第53話 油断とヘイトと欲情と

「俺はこっちの2匹をやる!オリヴィエ達はそっちを頼む!」


「「はい!」」


5層のモンスターで最初に遭遇したのは4層でも相手にしたホブゴブリンだったが、その数はあらかじめ聞いていた通り、3匹。


だが、1匹毎に苦戦しない現状、3匹程度なら全然問題ないな。

PTメンバーの二人もいつも通り可愛いしね。


魔法を当ててひるんだ隙にもう1匹に攻撃を仕掛け、ヘイトをもらう。

こいつらは表面上は感情豊かに表情を変えたり、叫び声をあげたりはするが、戦ってみると分かる。行動原理は至極単純で、実にゲーム的だ。


攻撃をされると素直にこちらに向かってくるし、仲間がピンチになっていてもそちらに加勢するなどということはしない。仲間と思っているのか、思う心があるのかすらあやしいけど、こいつらの動きには物凄く既視感がある。


MMORPGのそれだ。


攻撃すればされた相手に向かっていき、他の人には目もくれなくなる。

まだやったことがないが、攻撃の他にも戦闘中に過度な回復したりすれば攻撃者を無視して回復した人にむかっていくのではないだろうか。


これらはゲームではヘイト管理って呼ばれていたやつだな。


魔法もあるんだから、ヘイトディール的なスキルもあるんじゃないだろうか。

スキルは今までボーナススキル以外はその存在を確認できなかったけど、俺はあると思っている。


それは奴隷商人の存在が理由にある。


奴隷商人は奴隷に対して明確にステータスに変化を起こす「契約」と「解放」が使える。

あれはたぶんスキルなんじゃないかな、と思っている。


契約書や魔法といったものとは違うものでステータスに影響を及ぼすものといったらやっぱりスキルじゃないのだろうかと思ったのだ。

魔法じゃないと思ったのは使った時に攻撃魔法を使った時のようななにかが抜けた感覚がなかったからだ。

俺が実際に使った時の感覚でしかないから確実ではないが、この話自体が確定要素がなにもないのでそんなことをいってもしょうがない。


本当に確定させなきゃいけない時がきたら俺には最近視界の端でアピールを続けてくるあの切り札さんがいる。


なんかあのスキルさんは最近凄いアピールしてくるんだよな。

ちょっと俺が何かに疑問を持ったりすると、何も書かれていないウィンドウを視界の端っこに出してきたりしてくる。


スキルなのに無視し続けていると開いたり消したりを繰り返したりするお茶目な部分があるからちょっとかわいく感じてきたりしているが、もしかしたら人格のようなものがあるのかな?。


そうだったらちょっと可哀そうだから簡単な疑問はたまに聞いてみるか。


すると視界の端でまた無記入のウィンドウが開く。

うれし・・・そう、なのか?


無記入だからよくわからないけど、なんだかそんな気がする。


「ミーナ!そっちに向かいました!」


「っ!きゃあぁ!」


いかん!戦闘中なのに全然関係ないことを考えすぎた・・・。


俺は考えてる間に倒していた1匹と、残っていたもう1匹を斬りつけて片付け、ミーナに攻撃しようとしているホブゴブリンに慌てて魔法をはなつ。


しかし、魔法が届く前にホブゴブリンのこん棒が先にミーナを殴りつける。

その直後に当たったファイアーボールがホブゴブリンに当たり、消滅した。

オリヴィエより少し低い背の小さなミーナはその体を大きく飛ばされ、後方へと転がっていく。


「ミーナ!大丈夫か!?」


「あ・・・はい・・・大丈夫です・・・」


俺は全然大丈夫そうじゃないミーナに慌てて駆け寄り、すぐに回復魔法を使った。

凄い吹っ飛んでいたし、その印象が強くて、大きなダメージを負ったように感じたが


「ありがとうございます。本当に回復魔法までお使いになられるのですね・・・あ、もう大丈夫です」


近くに寄ってみると意外なことにミーナは平気そうだった。

ヒールをかけたあとに念のためもう一度と思ってかざした手は必要ないと断られたほどだ。


「少しでもダメージが残ってそうだったら遠慮はするなよ」


「はい。ありがとうございます」


地面に座り込んだままだったミーナに手を差し出して体を起こし、何気なくぽんぽんしながら言っていたら、横からもう一つの頭が差し出されたのでそっちにも同じようにすると、ふわふわの尻尾が暴れて俺の腕を叩いた。


いくら俺が苦戦しないといっても複数の職業を持つ俺と同じことが仲間に出来るということではない。

ちょっと今回は油断しすぎたな。反省しよう。


「少し休むか?」


「いえ、回復していただいたので大丈夫です」


俺の心配をよそに、ミーナは元気そうだ。


「すいませんミーナ。私が少し回避に専念しすぎたせいで、ミーナに敵意がいってしまったようです・・・」


「いえ、私もオリヴィエさんに甘えて無警戒に攻撃しすぎました。今度は自分への攻撃も警戒しておきたいと思います」


ミーナのステータスを確認してみると、槍使いのレベルが4に上がっていた。

オリヴィエは剣士Lv6のままなので、差が詰まったことと、オリヴィエの攻撃回数が少なかったことに比べてミーナの攻撃が多かったことで、ミーナへのヘイトがオリヴィエのそれより上回ってしまったのだろう。


しかし、ミーナのレベルは前回の探索後の時点では3だったが・・・俺が倒した最初のホブゴブリンで上がったのかな?

いや、それだったらこの戦闘での出来事と関係ないからレベル差が詰まったってのは関係なかったってことかな・・・?


・・・わからん。次いこう。


「それじゃオリヴィエ、近くに魔物がいたら頼む」


「はい!」


言われないでもやってくれるんだが、こうして指示を出すと凄い喜んでくれるからついいちいち指示出しをしてしまう。

あの尻尾は感情がダイレクトに伝わるから、ついつい彼女の望みにそくした行動をとってしまうな。


「ご主人様、こっちです」


先頭で先導するオリヴィエとそれについていくミーナを挟むようにしんがりを俺が務める列で進んでいく。


こうして後ろから縦に並んだ状態で見ると、ミーナとオリヴィエの身長差は結構あるように見えるが、よーく見るとその差はあまりないようだ。


確かにミーナの方が少し小さいが、普段の印象としてはオリヴィエの方が随分大きく感じていた。

どうやらそれは、今まさにピョコピョコ動いているオリヴィエソナーが原因なようだ。


オリヴィエは狐人族で、その耳もまさに狐のそれと同じく縦長のフォルムをしているため、それが彼女の身長を大きく見せているみたいだ。


尻尾もそうだが、彼女の獣部分はとてもふわふわでいつも触っていると幸せゲージが天元突破する。今日も後でお願いします。


いや、別に今触ったっていいんじゃないか?

それに俺の目の前を歩くミーナの引き締まったおしりも・・・。


・・・ダンジョンで何を考えているんだ俺は・・・。

さっき反省したばっかりなのに、ちゃんとしなきゃ。


しかし左右に首を振って警戒しているオリヴィエがちらちらと見せる横顔のなんと可愛いこと・・・。

ミーナの装備の隙間から見える肌が・・・。


・・・毎晩しっかり発散しているはずの俺の欲情が暴走しているような・・・。


いかん。ほんと、しっかりしよう。


今日の夜までの我慢だ。

夜になったら前の二人を抱き上げてあのベッドに投げ込み、その後は・・・。


いや、なんだ・・・これは。


いくら体が若返ったっていってもこれはおかしいだろ。

オリヴィエを手に入れる前も後も、ミーナが来て最初の夜だってこんなことはなかったのに・・・。


あ、これってもしかして、「アレ」か?

状況証拠的にも名前的に考えてもやっぱりそうだよね・・・。







昨日の夜手に入れて、今朝つけた「色情魔」・・・。

こいつが犯人か。

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