第54話 満足
「よ、よし・・・ちょっとはやいけど、今日はこの辺にして帰ろう」
いかん・・・もう限界。
これ以上は頭がおかしくなる。
「ちょっとはやい気もしますが、ご主人様が言うなら・・・」
あれから3時間程湧き出してくる欲情を抑えてなんとか頑張った後に、いよいよその場で襲い掛かろうとしそうにまでなってしまった時に慌てて色情魔を奴隷商人へと変更したのだが、高まった欲情はおさまることはなく、直ちに帰還を提案した。
あかん・・・こんなのはじめてっ。
速足で先頭をゆく俺に黙ってついてくる二人を連れてダンジョンを出て家へと帰還した俺はダッシュで二人を奪取した。
「ふぅ・・・あれはあかん。普段は封印しよう」
とりあえずズボンだけを履いた俺はベッドに腰かけ、ダウンしている二人を横目に呟く。
あんな職業の効果・・・職業が変えられる俺だったからよかったものの、普通の人が取得してしまった時はどうするんだ?
あんな無限に湧き出る欲情をこらえながら生活することなんて人間に可能なのか?
いや・・・だからこそ「色情魔」なのか?
こんな職業を間違ってでも取得してしまったやつは大金持ちか俺みたいに・・・いや、それ以上の奴隷でも持ってないと維持できないだろうな・・・。
こんなもん持ってたら・・・あ、もしかして街で色情魔を見ないのってこれを取得する人がいないんじゃなくて、これを取得した奴は漏れなく罪人落ちしてるからか?
あのどんどん湧き出す欲情を実体験している俺はわかる。
もし色情魔持ちが性犯罪を犯したとしても相手次第では肩をポンと叩いて頷いて見せる位わかってあげられる。
あれを我慢できる奴は人じゃないってこと。たぶん即身仏寸前のやつだって動き出すぞ。
とりあえず、二人へのお詫びとして兎肉の兎カツとダンジョンに行くときに見かけた食用の草を素揚げした天ぷらモドキを進呈しよう。
パンの消費は少ないだろうけど、おかずだけってわけにもいかんから一応出すからそれ用のスープも作らんとな。
あ、そうだ。
さっき手に入れたアレを使えば練った小麦粉だけでも少しは美味しく食べられるかも。
色情魔を持った状態の時はそれを使えば夜の生活が・・・とかぶっ飛んだ感想しか持てなかったから忘れるところだった。
ほんとにあれは一度体験してみてほしい・・・マジパないっす。
「ごしゅひんはま!どれもこれもおいひいふぇふ!」
そんなに口に含んで喋ってるのに中身が一切飛んでこないのはなんかのスキルなんですか?
「むぐむぐ・・・魔物の落としたメープルシロップを頂けるなんて・・・サトル様、ありがとうございます!」
ミーナは違う方向の感動もしているな。
メープルシロップはウォーキングウッドからドロップしたアイテムなんだが、売れば高くなると欲に染まった意識の端で誰かが言っていた気がするが、別に金に困ってないし、金をかけても美味しいものが食べたい今の俺が売るはずもなく、今日でた1個は全部使った。
シロップはちゃんとした入れ物のようなものに入ってドロップしてくれればいいのに、薄ーい膜のようなものに入った状態で落とすもんだからそのままバッグに入れることは出来ず、仕方なく俺の給水用のコップに膜のまま入れてから口を布で被せて持ち帰った。
「こんな買い物がめんどくさくて冷蔵庫になんもないとき用の緊急メニューでもシロップの味がいいとちゃんと美味いな」
今回俺が作ったのは揚げ物の他に小麦粉と同量の水を練って焼いただけのものだが、ドロップアイテムのシロップが凄い良い味を出しているから俺的には今まで作った中で一番好きだが、オリヴィエとミーナは同じくらい兎カツの方も感動していた。
鶏肉に似ているからチキンカツのような感じになるかと思って作ったが、しっかりと切り込みを入れて肉を開いたのが上手くいってパン粉と肉の食感がとてもいいバランスで美味しかった。
「さふぁなのフライも・・・んぐ。魚のフライも素晴らしかったですが、この肉のフライも凄いです!」
「それはカツっていうんだ」
まぁフライでも間違いじゃないけどな。
「粉々にしたパンがこんなに色々な食材に使えるなんて・・・」
たしかにこれを考えた人って凄いよな。
わざわざ焼いたものを細かくして食材にまとわせて揚げるとか、普通考えつかないよね。
「サトル様は凄いですね・・・」
あれ・・・あーそっか。
この世界でそれを思いついた人物は俺ということになってしまうのか。
なんか発明した人に申し訳ないけど、誰が損をするということもないから別にいっか。
「こちらのシロップにかかったものも最高です!・・・はむ!」
「これはクライスに似てますが、サクッとした食感がよくてシロップがかかると最高に美味しいですね」
クライスってのは俺のこの小麦粉と水のみのやつかな?
たしかにこんな簡単なものならこの世界にあってもおかしくはないよね。
コツとしては少し焦げ目がつくくらいを目安に焼くと、パリッとしていい感じになる。
「簡単なものだけど評価が高くてよかったよ。もうちょっと調味料があればもっと色々なものが作れそうなんだけどね」
料理研究家とかなら今の状態でも工夫して色々なものを作れるんだろうけど、ただ一人暮らしが長い程度の俺にはこれ以上の工夫はちょっときついよねぇ。
だからオリヴィエさん、そんなに熱い視線を送らないでください。
「調味料などもダンジョンで手に入るというのは何かの本で見たことありますね。どの魔物が落とすかなどはわかりませんが・・・」
ダンジョンって食材がドロップしたり素材がドロップしたり、凄い生活に根付いたものまで出るんだな。
そのわりに難易度が高いから品物が高価になりがちだけどね。
そしてオリヴィエさん、そんな反応をするからミーナが慌てて詳細はわからないって追加情報を出すハメになっているじゃないですか。
「ご主人様!明日のダンジョン探索も頑張りましょう!」
「お、おう・・・」
モチベーションが天井知らずや。
いつぞやの時のように何故か特定の魔物の下にばっか案内されるやもしれんな・・・。
明日だったら一字違ったらホラー映画のタイトルになるアイツとかが本命になると予想しておくが、このオッズはたぶん1倍以下になると思うから賭け損間違いなしだ。
このシロップは味もいいから俺も欲しいし、別に文句はでないけどね。
「魔物の落とすものには何の価値もないハズレと呼ばれるものもあるようですが、基本的には有用で高価値なのでサトル様の実力ならばかなりの稼ぎになりますね!」
さすが商人の家の娘なだけあってミーナは物の価値や稼ぎに敏感だなぁ。
オリヴィエの気持ちが稼ぎとはベクトルが違うとわかっていそうなのに、彼女が頑張ることがそれに繋がることをよくわかっている。
それにしてもハズレってどういうものをドロップするんだろう。糞とかかな?
「ハズレってどういうものがあるんだ?」
「ダンジョンで倒した魔物はほぼ確実に何かを落とすと言われているのですが、ごく稀に何も落とさなかったり、砂のような何の価値も見いだせないものを落とすことがあるようです」
砂か・・・それはたしかにいらねーな。
しかし何か恣意的なものを感じるダンジョンという場所で意味のないものをドロップさせたりするものかな?
当たりを落とさせるためのモチベを上げるためにハズレを用意するんだったら確率が逆な気がするし・・・。
ハズレの中に稀に当たりがあるなら当たった時の嬉しさが増すけど、それが逆だとハズレの時のがっかりが増すだけだよね。
全知全能であるどっかの制作者が確率をいれるセルを間違っちゃったのかな?
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