第39話 納品

俺の村人のレベルが5になっていた。


昨日ダンジョンから戻ってきた時はたしかにLv4だったはずだ・・・。

確認のために今までずっと同じタイミングでレベルが上がっていたオリヴィエの剣士のレベルを鑑定で確認してみたが、剣士はやはりレベル4のままだった。


うーむ、なるほど・・・わかった気がする。


村人のレベルは年齢があがるほど高くなっていた。

生きている時間が長ければ経験値を取得する機会が多いのだから、最初はそれに対してあまり違和感は持たなかったのだが、この世界のレベルの上がりにくさを鑑みた場合、村人の戦闘力の無さを考えた時に違和感が生まれる。


いくら長生きしても・・・しかも老人になってからではなおさらモンスターを倒すことなど難しくなるだろう。

だから村人は必要経験値が低いとか、取得経験値が増加するとかいったレベルが上がりやすいといった特性などではなく、「生きていること」で経験値を取得できる・・・一定期間毎に経験値が入る職業なのではないだろうか。

それなら年齢を重ねるほどにレベルがあがっていることの説明にもなる。


もしかしたら他の職業も・・・と一瞬思ったが、村人以外に年齢に比例してレベルが高いと言った傾向は今のところみられない。

だから多分俺の予想はドンピシャじゃなくても大体当たっているんじゃないだろうか。


そして、前に剣士の変更条件をシスサポさんに聞いたとき、自分の攻撃で魔物のHPを半分以上減らすといういかにも戦闘職になるための条件の他に、村人Lv10以上というものがあった。

これは一見すると剣士に必要なものとは思えない・・・が、村人のレベルが職業を変更するための条件と仮定するならしっくりくる。


つまり村人Lv10というのは剣士への変更条件ではなく、すべての職業変更には村人Lv10が必要・・・ということなのではないだろうか。


うーん・・・すべてという部分に違和感はあるが、こちらも概ね間違ってない気がする。


とりあえず剣士の変更条件であることは間違いないから村人をあげる意味はあるだろう。このままLv10まで入れといておこう。

もし自動取得の部分にも20倍が効くのなら、戦闘が必要な職業よりはあがりやすいだろうしな。


俺の予想があっているならば、村人のレベルが10になったとき、一気に変更可能な職業が増える・・・と思う。

もしそうじゃなかったならばそれはその時また考えよう。最悪シスサポさんに聞けば教えてくれるだろうしな。・・・たぶん聞かないけど。


「ご主人様、今日はダンジョンへは行かれないのですか?」


俺が起き抜けに長時間何かを考えていたから疑問に感じたのだろう。

産まれたままのオリヴィエが横から質問を投げかけてきた。


「あ、いやスマン。ちょっと考え事をしていただけだ・・・ダンジョンは行くぞ」


「はい」


オリヴィエは真剣な表情ながらも抑えられない嬉しさが彼女の後ろで布擦れを引き起こしていた。わかりやすくて助かるよ。



俺達は腹時計が帰宅を促すまでダンジョンへと潜り、食事を済ませてから朝の成果と昨日の午後分も合わせてギルドへ持っていこうと物置部屋にきたが・・・


「うーん、これ一回で持っていける?」


「・・・詰め込めばなんとか・・・あ、でもゴブリンナイフとゴブリンダガーの数が多いので、背負い袋を壊してしまうかもしれません」


狩りの効率をあげた弊害・・・いや、嬉しい悲鳴といった方がいいか。

モンスターを効率よく倒しすぎてドロップアイテムのストックが偉いことになってる。


数えてみると、兎の肉が13個、兎の毛皮29枚、狼の肉が4個、狼の毛皮が23枚、ポーションが6個、ゴブリンナイフ22個、ゴブリンダガー18個、蜘蛛の糸が13個、ミツチ草が28個で最後にククレ草が24個だ。


兎や狼の肉は食べる分でとっておき、売れない毛皮とククレ草を省いたとしてもかなりの量だ。オリヴィエの言う通りホブゴブリンからドロップする刃物系が多く、こんなものを背負い袋に詰め込んだら大変なことになってしまうだろう。

だが、持って行かないとどんどん溜まっていく一方なので、出来るだけ持っていきたい。


うーん、やっぱり欲しいなぁストレージ。


ゲームだったら99個持とうが、9999個持とうが1スロットなのに、現実では40個なんて数は店への納品レベルだ。

俺は少し考えてあることを思いつき、実行した。


「なるほど・・・これは勉強になります!」


オリヴィエに褒められた方法だが、誰でもちょっと考えれば思いつくと思うし、あまりいい方法とも思えないから素直に喜べない。


だって細い長い布で刃の部分を中心にダガーとナイフをぐるぐる巻きにしてひとまとめにしただけだもん。

しかもこれ、たぶんなにかの衝撃ですぐバラバラになるぞ・・・。


ゴブリンダガーとナイフは武器としての質が悪く、ドロップアイテムのくせに形状がバラバラなせいでまとめにくい・・・。ダンジョンマスターが質の悪さをわざわざ表現したのかもしれないが、余計な事にリソースを割かないでほしい。暇なの?ダンジョンマスターって。


不安定なこれらは他のアイテムを緩衝材がわりにすることで安定化を図ってなんとかリュックに詰め込んだ。



「・・・今回の買取額は20210ルクになります」


リュックから出した大量の素材を何回かに分けて裏に持っていき、その査定を終わらせたマリアが少し笑顔を引き攣らせてその額を知らせてくれた。


前回までは手持ちにもいくらか持っていた方がいいかと思って銀貨や銅貨で貰っていたが、どうも俺が思ったよりも多くの店がクイルを持っていたためこれ以上は必要ないと思い、今回からはギルドカードへ入れてもらうことにした。


「おー今回は結構な額になったなぁ」


「・・・・・・結構な額・・・じゃないですよ!!これは普通のパーティーであれば4、5日分・・・下手したら1週間分の量ですよ!しかもそれを毎日なんて・・・」


今まで我慢していたのがついに決壊してしまったのか、突然マリアがカウンターから出てくる勢いでツッコミを入れてきた。

随分と溜まってたんやなぁ、君のダム。

やっぱりちょっとやりすぎたか・・・?でも、貯めといてもしょうがないしな。

オリヴィエも後ろでなんか自慢げな顔でウンウン頷いているから平気だろ。


「あ、あーまぁまぁ落ち着いて・・・。とりあえずこれからもこんくらいは持ってくると思うから」


誤魔化してもしょうがないし、開き直ることにした俺は正直に伝える。

どうせ持ってこないといけないし、持ってくる度にいちいち理由を考えるのもめんどくさいからな。

いきなり持ってくるからびっくりするのであって、伝えておけば問題ないだろ。知らんけど。


「こ、これからも・・・この量を・・・?」


どんどん引き攣っていく顔に笑みが侵食され、消えていく。


「じゃあ、そゆことで・・・よろしくー」


「ちょ、待ってください!サトルさん!?サトルさーーーーん!!」


遠くなっていく俺を引き留めるマリアの声。・・・俺も罪な男だぜっ。


たぶん納品されたものはそのままどうぞと他へ渡すのではなく、何らかの作業が発生するんだろうな。

じゃなきゃ常に笑顔で対応してくれていたマリアがあんな表情になるわけないし。

ただ売るだけだったら逆にもっと笑顔にならないとおかしいもんな。


まぁなんだ・・・。頑張ってくれマリア。それこそ自愛の心でな。

キミのボーナスアップを陰ながら願っておくよ。あるのかも知らんけど。賞与。



「ご主人様、今日は何を買っていきますか?」


ギルドを出た俺達は現在市場の通りを歩いている。


「うーん、まだまだ買った食材はあるし、ドロップの肉もとってあるから今日はいいんじゃないか?」


という俺の言葉を聞いたオリヴィエがしゅーんとしてしまった。

いや・・・過剰に買ったら腐るだけだからね?


氷魔法とか使えたら保存庫でも作ってだいぶ入れて置けるけど、検証した結果、水魔法では温度の変化はつけられず、氷にすることは出来なかった。


科学的な考証をすれば温度は分子の動きで決まるため、それをイメージして温度変化をつけられないかも試してみたけど、結果は失敗だった。


この辺の魔法に法則性を見つけるのは俺の独力では到底無理だ。MPがあるから試行回数も少ないしな。






「なんでこんな作業も満足に出来ないんですか?しっかりしてください」


市場の通りも終わろうかという場所で、どこかで聞いた声がした。

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