第30話 職業落ち
「のーまる・・・こもん?」
「あ、いや、すまん・・・なんでもない」
心の中で強く思うだけにとどめるはずが、俺のツッコミスピリッツが突然牙を剥き、俺の口から飛び出してしまった。
レアリティが相応の価値を持たないなんて納得できない!・・・とは思ったが、ちょっと考えたらあんな毛皮が厚着の必要のない地域で需要があるはずもなく、需要がないものに値が付かないのは当たり前の事だった。
昨日考えていた輸送力の問題もある。
毛皮が必要な地域はあるだろうが、そこに届けるだけのキャパが足りない。
毛皮を運ぶより別のものを運んだ方が利益が出ると判断された場合、それが選ばれることはないのだ。
「ご主人様、この毛皮はどうしましょう?」
「捨てることはいつでもできる。とりあえず邪魔になるまでは持っておこう」
価値がないとわかっていても、何かに使えるんじゃないかととっておいてしまうのは、貧乏性が原因の一旦ではあるが、家庭用ゲーム機が生まれた頃を幼少期として過ごし、それに触れてきた俺の癖みたいなものかな、と思う。
昔のゲームって容量的に無駄なアイテム自体がないか、少なかったからその頃に育った俺は、その後のゲームでも無駄に必要もないアイテムをとっておいてしまうんだよね。
オリヴィエはそんな俺の無駄に思える提案を否定などすることもなく、わかりましたと言って自らが価値0の裁定を下した毛皮を背負い袋にしまった。
その後もオリヴィエの聴覚だよりにハウンドを探し、狩り続けていると、徐々に人の姿を見る回数が多くなってきた。
剣での攻撃でもハウンドは一撃だったから、最初の一撃以外は魔法を使っていなかったが、あまり敵を一撃で倒すところを目撃されて変に注目されても鬱陶しいし、ちょうど腹も空いてきたので一度宿に戻って食事を取ることにした。
今回の成果は毛皮6個と牙11個、肉が1個だ。
残念ながらポーションはドロップしなかった。
肉はそのままリュックに入れるわけにもいかなかったので、ダンジョン内の手頃な草を採り、それに包んでから入れている。
ちなみその時の余談だが、肉がドロップした瞬間に超反応を見せたオリヴィエが、地面に触れる前にキャッチするというスーパープレイを見せるという一幕もあった。
そして俺のレベルの方は7に上がったが、オリヴィエの剣士は3のままであった。同時期に変更した俺の村人もオリヴィエの剣士とまったく同じタイミングでレベル3になっていたのだが、村人がレベルのあがりやすい職業という俺の予想は外れていたのだろうか・・・?
経験値取得の法則がいまだに全然わからんが、数値化されているのはレベルだけなので、考察するには情報が少なすぎる。
だから俺はあまり気にしないことにした。現状は気にしたってわかりそうもないしね。
何かわかりそうな新たなことがあった時にまた考える位でいいだろう。
「とりあえず、この1層ではダンジョンでも特に問題なさそうだな」
「この程度でご主人様に問題など起こるはずもありません!」
オリヴィエのこのどこからくるのかわからない信頼がちょっと怖いな・・・。
まぁ今のところほんとのことだから特に否定はしないけど、今後ちょっとした失敗で彼女の信頼を一気に失うんじゃないかと少し心配になる・・・。
「ま、まぁまだダンジョンは1層だ。これより先は手こずるかもしれないからな」
「ご主人様なら大丈夫です!」
今後のためにちょっと下げようハードルは、オリヴィエによってまたすぐ元の高さまで上げられてしまった。
・・・がんばれ、俺。
うーん、薄い。何回食べてもこのスープの良さに気が付けない。
果たして良い点などあるのかと、探す場所などあるのかと思ってきた。
やっぱり美味しいものが食べたいです・・・。
ほんとは食事の後もダンジョンに行こうと思ったが、もうこの食事環境をなるべく早くなんとかしないと俺の目のハイライトが消失してしまうかもしれない。
オリヴィエが居ることでなんとか持ちこたえているが、その彼女が美味しそうに食事するから余計に苦しくなってくる。
一度、あまりに美味しそうに食べるもんだからまったく違うものを食べているんじゃないかと疑い、交換を申し出て見たが、結果は何故かオリヴィエが少し照れるだけだった。
「食べ終わったら昨日話に出た家のことを聞きに行こうか」
「商業ギルドですね」
スープでふやかしたパンを咀嚼しながら頷く。
うーん・・・あ。
パンを見ていて思いついたが、今はその閃きを活かすためにもなるはやで商業ギルドへと向かうことにした。
「・・・ここは商業ギルドになりますが・・・」
少し高圧的な雰囲気を感じるおっさんが入口から入ってきた俺達二人に目を向けると、すぐに視線を書類に戻し、記入していた手を止めることなく話しかけてきた。
「家の購入を検討しているのだが、今日はその相談にきた」
その話を聞くと、手を止めて視線だけを俺達二人に戻し、そのまま少し何かを考えているようだったが、少しだけ表情を緩めて口を開く。
「何かご希望がありましたらおっしゃってください」
せめてその探るような視線をやめてくれないかな。ちょっとイライラするぞ。
「街の外の郊外にもし売り出している一軒家があったら紹介してほしい」
俺の言葉を聞いた男は少しだけ緩めていた表情を厳しい顔へと戻す。
「失礼ですが、一度こちらのクイルで職業確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「なっ!?」
この男からは全く申し訳ない気持ちが伝わってこないが、後ろから物凄い殺気を感じた俺は、詳細はよくわからなかったがおそらく本当に失礼なことだったのだろうと瞬時に予測し、逆に男の求めに素早く応じることでさっさと状況を進めようと考えた。
「わかった。これでいいか?」
以前門番で使った時と同じやり方でクイルに手をかざし、ステータスを表示させる。
やはりこれも鑑定のクイルだったようだ。
「・・・それでは、物件の確認をしてまいりますので少々お待ちください」
「ななっ!?」
今にも食って掛かりそうな勢いのオリヴィエをよそに、男は奥の扉へと行き、姿を消す。
その扉を目から怪光線でも出して焼き切るんじゃないかと思うような視線を向けるオリヴィエ。
「ど、どうした、オリヴィエ」
大体理由はわかっていたが、一応念のため本人に確認をとっておく。
「あの男・・・ご主人様のことを罪人と疑っておりました・・・」
力強くかみ合わせた歯列の隙間から音が鳴りそうな息を吐き、怒気に顔をゆがめる。あの可愛いオリヴィエは一体どこへ・・・。
「クイルって犯罪者かどうかもわかるもんなのか?」
俺の鑑定には今までそんな表記はなかったと思うけど、ボーナススキルより劣化版だと思っていた鑑定のクイルにも優れた点があったってことか?
オリヴィエは一つ大きな溜息をついて気持ちをなんとか落ち着かせてから答えた。
「盗みを働き続けたものは盗賊に、非道な行いを続けていると罪人へと職業が強制的に落とされ、基本的に変更ができなくなります。これを職業落ちといい、犯罪者である証拠となるのです」
なるほど、鑑定って探偵いらずの便利アイテムだったんだな。
まぁ続けたらってことだから初犯じゃならないんだろうけど。
そしてごめんよオリヴィエ。俺持ってるわ、盗賊。
職業落ちで得たものじゃないけどね。
よかったー、一番上が盗賊じゃなくて。
猫じゃないのにフーフー言っているオリヴィエもなんか段々可愛く思えてきたから不思議なもんだ。元が良すぎるんだな、この娘は。
「まぁ向こうも業務の一環だったんだろう。あまり敵意を向けてやるな」
俺がそういうと、少しだけその怒りを引っ込めて男が消えた方向を睨みつけるだけにとどまった。
鎮まりたまへ、まいぷりちーがーる。
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