第46話 洞察力
「ってことで、俺はただの人間だ。まぁちょっと特殊であることは否定しないけどな」
「そうですか・・・」
俺が使徒と思っていたオリヴィエはなんだか納得いったようないってないような微妙な表情だったが、一応理解はしてくれたのかな?
「・・・」
ミーナはミーナで神妙な表情で顎に手を置き何やら考えている。
「ミーナ、なにか聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてくれていいぞ」
あまり溜め込んで変な方向に暴走してもよくないしな。全部話すかどうかは内容によるけど。
「あ、それじゃ一つよろしいですか?」
「おう、いいぞ」
どんとこい。
「サトル様は・・・クイルがなくても鑑定が使えるのでしょうか・・・?」
「え?なんでわかったの?」
鑑定は口に出さなくても使えるから詠唱を聞かれるとかはないし、どっからそんな情報を掴み取ったんだ?テレキネシスか?脳のスキャニングとか出来ちゃうですか!?どうかブレインウォッシュだけはやめていただきたい。
「サトル様は最初から私がガレウスさ・・・ガレウスの奴隷だとわかっているようでした」
ガレウスに敬称を入れそうになった瞬間に横にいたオリヴィエの首が恐ろしい勢いでミーナの方を向いたので、慌てて呼び捨てにしたミーナ。
ってかオリヴィエ超反応すぎない?あとガレウス嫌われすぎ。同情しないけど。
「あれ?奴隷だって紹介はしてなかったっけ?」
静かにミーナが頷き、オリヴィエの方を向いて確認したが、彼女も頷いてミーナに同意した。
「そうですね。ご主人様がそうだとおっしゃったのでそうなのだと私は理解しましたが、ガレウスからもミーナからもそのような紹介はなかったです」
あちゃー・・・鑑定で情報が取れることが当たり前になりすぎてつい自分だけが知りえる情報を当たり前のものとして行動してたかもしれん・・・こりゃ気をつけねばな。
でもそんなことだけで俺が鑑定使えるってとこまで普通たどり着く?
この娘って実は見た目はこんなんだけど、中身は300歳とかのエルフなんじゃないのか?
まぁ既に鑑定していて人族なのはわかってるんだけどね。・・・一応念のためにもっかい確認したけども・・・。
「ミーナは鋭いなぁ。他の人にも気が付かれたかな?」
「やはりそうなのですか・・・鑑定をクイルなしで・・・あ、私以外は気が付いていないと思います。ギルドマスターもガレウスも恐らくは私から聞いたと思っているでしょう」
そうか、ミーナ以外の人が気が付いてないのは不幸中の幸いか。
ミーナに知られても別に不幸ではないから幸いしか残らんな。結果オーライ。
「ちょっと今回は俺が迂闊すぎたが、あまり俺の能力は知られたくない、だから俺が二人から見て奇妙に見える行動や発言をしたらその時は注意してくれるとありがたい」
「はい」
「わかりました」
よし、ものはついでだし、他にも少し話しておくか。
あとでボロが出ても困るしな・・・俺が。
「他にも職業の変更なんかもクイルなしで出来るぞ」
「なっ・・・・」
俺の告白に目を丸くするミーナと何故か自慢げにウンウン頷くオリヴィエ。
「職業の変更を・・・?」
「うん、ちなみに盗賊に落ちても変更出来ると思うから安心して盗んでいいぞっ!なんてな」
オリヴィエ達はこういう冗談を真に受けないだろうし、やんないってわかってる。
もしなんかの間違いで職業落ちしちゃっても本人が気づく前にこっそり戻そう。そんくらいは別にいいでしょ。
「職業落ちも・・・?それはもう人の・・・だけど変更が出来るのなら・・・でも・・・うーん」
「流石ご主人様です!」
自分の中で何とか納得させようと考察しているミーナと何も疑問に思わず真正面から称賛するオリヴィエ。
いいコントラストだよ君たち。
「ご、ごめんなさい・・・一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、なんだねミーナ君」
「職業の変更というのは、希望の職業に変えられるということでしょうか?」
「いや、さすがになんでもは無理だな。変更可能な職業には制限がある。うーん、そうだな・・・あ、前にオリヴィエが言っていた適性のある職業のみってことだな、たぶん」
詳しい変更条件を話すとなるとレベルの話はさけられないだろうから、それは今はいいや。
だってレベルの概念って俺にはゲームというものがあったからすんなり受け入れられるけど、それもない状態の人間に説明するのは大変そうだし、下手したら嘘くさくなってしまいそうだしな。一つ信じきれない項目があるとそれは全体に波及しかねない、だから実際に色々体験してもらって今言っていることが本当だと実感して確実に信じてもらえるような時に話したほうがいいと思う。
「なるほど・・・ちなみに今の私でも変更できるのでしょうか?」
ミーナの職業変更か・・・俺はPT設定変更を使ってミーナの職業変更を試みると・・・お、結構色々あるな。
「ミーナは今だと商人、武器商人、防具商人、奴隷商人、それに料理人への変更が可能みたいだぞ」
それを聞いたミーナは少し落ち込んだ様子で
「そうですか・・・やはり私に戦闘職の適性はないんですね」
と、落ち込む肩に手を置くオリヴィエ。
「大丈夫ですよ。ご主人様に任せれば戦闘職の適性も授けていただけます!」
いや、俺にそんな能力はありませんよ。
オリヴィエの剣士はその条件を満たしただけであって、適性を得たのは自分自身の力だからね。まぁかなりお手伝いはしましたけど。
「適性を!?」
「ああ、授けるというのは語弊がある。職業を得る適性というのは先天的な才能といったものではなく、後天的な行動により得られるものなんだよ」
ちょっとめんどくさい言い方だけど、ミーナならたぶんわかってくれる気がした。
「・・・なるほど、そういうことですか」
ね。
「ミーナは頭がいいな」
ちょっとした情報から色々なことを言い当ててくる洞察力は正直凄い。
鑑定も持っていないのによく気が付くとほんと感心するよ。俺が元々この世界に住んでいる人物だったら、こんな非常識な奴はよくいる頭カッチカチのモブ達と一緒に異端者として教会かなにかに突き出していたね。
「いえ、私は昔から本が好きだったので・・・前に読んだおとぎ話の本に古の勇者がサトル様の様に複数の職業を併せ持つというようなお話があったので・・・」
「ご主人様は勇者様だったのですか!?」
オリヴィエよ。君のキャンバスはもうちょっと色を加えたほうがいいね。すぐに染まりすぎですよ。
「違うからね」
そんなにしょんぼりしないの。いつか勇者という職業を手に入れるかもしれないから、ちょっと待っててね。あ、サポシスさん・・・条件は表示しなくていいですよ。内容は見てないけど、視界の端に開いたのちょっと見えたんだからねっ!
「このせ・・・ここら辺では結構本って全然見ないけど、普通に買えたりするもんなのか?」
大体こんくらいの世界観って本自体が結構貴重だったりするよね。
どうやって作るのかとかは知らないけど、紙って製紙技術が発展するまで作るの大変だったって聞いた気がするし。
冒険者ギルドなんかで張り紙として使ってたのはどう考えても粗悪な品質の紙だったしな。羊皮紙っていうんだっけ?ああいうのって。
「いえ・・・私は奴隷になる前は商家の家の娘でしたので・・・その時分は家にあったものと商品にする本をよく父にせがんで読ませてもらってました」
「ミーナは商人の娘だったのか」
「はい。ある日、父がした借金を返せなくなり、その返済の足しにするため、私は奴隷として商業ギルドへ売られることになりました。商業ギルドならば解放された後の職にも困ることはないだろうと・・・」
なるほど、奴隷として売ると聞くとそれだけで酷いと非難する人もいるかもしれないが、前にも散々感じたように、この世界の奴隷はかなり人道的だ。
元の世界の感覚だと売ったというより、ギルドへ働きに出させたというほうが正しいかもしれない。
そこで所有者ガチャに失敗してしまったのは不運としか言いようがないだろう。
ここで、俺達は一旦話を中断して調理場へ向かうことになる。
なんでかって?
そんなんオリヴィエのお腹から終業を告げる鐘の音が鳴ったからだよ。
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