第35話 引っ越し

おかしい・・・あれから遭遇するモンスターの比率が明らかに偏っている気がする。

3層は一角ラビットのポップ率が異様に高いのだろうか。

話を聞く限りはそんなこと言っていなかったと思うのだが・・・。


と、こんな感じで気が付かない振りを続けている。

別に指摘するつもりもない。可愛いし。

それにそれのせいでモンスターのエンカウント率が下がっているわけでもなく、むしろ上がっているまである。彼女の好きにさせてあげよう。


おかげで一角ラビットへの対処法も確立してきた。


対処法といっても他のモンスターより距離を縮めてから魔法を使うという簡単なことで解決した。

間合いが長すぎるとほぼ確実に避けられる反面、一定以内の距離であれば確実に命中させることが出来た。


耐久力に乏しい一角ラビットは魔法でも一撃だったから、対処法さえしっかりとしてれば他の魔物よりも効率がいい。


何匹目かの一角ラビットからはじめて兎の肉がドロップした後の数回はさらにスピードアップしていた。

もう一つ手に入れた後はある程度落ち着いたようだが・・・。


もしかしたら今夜のおかずに俺とオリヴィエ分を確保するのに必死に・・・?

・・・うーん、これは売れないか・・・?。肉は高値で売れるらしいけど、他で稼げば問題なかろう。


オリヴィエの働きにより、今回の成果はかなりのものとなった。

ほとんどが一角ラビットだった気もするが、その間に結構色んな魔物との戦いも経験した。

ホブゴブリンはゴブリンの強化版だったし、フォレストハウンドは何回も戦っていたが、レッドスパイダーというでっかい蜘蛛は気持ち悪かったし、ウォーキングウッドとかいう歩く木の動きはとても新鮮だった。


狩りはお互いの腹の虫が騒ぎ出した頃までやってダンジョンから撤退し、街へと戻る。


俺のレベルは村人だけが4にあがり、他は7のままだった。オリヴィエの剣士は俺と同じタイミングで4に上がった。

やはり村人は戦闘職と必要経験値は一緒の様だ。モンスターを倒せない村人はどうやってレベルを上げているんだろう・・・。わからん。




「今回お持ちいただいたものすべて合計して14590ルクになります」


おっし!これならベッドを買ってもまだまだ余裕があるぞ。

兎の肉をトレーに乗せて裏へと持って行った時のオリヴィエの顔が面白くて少しからかってしまったが、マリアが戻る前に自分たちの分はとっといてあると伝えると正直に喜んでいた。



資金も確保した俺達は雑貨屋へ行き、ベッドの購入を伝えるとかなり驚かれたが、ついでに料理道具や倉庫の肥やしになっていた大釜も買うと告げると、家への運搬費もサービスしてくれることになった。


オリヴィエに大釜など何に使うのかと問われたが、それはまだ秘密だと伝える。


倉庫の隅に眠っていた大釜は直径1m程もあり、そのまま五右衛門風呂として使えるんじゃないかと思うよな大きさだった。

それを見た時にアレに使えるんじゃないかと思った。


先に言っとくが湯船として使うつもりではない、何故ならあのサイズだと一人ずつしか入れないし、それは許されない。

入るならオリヴィエと一緒に入りたいじゃない?全人類が同意することをいちいち聞いてもしょうがないな。すまん。


それに五右衛門風呂は火加減が難しすぎて素人には無理だ。下手したら茹で死ぬ。

一人は火の番に専念しないといけないっていう点でもう不採用なんだけどね。


まぁ秘密にした一番の理由は、それが可能かどうか、やってみないと分からなかったからなんだけどね。


「一度ばらすのと、その積み込みに少し時間がかかるからちょっと待っててくれるかい?」


あのくそでかベッドをどうやって持っていくのか疑問だったのだが、一度ばらして荷車に乗せて持っていくようだ。

家に到着したらパーツのまま部屋に持っていってそこで組み立てるらしい。


どの位かかるのかと聞くと、1時間以上はかかるという話だったから、俺達はその間を使って食材の買い出しをすることにした。


道具はこの雑貨屋で揃えられたが、食材が無ければ話にならない。それにやるならちゃんとしたものを作りたい。それが家を買った理由だしな。



雑貨屋に聞いた近くのオススメ食材店に来た。


店舗型の店を予想していたのだが、ついてみたら屋台が並ぶ市場の様な場所であった。

日本のお祭りの屋台風景にも似ているが、活気と食材の質と種類はお察しレベルだった。まぁお祭りという特殊な環境と日常である目の前の風景を比べるのは無理があるが、それでも売り物のレベルは一目見るだけでも確実に低い。


野菜は新鮮とはいえないものも並んでいるし、種類も少ない。

肉は干し肉は売っているが、生肉はないし、魚は小さい川魚のみだ。

魚があるのであれば魚醤などもあるかもしれないと探してみたが、残念ながら見つからなかった。


あれはたしか時間と塩と魚さえあれば作れる気がするのだが・・・そんなものもないとなると、やはり豊かな食生活を目指すのならば、自分で頑張らないといけないなと、ここでもあらためて思った。


とりあえず時間もないから塩以外の調味料はもう諦めて食材を買うことにした。

パンに野菜、干し肉と基本的なところをある程度押さえて購入していく。

保存装置もないこの世界で大量に購入しても腐らせてしまうだけなので、一日二日分を購入するのが普通のようだ。

日本にいるときはめんどくさかったから一週間分をまとめて購入したりしていたが、ここではそれは出来ないようだ。当たり前なんだけど、地味にめんどいよね。


「食材はこんなもんでいいかな。荷車で運ぶって言ってたし、せっかくだから宿の部屋も引き払って荷物もすべて運んじゃおうか」


引き払うと言っても大した荷物も置いてないから今買った食材を含めても全然持ち歩ける量だろう。

雑貨屋に行った時に追加購入した俺の分の背負い袋もあるし、服や下着を入れても余裕があるくらいだと思う。



白鯨亭に戻って女将に一言挨拶をし、荷物を持っていく。


その後に雑貨屋へと戻ると、丁度積み込みが終わるところだったようで、今は最後に大釜が落ちないようにロープで固定する作業を先程までの雑貨屋の店主と一緒にガタイの良い男がおこなっていた。


「お、丁度きたね。こっちはウチの旦那だ。普段はものづくりをしていてこのベッドもこいつがこさえたんだよ。このガタイで細かい作業が大好きとかほざいてんのさ。はっはっは」


豪快に笑うウィドーさんは・・・あ、この人の名前なんだけど、結構魅力的だよな。オリヴィエみたいに可愛いのももちろんいいけど、こういう感じも好きだなぁ。

まぁ白鯨亭の女将でわかると思うが、俺のストライクゾーンが広大なだけかもしれないがな。


よく、俺はマザコンじゃないとかロリコンじゃないとか綺麗系が好きだの可愛い系だのモデル体型だのぽっちゃりだの姉御肌がいいだの妹系が至高だとかいうけどさ、たしかにそれぞれ好きが強い要素はあると思うけど、俺は常々思うんだよな。

男ってさっき挙げたものを好きになる素養の強弱はあっても、ないってことはないと思うんだよね。何を言ってるのかわからない人もいるだろうけど、男って所詮は遺伝子を与える側だから受け入れる側と違って選ぶことに対する受容性は絶対的に女性よりは大きいと思うんだ。


「それじゃ、出発しようか。その重そうな背負い袋も荷台に置いていいから場所は案内しておくれよ」


自分のストライクゾーンの広さを誤魔化す言い訳をつらつらと一人で考えていたら、すっかり準備も終わって俺にウィンクしてくるウィドーさん。いいね。



夫婦二人でも大丈夫そうだったが、案内中は特になにもすることがなかったので手押し荷車の後ろに着いて押してあげると、お礼と共にまたウィンクをいただいた。


俺がそれに微笑み返して作業に気を戻すと、横で一緒に荷車を押していたオリヴィエが目を痙攣させながら瞑ったり開けたりしていた。

なにをしているんだろうと窺っていると、どうやらウィンクの練習をしているようだった。





主よ、今日もオリヴィエはしっかりと可愛いです。はい。

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