第49話 齟齬
目標を5層に定め、4層へとやってきた俺達は目の前に現れたモンスターに少し戸惑っていた。
「私が正面に立ちます!ミーナは後ろから隙を見て攻撃を加えてください!」
「了解です!オリヴィエさん!」
いや、すまん。
戸惑っていたのは俺だけだったわ・・・。だって木が歩いてるんだぜ?普通は戸惑うでしょ。
根のような足をゆっくり動かして歩いてくる2体のウォーキングウッドというそのままの名のモンスターの片方にいち早く駆け出したオリヴィエとそれに続くミーナ。
相手の姿に少しほうけてしまった俺だったが、二人が戦っているのにいつまでもそうしているわけにもいかなかったのでいつも通り二人が相手にしていない側に魔法を放ってから向かった・・・が、ウォーキングウッドはファイアーボールが当たると激しく燃え上がり、そのまま倒れた。
火が弱点だったのだろうな。めっちゃ燃えてたし。
この戦いの前に確認した俺のレベルは・・・
職業
戦士 Lv8
魔法使い Lv8
僧侶 Lv8
盗賊 Lv8
奴隷商人 Lv8
村人 Lv5
となっていたので、村人以外のレベルは上がっているが、8になった後に3層で戦ったフォレストハウンドは魔法で1発とはいかなかったからウォークウッドは火が弱点ということなのだろう。
今のところはそこまで気にする必要もないかもしれないが、今後苦戦するような強さの敵と相対したときは弱点の魔法を狙って効果的にダメージを与えることも必要になってくるだろうな。
問題は・・・俺が覚えていられるか、だな。
ゲームでもそういう細かいことは気にせずにその時の最大威力の魔法をぶっ放してゴリ押すタイプだった俺にモンスターごとの弱点を記憶することが出来るだろうか・・・。
・・・よし、苦戦する敵とは戦わないという方針でいこう。
そうすれば弱点など気にする必要などない。
と、自分の自堕落さを再確認しているうちにウォーキングウッドとの戦闘も終わった。
魔法では一撃だったけど、剣での攻撃にはフォレストハウンドよりも耐えていた気がする。
魔法はいつも同じ回数で倒せるが、剣では同じ敵でも数発の誤差があるから体感的な感覚にはなるけどね。
物理耐性が高いってやつなのかな?
ちなみにオリヴィエの剣士はレベル5のままで、ミーナの槍使いははやいうちにレベル2へと上がっていた。
やはり低いレベル程上がりやすいようだな。
それでもオリヴィエがレベル2へと上がった時よりも倒した敵の数は多かった。
剣士と槍使いでレベルアップに必要な経験値が違うということはないと思う。
何故なら俺の複数の職業はみんな同じタイミングでレベルアップしているし、オリヴィエの剣士と同タイミングで変更した村人もほぼ同タイミングでレベルが上がっている。
ほぼというのは例の生きているだけで入る経験値の分、村人が少し早いタイミングで上がっているということで、誤差の範囲だ。
では何故オリヴィエの時よりもレベルが上がるのが遅かったのか。
それはパーティーの人数だろう。
経験値の入手が倒したものや戦闘の貢献度ではなく、同パーティーに所属しているということなのはレベルの上がり方を見ていれば明白なので、オリヴィエの時と違うのは2人から3人へと増えたPTの人数で、この事実から導き出されるのは、経験値はパーティーで分割されるということだ。
ま、この辺は当たり前のことだろうな。
戦闘の貢献度で貰える経験値が増減しないのに、パーティーの人数でも取得経験値が変化なかったら増やすことに得しかなくなる。そんなにうまい話はないってことだな。
それでも取得経験値の分割のデメリットがパーティーの人数を増やすメリットを上回るかと言われると、これまた微妙な話だ。
パーティーの人数というのは生存性を高めるという点では重要なことだろう。
デメリットがあるとすれば経験値の他に、活動する上で稼ぎが人数分だけ分割されてしまうことだが、前者はこの世界では認識されていない部分だし、後者に関しては命あっての物種だ。死んでしまっては意味がない。
オリヴィエもダンジョンアタックは8人のフルパーティーが基本・・・って言ってたしな。
「・・・凄いです。こんな簡単に・・・しかもこんな少人数で魔物が撃退出来るなんて・・・」
「ご主人様ですからね!」
相変わらずオリヴィエからの信頼が凄い。
オリヴィエからのこの分厚い評価は俺の事を使徒だと勘違いしていたからで、昨日それを否定したからもう少しハードルを下げてくれるかと思ったんだけど、彼女からのそれは全然変わらずに天井を叩いていた。
たしかに戦闘は余裕だしな。
おそらくこの辺の適正レベルはとうに過ぎているのだろう。
たまーに出会う冒険者パーティーのレベルを見ても、全員が3か4だ。
このレベルの上がりにくい世界でレベル8という俺のレベルは4層で戦うには高すぎるのだろう。
まだファストという一つの街しか知らない俺だが、そのくらいの基準はわかる。なんせ俺には鑑定があるからな。
「とりあえず今日は帰りのことも考えて5層に到達したら戻るが、明日からはもっと深くに潜っても大丈夫そうかな」
朝飯の時間はとっくに過ぎているから、あまり無理のない程度で帰りたい。胃袋的な話でな。
「それなら5層で一旦帰還してしまえばよいのでは?」
「うん、だから5層に行ったら帰ろうという話だな」
「はい」
噛みあってるようでなんか嚙み合ってない気もするが、まぁ実はまだ知り合って2日しか経ってないからしょうがないか。
あらためて考えると凄い話だよな・・・出会って2日で・・・。
・・・5秒よりましか。
「よし、それじゃオリヴィエの探知に引っかかった魔物を倒しながら5層を目指そうか」
「はい。それでは次は向こうですね」
可愛らしくピョコピョコ動く好感度オリヴィエソナーの耳は、既に新たな敵を捉えていたようで、すんなりと次の標的に案内される。
うわ、なにあれ・・・でっかい芋虫・・・。しかも青い・・・キッモ。
オリヴィエの後についてきて現れたのは1匹の巨大な青い芋虫「ブルーキャタピラー」だった。
「ファイアーボール!」
あまりのキモさに見た瞬間に俺の忌避感が魔法を発動させた。
火の玉が当たったブルーキャタピラーはその体を大きくのけ反らせるが、ウォーキングウッドのように一撃で倒れることはなかった。
ちっ、弱点じゃなかったか。虫ならワンチャン火でいけるかと思ったんだが。
近づきたくない気持ちを持ちつつ仕方なく接近し、剣を振り下ろすと、なんともいえない感触が剣越しに伝わってくる・・・。
その一振りでブルーキャタピラーは霧散し、綺麗な糸が地面に落ちた。
「オリヴィエ」
「はい?」
「・・・こいつはなるべく避けよう。どうしようもなかったら仕方ないが、そうじゃなければ他の獲物にしてくれ」
「わかりました」
言葉とは裏腹になんでだろうとわかりやすい表情で疑問を伝えてくるオリヴィエ。
わかってくれよぅ。だってぐにゅっていったんだぜ?ぐにゅって・・・。
あれはよくない・・・。あれで汁なんか出た日にゃ軽くトラウマになる自信があるぞ。・・・出なかったけどさ。
ドロップした糸をミーナが拾い、背中の背負い袋へと放り込む。
「やっぱり3人だと戦利品の持ち運びできる量も増えていいな」
「そうですね。ミーナが来てくれてよかったです」
「今のところはそれくらいしか役に立ててる所がありませんし・・・」
「いや、ミーナは色んなことを知っているから十分に役立っているぞ」
実際彼女が居なかったら5層を目指そうともしなかったかもしれないからな。
「ありがとうございます」
正面から褒める俺に対してうつむき気味となった結果上目遣いになって照れるミーナはオリヴィエに負けず劣らず可愛いね。
「おっし、ここからは少しペースをあげようか。あまり時間をかけていると日が暮れてしまいそうだしな」
今日は朝飯もまだ食べていないのだ。せめて晩飯時位には帰りたい。
簡単につまめる干し肉は持ってきているけど、あれってあんまり美味しくないんだよな。日本で食べた干し肉は結構美味しかったんだけど、製造方法が違うのか、素材が悪いのか・・・たぶん両方かな・・・?
「・・・?このままのペースでも日が暮れるほどにはならないと思いますよ?」
「え?」
だって5層まで行ってそこから帰ったらそこまでの道程と同じ時間かかるんだし・・・結構急がないと日付が変わるとまではいかなくても日が暮れるくらいにはなるんじゃないのか?
なんて思ってた時が俺にもありました。
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