第41話 模索

「ご主人様、道具はこの辺りで大丈夫だと思いますが、どうでしょうか?」


え・・・君、あの会話の中で普通に買い物してたん?すっごぉ。

ありがたいからいいけどっ。

木槌や釘、ノコギリに鉈や手斧など、結構なDIYが出来そうなほどの工具を抱えてやってきた。

ちょっとその手斧の持ち方は危ないからやめなさい。君の柔肌は国宝なのだぞ。


「選んでくれてたんだな。ありがとう」


胸ギュで喜んでるけど内心ちょっと引いてるからな、俺。

可愛いから全然いいけど。オリヴィエは常に正義なのでね。


「今回はギルドカードでの支払いだね」


俺がカウンターにギルドカードを出すとウィドーさんはそれをクイルの上へと少しかざし、淡く光るのが納まるのを待ってから俺に返した。


「はいよ、ありがとね。こないだはあんな美味しいご馳走も頂いたから、いっぱいサービスしといたよ」


あれはどうみても作りすぎだったから別にいいのに。まぁ頂けるサービスは頂いておこう。出来れば次は違うサービスでお願いします。


・・・ん?おっさんがこっちを見ている。

そんなに見ても仲間にはしないぞ。


「・・・ご馳走」


仲間になりたいんじゃなくてただお腹が空いただったの?

俺は知らんおっさんをわざわざ家に招いてお腹を満たしてあげる趣味はないから家に帰ってどうぞ。


俺はオルセンの視線から逃げるように雑貨屋から出ようと入口へと向かう。


「あ・・・ちょ、ちょっと待ってくれ!そのご馳走とやらの話を少し・・・」


「いや、たいしたもんじゃないですよ。それじゃ俺達は忙しいのでこれで」


別になんの予定もなく忙しいなんて完全に嘘なわけだが、世の中にはついてはいけない嘘とおっさんを躱す為の嘘の2種類があって、後者はどんなものでも罪には問われないのだ。


後ろでまだなんか言ってるけど、おっさん難聴の俺には届かないということに今なった、すまんな。




雑貨屋を出た後、荷物も増えたし用事も済ませたので、家に帰ろうと西門近くまで来たとき、出来れば耳にしたくなかった声がまた聞こえてきた。


「そのことは一週間前に伝えていたはずです。一度伝えたことはちゃんと覚えていただかないと困りますよ」


「あ・・・ぅ・・・ごめんなさい」


今日はよく会うなぁ・・・。


雑貨屋に行く前に市場で会ったガレウスとミーナが西門手前でなにやら揉めていた。いや、あれは揉めているというか、前と同じようにミーナが一方的に言われてるだけだな・・・。


「言われたこと位はしっかりと覚えてください。・・・覚えられないならしょうがないですね。忘れてしまうなら反芻して覚えるしかないです。だからこの仕事は任せるので一人で行ってきてください。全く・・・しっかりしてくださいよ」


これ知ってるわ・・・1年で辞めた真っ黒の会社でよく上司が使ってたやつ。

部下の為みたいな上っ面だけの言葉を並べて自分の仕事を部下に押し付けるやつ。俺はムカついたからそいつのさらに上の人間にチクったが完全に黒に染まっていたその会社は俺が悪いとか言いやがったからその場で残りの有給だけ申請して辞めてやった。


それと一緒だな。


「あの男・・・奴隷の扱いに慣れていますね」


「慣れてる?」


あいつ、ミーナ以外にも奴隷いるのか?・・・なんてうら・・・酷いやつだ。


「奴隷に対し、暴力を使わずにうまく使っていますからね」


「暴力を使う、もしくは使い続けると所有者はある時罪人へと落とされます。なので奴隷の扱いに慣れているものはあの男のように強い言葉で奴隷を従えるようです」


奴隷が主人に危害を加えることはシステム的に出来なくなるのに対して、所有者が奴隷に暴力をふるうのは可能だが、それをすると罪人へ落ちる・・・と。


だからあいつは暴力を使わずに言葉で優位に立ち、ミーナに自分の仕事を押し付けているってことか・・・。


・・・うーん、よくできているようでなんか抜け道がいっぱいありそうな・・・。


そもそもそれならミーナに嫌味を言う必要がないような気もするけど・・・あれはそういう使うとか使わないとかじゃなくてあいつの地なんじゃねーのか?

でも、あんな態度を他の人間にもしてたらギルドのNo2になんてなれないんじゃないのだろうか。

それとも商業ギルドが根本から腐ってるとか・・・。


「何をしているんです?さっさと交渉に行ってください」


「あ・・・いえ、すいません。やっぱりこの仕事内容は聞いていないと思いま・・・」


「私が!!伝え忘れたとでも言うつもりですか?」


やっとのことで絞り出した反論を声量で無理矢理ねじ伏せられてしまったミーナは目に涙を溜めはじめ、それを流さぬように必死にこらえていた。


あいつを今ぶっとばしても罪人にはならないよな?やってもいいかな?


「いつまでそうしているのですか。お客様を待たせて私の評判が落ちたらどう責任

を取るつもりなのですか」


客の評判を気にするやつが奴隷に仕事任せるなっつー話だけどな。


「動きなさい」


ガレウスが少し間を置いてから低く冷たい声で一言でミーナが振り返り、走り去っていった。


顔は見えなかったが、体を反転させた時にキラキラと光るものがあった気がする・・・。


もう殴っていい?ちょっと顔が変形するくらいはいいよね?


「ご主人様」


俺がガレウスの方へ向かおうとするとオリヴィエが静止した。


「こらえてください・・・。所有者を傷つけてもミーナの権利は動かずご主人様が罪人落ちする危険もあります」


二歩くらいガレウスに近づいただけなのによくわかったな・・・。そんなに顔に出てたか?

大丈夫だオリヴィエ、俺にはPT設定変更があるから職業の変更は出来る。盗賊が

変更出来たんだから同じ職業落ちの罪人だってきっと大丈夫さ。

止めてくれるな。


オリヴィエだってあんなやつは許せないだろ?オリヴィエが俺の事をよくわかっているのと同じくらい俺だってオリヴィエの事はわかるつもりだ。


まぁあんな殺気は誰でも気が付くかもしれないけど・・・。


「ご主人様。ミーナの値段はおそらく金貨10枚から12枚ほどです、ご主人様ならば今すぐには無理でも・・・」


そう言って俺に向かって頷いて見せたオリヴィエ。


なるほど。そういうことね・・・。

でも俺は今すぐあいつの元からミーナを引き離したい。


俺達の案内をしてくれたミーナは凄く元気で与えられた仕事に一生懸命頑張る良い娘だったんだ。

あんなこと言われるような仕事をする娘ではないことは一度彼女の仕事を傍で見ている俺にはわかる。おかしいのはあの男の方なのは誰が見ても明らかだろう。


この世界でこんなことは山ほどあるのかもしれない。

いちいちこんなことがあるたびに助けていたのではキリがないと言われるかもしれない。


だけど、俺は助けられるなら助けたい。


しかも今はオリヴィエの時のように特に命の危険があるわけでもない、あればいいのは金だけだ。


だが今の手持ちは26700ルク。銀貨にして26枚だけ・・・。

この金額はほぼ一日で稼ぐことが出来る。

でも金貨は銀貨100枚分だから・・・全然足りない。


いまの稼ぎを続けたとしても40日以上かかる・・・。


だけど・・・たぶん、ダンジョンは深く潜ればもっと稼げる。

今は特に金銭的に不便さを感じなかったし、毎回深く潜るとすぐに帰るのが厳しくなるという理由で3層で止めていたが、実力的にはもっと深くまでいけるはずだ。


稼ぎを1.5倍にすれば30日。2倍に出来れば20日か・・・。

皮算用が過ぎるかもしれないが、この計算は今の適当にやっている状態を基準にした金額だ。

もし、本気で貪欲に稼ぎにいけばもっと効率よく稼ぐことも可能かもしれない。


それでも手詰まり感を感じたりうまく稼げなかったら最後の手段にサポシスさんを頼ったっていい。


3層以降のドロップアイテムに美味しいものがあったら・・・。


・・・ん?


・・・。


・・・・・・。


ふむ・・・もしかしたら、いけるかもしれん。






すぐにミーナを解放することが。

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