第51話 環境改善
「うーん、こらあかんか・・・」
乾燥レンガを積み上げて焼いてみたが、考えてみたらセメントがない・・・。
これだと質の悪い炉や窯なら作れるけど、俺の求めている「風呂」は無理だ。
この世界に来て今までずっと、頭は桶にいれたお湯でゆすぐだけ、体は濡らしたタオルで拭くだけの生活を続けている。
自分で体を拭こうとするオリヴィエやミーナをなんだかんだ言いくるめて拭きあいっこに持っていく日々も凄い楽しいが、そろそろ風呂に入りたい。
もちろんみんなで一緒に。
・・・正直になろう。
風呂に入りたいから作ろうとしているのではない。
みんなが居るから風呂に入りたいのだ。俺の夢は終わらねぇ!
だが、最初はレンガを積み上げて風呂釜を作ろうかと思ったのだが、このままでは隙間が埋まらずに水漏れが発生するだろうな。
とりあえず緩めにねった粘土に藁や枯草を混ぜて繋ぎにするっていうのはどうだ・・・?
やってみる価値はあるかもだけど、たぶん焼いたレンガなら大丈夫だけど、水はともかくお湯を入れたらその粘土部分が溶け出しそうだなぁ・・・。
風呂釜として雑貨屋で買った大釜を使ってもいいが、あれはどう考えても人ひとりづつしか入れない。
それでは意味がないのだ。作る価値が二百分の一くらいに暴落する。
みんなで入れてこその風呂だし、一人でなんて入るくらいならみんなで拭きあいっこしてた方がいいまである。それじゃ駄目なんだ。価値ないね。意味がねぇ。
「どうするか・・・うーん・・・」
木の板を作ってそれを組み、外側を粘土で埋めようか・・・?
だけどそれだとレンガの繋ぎに使うのと同じ溶け出し問題が発生しそうだよな・・・。
「それに・・・」
家の裏手側の少し離れた場所で森から切り出した木を柵の材料にしているオリヴィエとミーナを見る。
彼女達が今作っている木の板・・・というかあれはもう丸太を割っただけだな・・・を見ると、ささくれだっていて表面を加工しないと肌がずたずたになりそうだ。
とてもじゃないが素肌でくつろぐために使える素材ではない。
「やっぱりこういうのは素人じゃ無理か・・・?」
そういや雑貨屋で売っていた家具ってオーダーメイドで作ってくれるということだったな。
それだったら大きな水槽みたいなものを作ってくれないかな?
明日の朝のダンジョン探索が終わったら午後は食材の買い出しついでに戦利品を売りに行くからその時に雑貨屋に寄ってみるか。
「それじゃ、風呂作りは一旦諦めて、こっちの改善の準備でもするか・・・」
俺は家の裏手に付いている勝手口のすぐ隣にある小窓とその真下にある木製の扉を交互に見つめながら、溜息を漏らす。
そこの壁の中にあるのはトイレだ。
しょうがないとは思うが、この世界で今まで使ったすべてのトイレはいわゆる汲み取り式で、このファンタジー世界でワクワクしないもの現在ぶっちぎりNo1だ。
俺が子供の頃にはまだ田舎にあったが、今となってはほぼ仮設トイレ位なのではないだろうか。しかも今の仮設トイレは水洗であるのが普通なので、この家のものはそれにも劣っている。
「水洗にすることはまぁなんとかなるだろうが・・・問題はその後だな・・・」
流すのは最悪バケツに用意した水をぶっかければ可能だが、流したブツは消えたりしない。
諦めて今のまま汲み取り作業をするという選択肢もあるが、俺はこの世界を謳歌したい。
楽しく過ごしたいのだ。
ならば出来る限り快適に暮らしたい。
「・・・劇的な改善はすぐには無理か」
だがせめて水洗にはしたい。
「仕方ない」
家の裏手の直線上、結構離れた森のすぐそばに来た。
オリヴィエが買っていた道具の中に鍬とシャベルがあったから、俺はそれらを使って穴を掘り始める。
とりあえず今は浄化などをせずに、肥溜めを作ってそこに流し込むという単純なものにしようと思う。
臭いの問題が残るが、それは今も一緒だ。
むしろ家から離れる分ましになるだろう。なんせ今はトイレのすぐ隣、外の部分にあってそこに落ちるようになっている。
肥溜めの上は簡素な木製の扉が付いていて、掃除するときは長い柄の杓子のようなもので汲み取ってバケツに移し、捨てに行くのだ。
まだここに引っ越してきて一回もその作業をしてはいないが、いずれしなければならないだろう。
たぶん俺がしなくてもオリヴィエかミーナがやってくれるだろうが、彼女達にもそんな作業をやってほしくない。
遠くに作って流し込んでもいずれ満タンになった時、結局同じ作業が発生するのではないかという疑念はあるかもしれないけど、それは随時奥に穴を追加していくことで対応すればいいか。
後は、この穴までの距離をバケツ一杯の水量ではとても流せないという問題があるか・・・。
「・・・あ、そうだ」
あの大釜を使うか。
元々あの大釜は風呂のお湯とその温度調整のために使おうと思っていたものだ。
浴槽を作ってそこに流し込む簡単な装置さえ作ってしまえば、後は大釜で沸かした湯を浴槽に張った水に適量流し込むことで快適な温度を維持できると考えて買ったものだったが、少し離れた場所に小さな肥溜めを作って置き、何日かに一回大釜の大量の水を一気に流し込むことによって奥の肥溜めまで流し込むことは出来ないだろうか・・・。
「ん?それだったら・・・」
もし風呂を作れたらその排水を繋げることでそれと同じことが出来ないか?
そうすれば大釜も考えていた使い方も出来るし、風呂の水はどうせ排水しなければならないんだから、それを利用できるなら一石二鳥だ。
「浴槽が作れるかどうかで変わってくるが・・・一応作っておくか」
始める前は地面を掘るのは大変そうだな、と思っていたのだが・・・それは全然苦にならなかった。
むしろ楽しい。
なんでこんなに・・・まるで巨大な豆腐にスプーンを入れているかのような感触で地面にシャベルが刺さっていく。
掘った土を軽く放り投げると5mは飛んでいった・・・。
これはやっぱりあれだよな・・・レベルアップでステータスがあがった結果だよね・・・。
日常生活ではそんなに違和感ないんだけど、こういう単純な力作業をすると凄い実感する・・・。超人感がやばいな。
以前に森を走った時の疾走感も凄かったけど、目の前の穴がみるみるうちに深くなっていくのを見ると、楽しいとすら感じる。全然疲れないし。
「これなら今掘っている穴がいっぱいになって追加することになってもそんなに苦労しないで出来そうだ」
しかもその時にはもっとレベル上がっていて身体能力も更に強化されているだろうしな。
その後も掘り続けたが、一日がかりになると思っていた作業は小一時間で終わってしまった。
疲労感も少し感じるくらいだったから、俺は今作った肥溜めに繋がる水路づくりをに取り掛かる。
「あー、失敗したな・・・」
少し掘り進めた時に思ったが、水路は緩やかな傾斜があった方がいいと気付く。
それには肥溜め側から作るのではなく、家側から掘った方が効率がいい。
肥溜め側からだとどの位の深さで掘ればいいのかがわからなかったからだ。
「最初に家の方から浅めに作って、最初の小さな肥溜めまでは少し傾斜をきつめに、その後の水量で押し込む水路の傾斜はなだらかでも大丈夫だろう」
家から流す水はせいぜいバケツ1杯分ほどだろうから、その水量で流れる位の傾斜
を最初の肥溜めまで作り、そこから先は風呂の排水で一気に流し込むことを想定しているから、そこまでの傾斜は必要ないだろう。
「おし、一気に掘っちゃおう」
レベルアップで丈夫になった体はまだまだ元気だ。
まるで重機を使っているような速度で進むこの作業もなんだか楽しくなってきたし、モチベーションがあるうちに一気に仕上げてしまおう。
俺は家側から水路を掘っていく。
少し離れた場所に数日分は大丈夫なくらいの穴を掘り、そこから森近くの場所に作った大穴に接続する。
「これだと踏み固めても穴が広がっちゃいそうだな・・・」
ただ掘っただけの剥き出し状態だと、流した水の勢いで崩れてしまいそうだな。
「そうだ!」
俺は魔法で緩めの粘土を想像して生成し、それを水路に厚めに塗り、コーティングした。。
粘土の遮水性能は俺の前の仕事の知識が保証してくれる。
ちゃんと塗り固めてしまえば乾燥しなくても問題ないはずだ。流れもスムーズになるだろう。
これでなにか問題が出るようだったら、その時にまた考えればいいさ。
そうして俺は日が暮れるまでクリエイトストーンで粘土を作り、掘った水路をコーティングする作業を続けた。
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