第47話 閑話
「おいひーれふ!」
「これは・・・凄いですね!」
前と同じセリフのオリヴィエと、上品ながらも称賛するミーナ。
だが俺は密かに危機感を抱いている。
まだ別に飽きたとかじゃないけど、今の状況じゃどんなに工夫したって俺の技術じゃたいしたもんは作れない。
いくら一人が長くて独身力が上がっていたって限界はあるんだ。
原因はわかっている・・・。
調味料がない!
せめて砂糖が欲しい!
胡椒とかカレー粉とか醤油とか贅沢なことは言わないから、せめて砂糖が欲しいよね。あと卵。
卵があればかなり料理の幅が広がるんだけどなぁ。
「やっぱり砂糖とか卵って手に入れるのは難しいか?」
美味しそうに頬張っているところを邪魔するようで気が引けるが、重要なことなので聞いておく。
「砂糖は・・・そうですね、無理ではないですがとても高価です。100gで銀貨10枚程でしょうか。卵は保管と保存が難しいので一般的に商品として成り立ちにくいです。狩猟で見つけたものを嗜好品として自分で食べるくらいでしょうか」
100gで銀貨10枚って・・・じゅうまんえん?1kgになったら金貨になるってこと?
すげえや・・・卵焼きに結構砂糖入れて焼いたのとか好きなんだけど、そんなことここでやったらびっくりされちゃうどころか呆れられちゃうかもな・・・。
「なんとか手に入れることは出来ないもんかね?」
「少なくともこのファストでは難しいかもしれません・・・商業ギルドにお願いしてもこの時期だと砂糖を運ぶ余裕がないかもしれません」
「この時期はダメなのか?」
砂糖って保存が効きそうだし、時期とか関係あるのかな?
「冬を控えた秋口の輸送はどうしても必需品が主となります。ファストが温暖な地域で冬の備えが比較的楽だとしても、輸送力自体が冬が厳しい地域に注力せざるを得ないため、こちらへ来る量自体が減ることになりますので・・・」
「むぐむぐ・・・私の村でも秋は行商人の往来が減っていましたが、そういう理由だったんですね。知りませんでした・・・はむはむ」
人も馬車も無限にあるわけではないからそれらは必要とされる場所へ優先して割り振られる。だから温暖で冬への備えが楽な地域は輸送量自体が減って嗜好品を運ぶ余裕などなくなる・・・というわけか。
ファンタジーな世界なら移動魔法とかあったら便利・・・出さなくていいですよ!・・・なのになぁ。
あとは・・・
「飛竜とかでっかい鳥の魔物とか手懐けて空輸とか出来ないのか?」
「流石に竜騎士を馬車扱いすることは出来ないと思います・・・そもそも数が少なすぎるので・・・。鳥の・・・というか魔物を手懐けた、という話を私は聞いたことがないです。・・・出来るのですか?」
竜騎士っているのか。
ジャンプとかして途中戦闘から消えたりするのかな?
「いや、出来るかどうか聞いただけだ。俺は知らない」
テイマーみたいな職業はありそうだけどな。
条件が厳しいか複雑かで今まで発見されてないか、そもそも存在しないのか。
色々探ってみるのも楽しそうだな。
ペットが欲しくなったらサポシスさんに聞いてみよう。あ、今はいいです。
「・・・ふむ、調味料の購入はやっぱり難しいか・・・」
フィッシュフライを口に運びながら呟く。・・・これもタルタルがあったらもっと美味いんだけどな。
「もっと!?とは!?」
あれ、口に出てた?
というか反応凄いなオリヴィエたん。
「い、いやな・・・酢は市場で見かけたから、卵さえあればマヨネーズからのタルタルソースが作れるなーと・・・」
「たるたるそーす・・・卵ってなんでもいいのですか?」
話の途中で生唾を飲むのはやめなさい。その横に揺れてるのをモフモフするぞ。
「卵は鳥のやつならたぶんいける・・・とは思うけど・・・」
「卵ですか・・・市場での購入は難しいかもしれませんね。先程言った通り、保管と運搬が難しいので狩猟で見つけても持ち帰る人も少ないですからね」
まぁあんなのを他の荷物と一緒にいれて運んだりしたらそら割れるよな。緩衝材を使ってる日本でもママチャリで運ぶとたまに割れるのに。
「畜産とかはやってないのか?」
「もっと大きな街などではやっているところもあるという話ですが・・・ファストでは難しいでしょうね」
「そうなのか?」
「ファストは南にある神国からの侵攻を防ぐ砦として作られたという話です。なので壁の規模は街としてはそれほど大きくはなく、もう壁内に畜産に耐えうる土地が残っておりません」
「侵攻って・・・戦争があったのか?」
そんな雰囲気微塵もなかったから気にしなかったな。もしかしてこの世界って群雄割拠の戦国時代だったりする?
「はい。もう200年以上前の話になりますが。アリア神国が自国の宗教観をこのファルムンド帝国に強要したのが発端だったらしいです。かなり早期に終戦したらしいですけど」
ここって帝国だったのね。そして戦争はよくある宗教戦争か。
「そういうのって結構泥沼化しそうなもんだけど、すぐに決着がついたのか?」
元の世界でも宗教戦争は常に起きていたからなぁ。信じる神が違うだけでみんな同じようなこと言ってる気がするけど、その神の部分が彼らには重要なのだろうな。
俺にはどっちも神でいいじゃんとか思っちゃうけど、そうもいかないんだろうね。
「はい。神国が侵攻を仕掛けてしばらくすると、自国内で大量に罪人が生まれたそうです」
「うわぁ・・・まさに神の怒りに触れたってやつか?でもそれならこの世界で戦争って起こらないのか?」
戦争を仕掛けるたびに自国民が罪人になり続けていたら兵力はおろか、国力までガタ落ちになりかねないよな。・・・罪人がどんな職業なのかわからないけど、戦闘面で恵まれた補正があるとは到底思えないしな。
「いえ、通常の場合、戦争での戦闘は罪人落ちしないそうです。戦闘後に略奪行為をしたりすればその限りではありませんが」
戦争自体はお怒りに触れないんだ・・・なんか透けてみえ・・・いや、よそう。
略奪行為が出来なければ兵士の士気を保つのは難しいらしいし、長期の戦争は難しいのかもしれないな。
略奪なんて我が国はしていない!正義の戦争だった!とかいうやつは大体嘘つきなので信用しないように。人間なんて所詮その程度だよ。
まぁ戦争なんてないに越したことはないよな。
この世界じゃ折角魔物っていう人類のヘイトを買って出てくれてる存在がいるんだから鬱憤はそっちで発散しましょうや。
「ふむ・・・それじゃ戦争はあまりないと。話が逸れてしまったが、結局調味料の入手は難しそうか」
「あ、砂糖であればダンジョンで入手出来るという話を聞いたことがあります」
え、魔物の素材的なものしか出ないと思ってたけど、調味料も出るの?
あーそういえば、色んな魔物からポーションとかもたまにドロップしていたし、そういう関連していないようなアイテムも落とすってことかな?
「どんな魔物が落とすとかわかるか?」
「あ・・・すいません、そこまでは・・・」
そうだよねぇ、ミーナは物知りだけどその知識は商人時代の本からってことだったから、自ずとその知恵は商売よりに偏るだろうしな。
「そうか、だがこれでまたダンジョンに潜る理由が出来てしまったな」
「むぐむぐ・・・ふぁい!」
オリヴィエに同意を求めようと視線を送ったが、頬を膨らませてハムスターみたいになっていた。また新しい可愛さを発掘しやがって・・・。
明日からは3層よりちょっと深く潜ってもいいかもしれないな。
頑張る理由が増えることはいいことだ。
これで今日の夜も頑張れるってもんだぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます