第42話 同意
俺とオリヴィエは西門そばから立ち去るガレウスをその姿が見えなくなるまで睨み続けた後、少し寄り道をしてから商業ギルドに来ていた。
「たのもーーー」
「え?な、なんですか?アナタ達・・・」
時代劇でもコントよりのものでしか出てこないような台詞をこの異世界で披露する俺に何事かと壁際の棚近くで仕事をしていた女性の職員が怯えながらも話しかけてきた。
「ギルドマスターのオルセンを呼んでくれ」
「ギ、ギルマスに・・・?会う約束は取り付けてありますか?」
「ない」
なにをそんなに怯えてるんだ、こんな優しい男を捕まえて。
アポなんてあるわけないだろう。一度ウィドーさんのとこで会ったことあるだけなんだから。
「約束がないのなら・・・」
「ジル君、大丈夫だ。通してやってくれ」
二階に続く階段の中段辺りからオルセンが声をかけてきた。
「え?あ・・・はい、それではこちらへどうぞ」
ギルマスの一声で俺達は二階にあるギルドマスターの部屋へと案内された。
部屋自体の広さはそんなに広さはないが、部屋の中央にある応接スペースと奥にある事務用の机の装飾はかなり凝った作りになっている。かなり高価なものだろう。
オルセンは奥の机に座って顔の前で両手を組み、こちらを見て言う。
「さて・・・君の要件を聞く前に、なぜ君がそこに居るのかを聞いてもいいだろうか?」
その言葉に俺の後ろに隠れるように立っていた人物が少し肩を揺らし、横にずれておさげ髪の顔を覗かせる。
「この娘を買い取りたい」
そう言って俺はミーナの肩に手をのせる。
「ミーナを・・・?理由を聞かせてもらってもいいかね?」
「おたくの部下のミーナへの扱いに我慢できなかった、それだけだ」
俺の言葉を聞いたミーナの肩が震えだす。
「奴隷解放と契約、この双方で所有者と対象者・・・今回の場合は前者がガレウスとミーナ、後者は君とミーナになるわけだが・・・双方でお互いの同意が必要になってくる。つまり、ミーナが望んでいなければスタートラインにすら立てないのだが・・・君はそれを望んでいるということかね?」
ミーナはずっとうつむいたままだった顔をオルセンに向け、口を開く。
俺達はガレウスが西門からミーナと反対方向へと立ち去るのを確認した後、ミーナの後を追った。
時間的にそんな経っていなかったのと、俺とオリヴィエの戦闘職補正の乗った身体能力を存分に活かし、かなりのスピードで追ったからミーナの元へはすぐに追いついた。
突然立ちふさがった俺とオリヴィエにミーナは警戒心をあらわにして一瞬身構えたが、俺の顔を確認するとその赤くした目を大きく開き、驚いていた。
「ミーナ」
「サ、サトル様?一体どうして・・・」
まぁそんな顔になるのもわかる。
我ながらかなり人間離れした動きになってきたとは思うよ。それについてくるオリヴィエもどうかと思うけどね。
「君、ちょっと俺に買われてみない?」
「へ?」
なんか重い空気になるのもいやだったからちょっとちょけてみたけど、失敗だったかな・・・?
何が何だかわからない様子のミーナが固まってしまい、結果俺の周囲が凍り付いたように感じた。
「ちょ、ちょっとミーナが欲しくなったから俺の奴隷になってくれないかな?」
日本でこんなセリフを知り合ったばかりの女の子に向かって言ったらどうなるか・・・いや、こういうのはイケメンとそうじゃないやつで受け取る側の対応が変わってきそうだな・・・まぁ俺は後者だからそんな考慮は必要ないわけだが・・・。
なんかちょっと悲しくなってきた。
「わ、私を・・・買う・・・のですか?」
言葉を発しながら俺の言葉を自分の中で嚙み砕いているのか、つまりながら聞いてきた質問に、俺は頷いて見せた。
「し、しかし、すでに所有されている奴隷を直接買う場合は商人から買う時よりも値が上がってしまいます。私がガレウス様に買われた時の値段は金貨11枚でした。その時の金額でも自分には見合っていなかったのにそれ以上の価値など自分には・・・」
オロオロしながらどんどん早口になって説明してくるミーナ。
「金貨11枚か・・・安いな」
金貨1枚は俺的為替だと日本円にして約百万円だ。
金貨11枚だと一千百万円ということになる。
金額としては大きいが、人ひとりの値段となると、日本では人身売買は禁止とされているので比較は出来ないが、決して高いとは言えないだろう。
・・・まぁこの辺の価値観は人それぞれだと思うだろうから異論はあるだろうが、俺個人の価値観としては・・・ということだ。
「ミーナだったらもっとしても全然おかしくはないと思うがな」
「で、でもサトル様にはオリヴィエさんという恋人が・・・」
その言葉に俺とオリヴィエが顔を見合わせた。
俺はニヤついていたが、オリヴィエは頬を染めている。
見合わせたまま黙っていると、困ったオリヴィエがたまらず俺の代わりに答える。
「私はご主人様の奴隷です。こ、ここ恋人ではありませんよ」
おー。オリヴィエが言葉に詰まるなんて珍しいもの見れたな。
「え・・・?で、でも・・・え?」
というか物件の案内をしてくれていた時にオリヴィエは俺の事を何回かご主人様って呼んでたような気がするんだけど・・・あの時のミーナは緊張しまくってたから気が付かなかったのかな?
「あ・・・そうか・・・でも・・・いえ、そうだったんですね」
だいぶ長いこと困惑していたけど、自分の中で何かの結論を得たらしい。
ミーナは一人で自問自答した後、納得したようだ。
「そうなのだ」
何に納得したのか正直わかってないけど、とりあえず肯定しておく。
別に悪い内容じゃないだろうしな。
「ご主人様、ミーナの身請けは先程本人が言っていたように金貨11枚以上が必要となりますが・・・」
「ああ、それはたぶん大丈夫。何とかなると思う。それに、もし俺の案で足りなかったら借金でもなんでもすればいい。俺達ならちょっと頑張ればいけそうだろ?」
ウィドーさんの真似をしてオリヴィエに片目を瞑って見せる。
「・・・そうですね。ご主人様ならば白金貨でもすぐに手に入れてしまいそうです!」
煽ったのは俺だけど・・・大きく出るなぁ。白金貨って金貨100枚分だから一億円ですよいちおくえん。さすがに無理じゃない?
「まぁそういうことだからお金の心配はいらない。ミーナが望めば俺はすぐにでも買うぞ」
「ですが・・・私にそんな金額で買っていただく価値はありません。・・・商業ギルドに買っていただいた際も相場よりも高い金額で買っていただいたのに・・・」
金貨11枚ってのは相場よりも高いんだな。
・・・もしかしたらミーナが仕事をするときに緊張していたのってそれが原因でプレッシャーになっていたのかもな。
「さっきも言ったと思うが、ミーナにはその価値はあると思うぞ」
可愛いしな。という言葉は飲み込んで口に出さないでおく。
ないとは言えない下心を感じ取られて断られたら目も当てられないしね。ないとは言えないだろ。可愛いんだから。
遠慮なく2度も価値ありと告げられたミーナはとても恥ずかしそうにしていた。
「あ、でも俺達はダンジョンで稼いでいるから、ミーナを買ったら一緒に潜って手伝ってもらうことになると思う。それでもよかったら是非買われてくれ」
「それは全然大丈夫です。むしろ連れて行ってくれるのであれば頑張ります!」
あ、もしかして君もオリヴィエと同じ派閥のかたでした?
それともこの世界の人ってダンジョンに入ることに躊躇ないことの方が普通なのだろうか。
「あ、でも奴隷解放ってガレウスの同意も必要なんだっけ?」
「それでしたら私の奴隷契約は商業ギルドの名義で行われたはずです」
ほうほう。・・・で?
結論を言った風なミーナだが、なんのこっちゃわからなくて困った俺はオリヴィエを見て救いの手を求める。
「奴隷契約が組織の名義で行われた場合、所有者としたものよりもその組織内で位が上の者であれば、所有者と同じ権利を持ちますので、代わりに解放契約をすることも可能です」
さすがオリヴィエ。
おれのすべてを理解し、すぐに答えを出してくれる。
ということで、俺達はそのまま商業ギルドのギルドマスターに会いに行ったというわけだ。
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