第44話 二人目
「だ、だだダメだ!!ミーナの譲渡は認められません!」
「さっきも言ったがミーナの所有は・・・」
「関係ない!!ミーナは私の奴隷です!!勝手に取るようなことは罪だ!・・・そうだ、そんなことをすれば盗賊に落ちるぞ!!」
なんかガレウスが駄々っ子みたいになってしまった。
いつもの整えた髪型を崩すほどに振り回し、大きな身振りでこちらを威嚇するような行動に出ている。
「私の物を勝手に盗むのであればそれは犯罪だ!お前ら全員盗賊だ!!」
「ガレウス!!私にだけならいざ知らず、商業ギルドの大事な顧客にその口ぶり・・・この私の前でそんなことをしてただで済むと思うなよ」
「ぐっ・・・」
オルセンの一喝に怯むガレウスだったが
「だ、大事な顧客?このみすぼらしい格好をした者がですか?」
矛盾点を見つけたとでも思ったのか、俺の事を完全に見下した目で卑下する言葉を吐いてきた。
「その身なりで判断する悪い癖はまだ直っとらんかったんか・・・サトル殿すまない、ワシの教育不足だ・・・」
「!?」
そう言って俺に頭を下げるオルセンに驚くガレウス。
俺ってそんなにみすぼらしい格好してたかな・・・?
たしかに装備は安い皮製のみだけど、これは動きやすくていい装備だと思うし、下に着ている服だってそんなに安くなかったと思うが・・・。
顔か?俺の顔がみすぼらしいとでもいいたいのかコラ。
「わ、私は金貨2枚相当の商談中だったのですよ!?それをこいつが・・・!」
「この方はワシの見立てでは金貨30枚以上の価値があるものとミーナを等価で譲渡してくれると言っておるのだ」
さ、さんじゅっ!?そんなに価値あったのかー。10枚以下かもとひよって釣りはいらんとか言うんじゃなかったかな・・・。
「さ、さんじゅっ・・・」
お、おいやめろ!同じ反応するんじゃない!同類と思われるだろうが!!
「しかも貴様はその商談が不利な状態になった途端、ミーナに任せようとしておったじゃろ・・・」
お前、そんなこともしてたん・・・?ヤバすぎぃ。
「何故それを・・・」
しかも本当なのかよ。
「先日、相手方からクレームが来ておったぞ・・・そしてつい先ほどもな」
「くっ、あいつ・・・私にだけでなくギルドにまで・・・」
ガレウスは誰に向けるでもない悪態をついていたが、それを聞いたオルセンは一つ深い溜息して、
「やはりそうじゃったか・・・お前は・・・」
「なっ・・・騙ったな!?」
自分の嘘を棚に上げてオルセンを咎める視線を送るとは・・・典型的な自己中理論だなぁ・・・。
「先日のクレームの時点で大方の流れは容易に想像がつくわい・・・とりあえず、ミーナの譲渡契約には一点の不備もない。それはお前もわかっとるだろ」
「う、うるさい!!・・・いざとなれば所有者特権で・・・!」
「それを行使すればお主のミーナに対する扱い全般に厳しい沙汰がくるぞ。強制的にギルド名義上の同意を所有者特権で拒否すれば最悪貴様は罪人落ちとなろう」
ずっと強気でオルセンに相対していたガレウスも、罪人落ちの言葉に強く反応し、なんとか抗議を続けようとしたが、職業落ちするというのはかなり大きなことなのだろう・・・ガレウスはついぞ抗議の言葉に詰まり、肩を落とした。
「ミーナは俺が貰っていく。悪いようにはしない」
どんどん醜悪さが増していったガレウスだが、最後の方は哀れさも感じるほどだったからほんの少しだけ芽生えた同情心が言葉に出た。本当にほんの少しだぞ。
しかし、なんで奴隷一人、しかも個人所有とは言えないミーナにこいつはここまで執着するんだろうか。
ミーナが仕事出来るから手放したくなかったとか?
もしかして単純に可愛かったからとか・・・いや、それだったらあんな態度はとらないか。
「ガレウス様。今までお世話になりました」
あれだけの仕打ちを受けていた相手にも丁寧に挨拶するミーナはやさしいねぇ。
俺だったら弱ってる背中に蹴りでも入れるかもしれないぞ。
ついには脱力したガレウスが膝を床につく。
「ミーナ・・・私はただ・・・お前を・・・」
・・・。
え?お前もしかして・・・小学生が好きだった相手に恥ずかしいから正直になれずに悪口いったりすることで作った接点を喜んじゃうみたいな・・・子供が好きな相手を虐めちゃう理論だったん?
これ以上ここに居てもただただ居心地が悪いので、ミーナの件も話はついたみたいだから部屋から出ようと歩を進める。
「あ、サトル殿。すまないがもう少し時間をくれ。必要な書類を持っていくからワシの部屋で待っていてくれ」
あ、書類とかあるんだ。
この空気から脱出できるなら別になんでもいいぞ。基本暇だしね。俺。
「サトル様。こんな私をあんな高価なもので買ってくださってありがとうございます」
ギルマスの部屋に入って椅子に座ったところで横に立ったミーナがおさげ攻撃を・・・否、お辞儀をしてきた。
「ああ、あんなんだったらいくらでも出せるから気にしなくていいよ」
「い、いくらでもとは!?そこら辺を詳しく・・・!!あ・・・失礼しました」
予想外の・・・ミーナとは反対方向の椅子に座ろうとしていたオリヴィエが身を乗り出してきたが、すぐに我に返って赤面し、ちょこんと座る。
「ミーナも立ってないで座りなさい」
俺の横で立ったまま笑顔でオリヴィエの反応を見ていたミーナに座るよう促す。
喋り方に精神年齢が出てしまったが、気にしないでおこう。
応接スペースの椅子は全部で四席・・・向かいで二席ずつだったのだが、ミーナは距離的に遠いオリヴィエの正面に座った。
「すまない、待たせたな」
そこへオルセンが戻ってきて俺の正面の席に着く。
ミーナがわざわざ俺の正面を空けていたのはこの為だったのだろう。
こういう細かいことに気が付くなんてミーナは出来る子だなぁ。
一瞬避けられているんじゃないかとかしょうもないことを思っていた俺とは全然違うね。
「これが委任状だ。これを奴隷商人に持って行って譲渡契約をすれば、所有者が同席していなくても契約をすることが出来る」
あー、そうか。普通は一緒に奴隷商人のところへ行かなきゃいけないのか。
俺自身が奴隷商人なんて誰も思わないしな。
そういう意味でも委任状の存在はありがたい。
これがあれば俺とミーナだけで契約を完遂させることが出来る。
いちいち奴隷商人のとこにいくのもめんどうだしな。
「たしかに。それじゃ、俺達はこれで」
「あ、待ってくれ、本当に余剰分の金銭はいらんのか?」
じゃあもらって・・・というのは俺のいいとこ見せたいという心が邪魔してくる。
「大丈夫だ」
ぐっとこらえて提案を断る。
だって一度言ったこと・・・しかも金のことなんかをやっぱりほしいなんてかっこ悪いじゃん!
「そうか・・・なるほど。大切に扱ってくれそうな主人でよかったな、ミーナ」
「はい!」
満面の笑顔でオルセンに返事をするミーナ。
うーん・・・どゆこと?
まぁいいか。いい方向の印象みたいだし。とりあえず笑っとこ。
「ご主人様の元に居ればすべて安心ですよ、ミーナ!」
どんどん俺の存在が高められていく・・・俺のことを置いけぼりにして・・・。
頑張りますけどっ!あまり期待しすぎないでね。
「よし、それじゃいくか」
「今日はうちのガレウスがすまなかった。それとミーナの事・・・ありがとう。よろしく頼む」
一組織の長なのにこんな丁寧な謝罪が出来るオルセンは信用できるな。
ただこの優しさにあのガレウスがつけこんで増長してしまったという側面もあるのかもしれない。
まぁそれは今後に期待ってことだな。別に俺の所属している組織でもあるまいし、関係ないけどね。
「まぁ今後またなんか思いついたら話を持ってくるよ」
「ほ、ほんとか!?今の言葉は覚えておくからの!絶対じゃぞ!!」
え、なにその食いつき。
近所の寺の鯉かよ。いきなりがっつきすぎやろ。
鯉はほっといて今日は色々あって疲れたからもうわが家へ帰ろう。
もちろん、ミーナも一緒にな。
「行こう。オリヴィエ、ミーナ」
「「はい!」」
こうして俺は二人目の奴隷、ミーナを手に入れた。
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