴブリンはゴブリンフラワーという白い塊をドロップした。
ブランチは前回の探索でも手に入れていたが、これはちゃんと素材としての利用価値があるらしく、ギルドで普通に売れた。
メープルシロップは2度目の入手。ブランチよりはレアっぽいがこれはうちの食生活の向上に利用させてもらう。
ホブゴブリンからドロップしたゴブリンフラワーは初出だな。
「これは・・・小麦粉だな」
フラワーは花ではなく同音異義語で小麦粉という意味があるからそのままだな。
塊だったものも、少し力を加えると粉状に分離したので間違いないだろう。
小麦粉は大量購入したばっかりだから別にいらんなぁ。
「よくご存じですね・・・。あ、これも鑑定ですか?」
「そうだな。名前から予想出来るものならわかる」
「名前ですか・・・なるほど」
何を納得したのかわからないけど、ミーナはかしこだからこの少ない情報からも何かを掴んだのかもしれないな。
「二人共攻撃は受けてないか?」
「はい。ご主人様のおかげでこちらは1体だけでしたので楽をさせていただきました」
「俺が相手出来ない敵を任せられるのはオリヴィエだからこそだ。俺も助かってるよ」
「あ、ありがとうございます」
戦闘中はあんなに勇ましいのに褒めると毎回こんな感じになるのがなんとも可愛いよね。
その後はオリヴィエの案内で敵を倒しながら進み、ゾンビやフォレストハウンド、ウォーキングウッドやホブゴブリン、一角ラビットなど様々なモンスターをなぎ倒しながら突き進んでいき、そう大した時間もかからずに俺達は6層への続く階段の前までたどり着いた。
「よし、それじゃあこっからは魔物も更に手強くなるらしいから、気合を入れて挑もう」
油断してやられましたはこの世界では取り返しのつかない失敗となるからな。
ましてやここからははじめて踏み入れる階層だ。
慎重に、油断せず行こう。
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