第50話 油と国とハムスター
「うわ・・・ほんとにあった・・・」
話は聞いていたから驚きはしないけどね・・・。
5層へと続く階段を降りてすぐ横の壁にあったのは、ダンジョンの入口の岩にあったものと同じ「穴」だった。
「すいません、私の説明不足でした・・・」
「いや、入口から5層まで来れると言われた時点で5層に「出入口」があるということに気が付かなかった俺が悪いんだ。気にするな」
どうも微妙に会話がずれているなーと感じたのはどうやら正しい感覚だったようで、ほんとにお互いの認識がずれていた。
帰れないより帰れた方が便利なんだから別に悪いことではない。
ちょっと俺の間抜けが露呈しただけさっ。
「腹も減ったし、帰れるならさっさと帰って飯にしよう」
後半のワードでぴょこんと反応する耳とブンブンと音が鳴りそうな尻尾。
小さいころから成人の頃まで飼っていた犬を思い出すなぁ・・・。
可愛いぜ、べらんめい。
今回のダンジョンでは途中からは層を進めることを重視したものの、人数が3人に増えたことやいつもより少し長く潜っていたことも手伝って、かなり多くの戦利品を持ち帰ることが出来た。
俺の村人とオリヴィエの剣士もレベルが1つ上がって6となり、ミーナの槍使いもレベルが3になった。
戦闘も今のところ全く苦戦することもないから凄く順調だ。
着実に上がっていくレベルを見ると楽しくなってくるよね。
「あとはやっぱりこれだよなぁ・・・」
「やっぱりこれですよね!」
ふむ・・・ミーナの時と違ってこれははっきりとわかりますよ。
今俺とオリヴィエの意見が食い違っていることなんてな。
まぁ別に訂正する程でもないからほっとくけどね。
俺が言った「これ」というのは、目の前でこんもりと盛られたフライだ。
オリヴィエ達と違ってこの味にあまり納得いっていない俺はさすがに飽きがきていたから、今日はオリヴィエが嬉々として狩っていた一角ラビットのドロップアイテムの「兎の肉」を塩をまぶしてぶつ切りにし、串を刺して焼いた。
兎肉って食べたことないけど、確か鶏肉に凄く似ているという話は聞いたことあったから串焼き風にしてみた。
アイテムの食材は美味しいって話だし、これなら塩だけでもそれなりの味になるんじゃないかな。
一応炭火で焼いたしな。ちゃんと窯で作った炭じゃなくていつもつかってる燃えカスみたいなやつの再利用だけど。まぁそんな違いがわかるグルメはここにいないことはわかっているので大丈夫なはずだ。
あとは主食の・・・はずだが異様に消費量が少ないパン用のスープを作ったら完成だ。
ダンジョンの敵から砂糖がドロップするっていう話だし、もしかしたら他の調味料も手に入るかもしれない。
それらが手に入るまでは肉料理とフライで何とか繋ぐかね。
「ご主人はま!・・・はふはふ・・・これも素晴らしいです!」
まだ熱い串焼きをそんな一気に頬張って喋るんじゃありません。可愛くておじさんが持って帰っちゃうぞ。家はここだけどね。
「魔物の落とす食材は良い値がつくというのも頷けますね!とても美味しいです」
ミーナもオリヴィエほど豪快ではないが、凄く美味しそうに食べてくれるから見ているこっちもなんだか嬉しくなるね。
「こちらの油に入れた魚も凄く美味しいです!」
油に入れたて・・・揚げるって文化すらなかったのか、ただミーナが料理をしたことがないのか。
いや、たしかミーナの変更可能職業に料理人ってあったから料理したことがないってことはないか。
今回のも少し手伝ってくれた時の手際を見るに、ちゃんとやってる感じがしたからな。
じゃあ揚げる文化がなかったってことか?そんなことある?
料理の歴史とか全然詳しくないけど、揚げ物文化って古くからあるんじゃなかったっけか・・・?
まぁでもこの世界の食文化の進み方が元の世界と歩みが同じとも限らないしな・・・構造もかなり違うし。
たしか日本では昔ごま油が主流だった頃は価格がとても高価で菜種油が登場するまで揚げ物文化が庶民化することはなかった・・・って感じだったような・・・違ったっけ?
でも俺が今使っている油はどうみても菜種油・・・一般的にいう所のサラダ油ってやつだしな。この一点でも食文化の進み方が全然違うといえるのではないだろうか。・・・どうなのだろうか?考えてもわからんな、ここにはネットなんてないし。
「やっぱり揚げ物ってここじゃ食べられてないのか?」
「揚げ物・・・とはこの油に入れた料理の事ですか?」
そうだ、と肯定するように頷く。
「少なくとも私はそのような料理は聞いたことがなかったですね。ただ、帝都に行けば色々な料理があるそうなので、そこにはあるかもしれません」
帝都か・・・。たしかここはファルモンドだかタンドだか・・・ファルムンドだっけ?
その帝国が治める国なんだっけか。
「ファル・・・ムンド帝国って結構大きい国なのか?」
「そうですね。ファルムンド帝国はここガレスティア大陸で一番の大きさの領土を持っている国になります」
ふむふむ・・・当てずっぽうの三択はどうやら正解だったようだ。
む、この兎肉の串焼きは結構イケるな。
食感も味も鶏肉に似ているけど、噛むとしっかり肉汁が染み出してきて串焼きのよさが出ている。食材がいいんだろうね。串焼きにしたのは正解だったな・・・むぐむぐ。く
「南にアリア神国があり、西にラレステード王国、南西にダレス共和国、北西に自由連合領とありますが、帝国はそのすべての領土を合わせてもまだ足りない程広大な領地を持っています」
うん、覚えられないからまた知りたくなった時に聞こう・・・むぐむぐ。
「ふーん、広大な領地を持つ国って暴走しやすいってよくある話だと思うけど、ここは大丈夫なのか?」
プーとかキンとか大きい国はろくでもないことする印象があるしな。
大きい国は統治の難易度が跳ね上がるからある程度は仕方ないんだろうけど、もうちょっとなんとかしてほしいよね。
「昔は大きな戦争などもあったようですが、ここ200年以上は国同士の大きな争いはないですね。一番直近の戦争がこのファストが出来た原因でもあるアリア神国との戦争です」
前に聞いたボコボコにされたっていう宗教戦争のやつか。
長いこと戦争がないなんて意外に平和なんだな、この異世界は。
皇帝って物語とかだと暴君っていうイメージが大きいけど、ここの皇帝さんは意外に名君なのかな?
戦争がないイコール名君ってのも論理が飛躍しすぎだけどな。
「戦争がないのはいいことだな・・・むぐむぐ」
「はむはむ・・・ほうれふね」
可愛い顔がハムスターみたいになってプリティーになってるぞ、オリヴィエ。
その頬のお弁当は後で俺が責任をもって処理しよう。
たぶん明日には半分も覚えてないくらいの集中力で聞いていた話だが、無言でする食事よりは全然ましだ。
会話があるだけで食事の美味しさが2割増しになる気さえするな。
一人飯を何十年も続けた俺が言うんだから間違いない。相手によるとは思うけど。
食事も終わり、洗い物も済ませて一息つく。
「今日は中途半端な時間に帰ってきたからダンジョンに潜るのは明日にしようか」
「そうですね。それじゃあ私は家の周りの柵作りをしちゃいますね」
「あ、私も手伝います」
俺はあの作業の続きをやろうかな・・・。
完成させたい気持ちは日に日に強くなってきている。
ミーナも増えたから余計にな。
最初はよかったし、別に好きだったわけでもないが、それがあるのが当たり前の場所から来たものからしたら、ないとなると急に欲しくなる。
人間って我が儘だよな。
俺は胸躍る目標に向かって作業を進めるため、外へと向かった。
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