第48話 知識
「やあ!」
「よし、これでミーナは槍使いだ」
現在ファスト西のダンジョンの3層。
そこでまずはミーナの戦闘職の条件をオリヴィエの時と同じ方法で満たし、彼女を槍使いにした。
何故槍なのかというと、ミーナの装備を購入しに行った際、ミーナの要望を聞いたが、戦闘に関しての知識が皆無だった彼女は戸惑うばかりだったので、かわりにオリヴィエに聞いたところ、中距離から支援できる槍がいいのではということだったので、ミーナは槍使いを目指すことになった。
条件はサポシスさんに聞かなかったけど、剣士の条件に剣でという項目があったから、槍で同条件をクリアすればいけると思ってやってみたらちゃんと変更可能項目に槍使いが出現したというわけだ。
「・・・本当にこれで・・・?」
「直接確認は出来ないけど、戦ってみればきっと実感できると思うぞ」
槍使いとなったミーナはまだ信じられないというような様子で槍を持っていない左手を見ながら感触を確かめるようににぎにぎしていた。
「が、頑張ります!」
握り拳を作ったままこちらに引き締まった顔を向けて宣言するミーナも可愛いね。
ちなみに昨日の夜はミーナも混ざった。
彼女が嫌がるのであれば強制するつもりはなかったのだが、ミーナの方からお願いされてしまったので、拒否する理由も意味も見いだせない俺は彼女とオリヴィエの3人で仲良く夜を楽しんだ。
少ししたら俺の方からお願いしようとしていたから大歓迎だったけど、まさかミーナから来るのは意外だった。前の世界で一回も来なかったモテ期がやっと来たぜ。
まぁミーナは初めてだったので負担も考えて1回で休ませたけどね。
「もうちょっと慣らしたら4層へ行ってみよう。ミーナはたまに手を出す程度で大丈夫だからな」
「わ、わかりました」
まだ緊張全開のミーナをいきなり主戦力として扱うわけにはいかないしな。
慣れるまではなるべく危険の少ない位置で頑張ってもらおう。
「ご主人様、すぐ近くに2匹・・・恐らくフォレストハウンドです」
「おし、案内してくれ。1匹は俺が倒すから、それまでの間もう1匹の正面はオリヴィエが頼む。ミーナは今回は見学だ」
「わかりました」
「は、はい!」
オリヴィエの誘導で茂みの中に入って少し進むと、ちゃんと2匹のフォレストハウンドが居た。
ほんと彼女の聴覚には毎度感心させられる。
「ファイアーボール!オリヴィエは左のやつへ!」
魔法を放った後に指示を出して自分は火の玉に怯んだフォレストハウンドに斬りかかる。そして自分のターゲットを倒した後にオリヴィエが受け持っている個体の元へと駆けつけ、倒した。
1匹を確実に無傷で乗り切ってくれるオリヴィエのおかげで安定感が凄い。
一度に出会うモンスターは2匹以上にならないからもう流石にこいつらに苦戦することはないな。
「サ、サトル様は魔法使いでもあるんですか!?」
あ、そういやミーナに言ってなかったな。
「うん、あと僧侶でもあるから回復も出来る。だから怪我したら遠慮なく言うんだぞ」
折角だから出来ることを伝えたんだけど、それを聞いたミーナは驚きの表情のままこっちを見て固まってしまった。
可愛いからほっぺたをツンツンしていたら、オリヴィエが横に来て頬を突き出してきた。
ツンツン。嬉しそうだね。
こんなんでしたらいくらでもしてあげますけど・・・わざわざされにくるほどか?
「それじゃ次の獲物が見つかったら知らせてくれ。あと何匹か狩ったら4層に向かおう」
この後は宣言通りに3層では4匹のモンスターを狩ってから4層へと向かった。
「4層からって何か変化とかあるのかな?」
下へと降りる階段を前にして、何か階層の情報がないか聞いてみた。
「すいません・・・私もダンジョンの事はさほど詳しくはなくて・・・」
申し訳なさそうにしているオリヴィエを見て申し訳なくなってしまった。
「4層は3層と比べて魔物の強さに変化はなく、出現する種類が増えるそうです」
質問の回答はオリヴィエではなく、両手で槍を抱えて後ろに控えていたミーナから飛んできた。
「詳しいな。その知識も家の本から?」
「はい。前に読んだ本に載っていました」
「こんなあんまり人のいないダンジョンの情報も本になってるんだな」
お世辞にもこのダンジョンは賑わっているとは言えないだろうな。
そもそも冒険者自体が少ないし、街の規模も大したことない場所のダンジョン情報なんて高価な本に載せるほどの価値があるのだろうか。
「あ、いえ・・・ダンジョンは魔物の種類と地形は場所によって違いが出ますが、層毎の強さや一度に出現する数はどのダンジョンでも同じらしいです」
なるほど、つまり本に載っていたのはファストのダンジョン情報ではなく、ダンジョンの基本知識だったわけね。それなら納得だわ。
フィールドとどんな魔物が居るかというのはダンジョンで違うが、強さと同時にエンカウントする数は共通ってことか。
「なるほど・・・ちなみに他にダンジョンに関して知っていることとかあるか?」
「えーっと・・・本当に基本的な情報なのでもう知っているとは思いますが、ダンジョンは5層毎に一度到達すれば、入口から入る時に再びそこから潜ることが出来る・・・とかですかね」
・・・なにその超便利機能。
どっかの何回でも遊べる不思議なやつみたいだな。
「オリヴィエ・・・知ってた?」
「いえ・・・」
俺とオリヴィエは突然飛び出してきたお得情報に思わずお互いに顔を見合わせてしまった。
「5層毎ってことは、10層、15層と到達するだけで次からその階層を選べるってことか?」
「あ、いえ・・・すいません。さすがに未到達領域の15層の情報はないので・・・どのダンジョンでも到達すれば5層と10層、それに1層が選択出来るらしいので、おそらく5層毎なのでは・・・ということです」
ダンジョンって15層まで行ったことあるやついないのか。
たしかにこの世界の人のレベルって上がりづらいしな、命がかかっているとなれば慎重にならざるを得ない戦闘を深層攻略するようなレベルまで引き上げる程繰り返せる人がそもそも極少数か、全くいないかのどちらかだろうしな。
「なるほど・・・全然知らなかったな。これって結構みんな知っていることなのか?」
「普通に暮らしている人は知らないと思いますが、ダンジョンで生計を立てている者であれば常識の範囲であるかと・・・」
まぁそうだよね。
命がけで挑むような場所に本に記載されているような情報も知らないで突っ込むやつなんているわけないよな。
俺達は命がけではないから知らないでも問題ない。・・・ってことなら言い訳になるかな?
「これからも色々聞くと思うが、そんなこととか思わずに答えてくれるとありがたい」
この世界の常識とかマジでわからないからな。今のうちに釘を刺しておけばその時その時の恥ずかしさを緩和できるしな。
「はい!お役に立てるのであれば私も嬉しいです」
知識ゼロの俺としてはミーナの知恵は正直滅茶苦茶にありがたい。
なんも知らないで突っ込むのと全然違うからな。少しでも知識があればあらかじめそれ相応の対策と心構えが出来るからね。
「それじゃ4層で引き返すよりもこのまま一気に5層まで行った方がいいのかな?4層は3層と同じ強さなら大丈夫だろうし」
「そうですね。5層に到達出来る実力があるならばその方がいいと思います」
「ご主人様ならば問題などあろうはずがありません!」
二人の同意も得られたし、一気に5層まで行ってしまおう。
とりあえず到達してしまえば次からは5層からスタート出来るのであれば今日の帰還に多少時間がかかっても行く価値はあると思う。
「それじゃ、今日の目標は5層としよう」
目標があると足取りも軽くなるもんだ。
俺達は意気揚々と目標である5層に向かって進みだした。
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