第40話 苛立ち
「あなたがここでもたついていればいるほど損失が発生していくのですよ?」
このムカつく声は間違いない。
商業ギルドにいた態度のでかい男、ガレウスだ。
「す、すいません・・・。すぐに拾います」
地面に散らばった書類を懸命に拾うミーナを見下ろすガレウスは全く手伝おうともせず、さらに続ける。
「まったく・・・しっかりしてください。次の商談場所に遅れてしまうじゃあないですか」
そんなナチュラルに俺の好きなアニメのような言い回しをしたって好感度なんかピクリとも動かないぞ。
大体遅れそうならお前も手伝えってんだ。
「なんか、凄い腹が立つやつだよなぁ・・・。あんなやつにミーナがどうこうされてるのかと思うだけでも手が出そうなのに」
「いえ、それはないと思います」
直接的な言い回しをしなかった俺の発言の意図をも正しく汲み取ってくれるオリヴィエ。
でも、なんでそう思うのだろう?
「奴隷の所有者ってそういうことも自由に出来るわけじゃあ無いのか?」
おい、うつったってぇ・・・ガレウスのせいだぞっ!
「所有者が奴隷に対して強制的に危害を加えるなどの権限はありません。なので、奴隷を無理矢理手籠めにしたものは罪人へと落とされると聞いています」
「え・・・じゃあ」
「いえ、私がご主人様のものになったのは、私が望んだことですのでなにも問題ありませんよ」
おおぅ・・・俺に向けられる笑顔ですべての色がとんでしまいそうだぜ・・・。
アナタが太陽でしたか。
「・・・じゃあ奴隷にする意味ってどの辺にあるんだ?」
しまった。この言い方だと俺が奴隷にその辺だけしか意味を見出していないような感じにとれてしまう。
「奴隷は意図して直接的に所有者を害することが出来なくなります」
ふむふむ。
「・・・・・・」
え?それだけ?
続きの言葉を待っていたのにオリヴィエの口からそれ以上の情報は出てこなかった。主人を害することが出来なくなるだけの制限なの?
じゃあ逃げ出した場合とかどうなるんだ?直接的にとかわざわざつけるってことは、第3者とかを使って間接的に攻撃することとかは出来るってこと?
まぁ、その辺は聞いてみれ・・・痛っ
「邪魔ですよ。往来の道の真ん中で・・・おや?」
ドンッと突然肩に衝撃が走ったと思ったらガレウスがぶつかってきたようだった。
なんだこいつ。
「おやおや、これはどうも・・・行きますよ、ミーナ。ワタシは忙しいので、これにて」
そして謝罪もなし。よし殴ろう。
という冗談を頭の中で考えていたら、すぐ後ろでほんとに実行しようとしている娘を発見したのですぐに静止する。どうどう。
「あ・・・サトル様、ごめんなさい。失礼します」
ミーナが謝らなくていいんだよ。代わりにアイツの首を持っておいで。遠くにパントキックしてあげるから。
さっき拾った書類を落とさぬように両手で抱えながら丁寧にお辞儀をしてから、後ろを振り返りもしないで前を行くクソ野郎の元へ走っていくミーナ。
「あいつ・・・よくあれでギルドの偉い立場になれたもんだよな」
「ミーナが可哀そうです」
そうだなぁ・・・良い娘なのが余計に不憫さを際立たせているよねぇ。
なんであんな態度をとるのかねぇ・・・。幼少期にこの世のすべてを見下せとでも洗脳されたのだろうか。
ここでイライラしててもしょうがないからそのまま市場を抜けようとしたとき
「あ・・・ご主人様」
え、食材は買わないっていったでしょ。まだまだ家にいっぱいあるんだから駄々こねないのっ!
「食材は家にまだまだあるから買わないぞ」
「むぅ・・・違いますっ」
おお、プリプリオリヴィエ。新しい表情だな、いつそんなん実装したの。可愛すぎでしょ。
「食材を買わないのであれば、帰りの手が空くと思いますので、今のうちに家の周りを囲む柵を作る道具を購入してはどうかと」
「あーなるほど。じゃあウィドーさんのとこ寄っていくか」
昨日の今日でまた同じ場所に来てしまった。好きとか勘違いされたらどうしよう。大歓迎なんだけどっ。
意気揚々と弾んだ心で扉を開けると、お目当てのウィドーさんは見知らぬおっさんと話している最中だった。
「そうそう、ここだと少し遠くてねぇ・・・いいとこがあればいいんだけど」
「ふむ、確かに通うのには不便だの」
え、なに?不倫場所の相談でもしてんの?やけに親し気だし。
「おや、いらっしゃい。今日も来てくれたのかい?」
はい。今日も会いに来ました。
「ウィドーさん楽しそうっすねー。もしかして年上好み?」
「なっ・・・!なにを言うんだい!このおっさんは商業ギルドのギルマスで今日はただ移転の相談をしていただけだよっ!!」
冗談ですやん。そんな顔を真っ赤にして大声ださなくてもいいですやん。
ひょっとして図星だった?やっちゃったか?俺。
だとしたら精神的年上の俺にもチャンスありか!?
・・・いや、男は精神的に永遠の子供だから体が若返ったらもう無理か。
「ウィドー。こちらは?」
となりにいたおっさん・・・オルセンが俺を紹介しろと催促した。53歳らしい。
職業が・・・豪商レベル14!?
商人の上位ジョブかな?この世界で初めて見たな・・・上位職業・・・。
俺のはじめてをこんなやつが奪うなんて・・・。責任と・・・らないでいいです。
「これはアタ・・・イのお客さんだよ・・・昨日倉庫の不良在庫を大量に買ってくれたのさ」
なんか突然寂しそうな表情になったな。情緒不安定か?月1?
「なるほど。・・・なかなかに見込みのありそうなお方だね」
ちょっとおいちゃんつま先から頭のてっぺんまで視線で舐めるのやめてくれんかね。そういうのはカウンターの奥の人に委託してください。
一体俺のどこをみて見込みがあるとか言ってるのか・・・もしかして大商人は俺と同じような鑑定が使えるとか言わないよな・・・?
いや、ないか。俺のマルチジョブを見たらたぶんもっと驚かれるしな。
・・・って商業ギルドのギルマス!?あいつの上司じゃねーか。
大商人のインパクトがでかくてウィドーさんの紹介がとんでたわ。
ちょっとクレームいれとくか。
「そういやおたくのガレウスとかいうやつ・・・あれどうなってんの?」
「む・・・ガレウスはたしかにうちの副ギルドマスターだが・・・」
「俺昨日商業ギルドで家買ったんだけど、あいつ滅茶苦茶態度悪かったぞ。案内も契約も全部ミーナに押し付けてたし」
あいつの組織のさらに上司になにをいっても無駄かもしれないけど、客であるウィドーさんの前でクレーム言えば何らかの対処をせねばなるまい。
ふっふっふ。策士サトルと呼んでくれ。謀略家アマノでも可。
「そうか・・・すまなかった。ギルドマスターとして謝罪する。申し訳ない」
うわー綺麗な90度・・・。じゃなくて、ちょっと苦言を呈して性悪おやじが苦虫を嚙み潰したような顔で少し謝罪するくらいかと思ったのに、滅茶苦茶丁寧に謝られてもーた・・・。
こうなるとなんか俺の方が悪い気がしてきちゃう・・・誠心誠意謝罪パワー恐るべし・・・。
「あ、ああわかった。こちらこそ直接関係ない話をいきなり持ち出してすまない」
「いや、部下の不手際は上司であるワシの責任だ。謝らせてほしい」
おーぅ・・・なんでこのおっさんの下で働いててアイツみたいなバケモノが誕生するの?逆に凄くね?
商業ギルド内に2つの部署があって仕事上ではお互いに全く出会わないとか・・・ないか。
「わかったわかった。謝罪を受け入れるから頭を上げてくれ」
俺がそういうと、オルセンはやっと頭をあげてくれた。
あんた結構苦労してるね。頭頂部の防御力がだいぶ低下しているよ・・・。
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