第59話 酒屋
パン作りの成功で気をよくした俺は、夜に怖いもの見たさで今だけと心に誓いまたアレをつけたが、その効果はバツグンだった。
さすがにこれ以上はと思って途中で外したけど・・・。
アレをつけた状態だと2人相手でも苦戦しないどころか、完勝出来てしまうくらいにぜつのりん太郎と成ってしまう。
これならもっと仲間を増やしても問題ないな。オラ、ワクワクすっぞ!
「うわ・・・」
こないだの村人の時から欠かすことなく実行を続けていた朝と夜のステータスチェックを今回もした時、異変に気が付く。
色情魔 Lv3
・・・えーっと、これは?
昨日の朝のダンジョン探索で色情魔をつけていた時間はほんの少しだったから、色情魔のレベルが3まであがるほどではなかったはずだ。
だとすると、こうなった原因は・・・やっぱり昨晩のアレだよな・・・。
職業の名前的にもその行為で経験値が入るということにそれほどの違和感は感じないが、実際にソレでレベルが上がっているというのを目の当たりにすると、何とも言えない感情になるな・・・。
アレで経験値が入るとなると、毎日つけたくなってしまうが、そんなことをしたらいつか二人に夜逃げされてしまいそうなのでやめておこう。
1回か2回までなら・・・まぁその時の雰囲気や空気をしっかり汲み取って状況を分析、理解して臨機応変に行動を履行して明確な目安に目星を巡って信賞必罰を勧善懲悪で不惜身命しよう。
・・・何言ってんだろ・・・色情魔の影響かな?
ちなみに寝る前に色情魔はキチンと奴隷商人へと変更済みだ。
じゃないと今横で寝ている二人を強制的にたたき起こしかねん。
色情魔の他に戦士や魔法使いもLv9に上がっていたが、これは夜の結果ではなく、ダンジョンでの経験で上がったものだ。
オリヴィエはLv7、ミーナは2つあがってLv6になっていた。
二人のレベル差が縮まってミーナが追いつきそうだ。
戦闘の様子を見る限り、ミーナもだいぶ慣れてきているようだが、オリヴィエと違って自分の体の動きがどんどん鋭くなっていくことに少々の戸惑いを見受けることもあるが、その戸惑いはなんとか自分の中で消化しているようで、俺に疑問をぶつけてくるようなことはなかった。
昨日の夜のハッスルのせいで、二人を起こすことに気が引けていた俺は自然に目覚めるのを待っていたら、結局起きてきたのは昼時前になってしまった。
無理させてごめんなさい。苦情は色情魔までお願いします。
一日2食が基本のこの世界に昼食という文化はないから、遅めの朝食となった食事を俺が作っている間に、りん太郎のせいで悲惨なことになっているベッドの洗濯をオリヴィエとミーナがしてくれた。
「すまないな」
「い、いえ・・・こちらこそ寝坊してしまい、申し訳ないです」
洗濯し終わって戻ってきた二人にお礼を言うと、赤面して目を逸らされながら謝られ返されてしまった。ちょっと興奮するからやめていただきたい。
「飯は出来てるから食べようか。それが済んだら街へ溜まった戦利品の納品と食材の買い出しに行こう」
「「はい!」」
背負い袋に入るだけ詰め込んできた冒険者ギルドへの納品物を笑顔の引き攣るマリアさんの前に提出して報酬をもらった後、俺達は昨日話していた酢を手に入れるため、ミーナの案内で酒屋へとやってきた。
「おう、いらっしゃい」
店に入ると、丁度奥から出てきた背は低いがガッシリした体系に蓄えた髭を持つなんとも色々な物語でみた雰囲気の男性が出て来たが、鑑定を使うと俺の予想通り、その男の種族は「ドワーフ族」となっていた。
「酢が欲しいんだが、置いてあるか?」
「ここに来てついでに酢を買っていくやつはたまにいるが、第一声で酒以外を求めるなんて、おめぇ珍しいやつだな」
色々なものに使える酢だけを求めることがそんなに変かな?
「酒も買っていくよ。どんなのがあるんだ?」
俺は酒を飲めないわけでも苦手なわけでもないが、一人で飲んだりはせず、誰かが飲んでたら一緒に付き合うかな程度だから、別になかったらないでいいけど、酒はたまに料理にも使うし、今は一人じゃないしな。
オリヴィエ達が酒好きかは知らないけど、あって困るもんでもないだろう。
「醸造酒ならワインやエール、蒸留酒なら強いのから加水して飲みやすくしたものまで色々あるぞ」
料理のバリエーションは少ない癖に酒は色々あるんだな。
「オリヴィエとミーナは酒を飲めるのか?」
「私は飲んだことがありませんね。家族にも酒好きはいませんでした」
「私は商品の見定めに試飲する父に少し頂いたことがありますが、その時はあまり美味しいと感じはしませんでしたね」
オリヴィエは未知数だけど、ミーナは苦手な感じか。
じゃあそんなにいっぱいはいらないかな、
「じゃあこのワインと蒸留酒のオススメを数種適当にくれ。酢も一瓶な」
俺は目の前のカウンターの上にあった赤ワインに指差しながら注文する。
「あいよ。そこにあるのは俺が仕事中に飲んでるやつだから美味いぞ。裏から新しいのを持ってくるからちょっと待っててくれ」
そういうと店主は裏へ引っ込んでいった。
「ドワーフってやっぱり酒好きなのか?」
「そうですね。酒嫌いのドワーフというのは聞いたことがありません」
オリヴィエもウンウン頷いているからミーナの言うことは正しいのだろう。
どんな話でもドワーフって鍛冶が得意で酒好きでっていうのがテンプレだよな。エルフとも仲が悪かったりするんだろうか。エルフが居るか知らんけど。
「エルフって街には居ないのか?」
「エルフ族は森の中に住んでいて、人里にあまり寄り付かないですね」
最近こういう質問をすると、ミーナが答えてくれるようになってきた。
最初はオリヴィエも答えようとしてくれていたが、ミーナの方が知識が豊富だから自然と任せるようになったようだ。
オリヴィエは今も外の方を見ているしね。
そして当たり前のようにエルフは存在するらしい。しかもイメージ通りの暮らしっぷり。
「ふーん。やっぱり菜食主義だったり、魔法や弓を得意としたりするのか?」
「・・・?いえ、エルフも狩りをしますし、特に隔たった食生活を送っているということは聞いたことがないですね。弓は狩猟生活が根付いているのでその通りだとは思いますが、魔法を使えるものは他の種族同様の比率だと思います」
この世界のエルフは肉食なんだな。肉食って表現もおかしいか。
でもエルフってなんか憧れるよなぁ。
最初にみたのは子供の頃に好きだった東欧の島を舞台にした話で登場したエルフだったかな。
その辺から最近に至るまで、異世界ものではほぼ皆勤賞をとってしまうのではないかというくらいにエルフというものはよく登場してくるし、そのほとんどは美人ばかり出てくる。
この世界のエルフも美形ぞろいなのだとしたら、一度見てみたいものだ。
「なんだ、兄さんエルフなんかに興味あるのか?やめとけやめとけ、あいつら他の種族のことを基本的にバカにしている性悪ばっかりだぞ」
傲慢エルフ系なのかぁ・・・とか思っていたら
(ドワーフ側からのエルフの印象はあまり鵜呑みにしない方がいいです。・・・ドワーフはエルフを嫌っている者が多いみたいですので・・・)
と、ドワーフの主人の言葉を聞いたミーナがそっと俺の耳元で補足情報を教えてくれた。
やっぱり仲悪いんだね。
「これが注文の品だ。ワインは御覧の通り、ドワーフのフルPTが来ない限り、余裕を持って作り置きしてあるからまたいつでも買いに来てくれや」
奥に積み重なった樽を指差して在庫アピールをしてくる店主。
というか、ドワーフ8人いたらあの量じゃ足りなくなるって、どんな飲み方するんだ・・・。
壁一面に何段にも積まれている樽を見るに、かなりの量がありそうなのに・・・。
ん?・・・樽か。
「ご主人。樽ってこの街で買えるのか?」
「樽ならダストンのところで頼めば作ってもらえると思うぜ、あいつは器用だからな、大抵のものは注文すりゃ作ってくれんじゃねーか?」
「それはどこにあるんだ?」
という質問にも丁寧に答えてくれた店主だが、よくよく聞いたらその店はウィドーさんのところの雑貨屋のようだった。
あのウィドーさんがダンナって読んでいたガタイのいい男がダストンという名前だったらしい。
「ありがとう。また買いにくるよ」
「おう!またいつでも来な!」
目的の酢を手に入れた俺は、ドワーフの酒屋を後にする。
すると、店を出てすぐ、オリヴィエがそっと俺の後ろに近寄り、小さな声で話しかけてきた。
「ご主人様・・・。誰かがこちらをこっそり窺っているようです」
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