第29話 狼の毛皮
目が覚めた。
今日はオリヴィエより早く起きれたな。
「ん・・・んん・・・ご主人様?」
と思ったら、体を起こそうとした際のわずかな衣擦れの音で隣で寝ていたオリヴィエが目を覚ました。
さすが警戒に自信があるというだけのことはある。
昨日あれだけ俺によって体力を削られたはずなのにな。
昨日は3回。若いって素晴らしいよね。しかも当方、まだまだいけそうな感じでした。
「まだだいぶ早い時間だと思うが、一回ダンジョンとやらに行ってみたい、一緒にきてくれるか?」
すると、なんの琴線に触れたのか知らんが、オリヴィエの表情が瞬間鋭くなり
「はい」
と、勇ましく返事をした。
とりあえずその辺に昨日剥ぎ取った時のまま転がっている装備を拾い集めながら身に着け、準備を整える。
「ダンジョンはファストの西にあるらしいですが、詳しい場所はわからないので、一度冒険者ギルドへ行きましょう」
自身の大きな塊を胸当てに納めながら的確なアドバイスを伝えてくる色んな意味で優秀なオリヴィエ。あれはいいものだ。
「ギルドってこんなはやくからやっているのか?」
壺よりもっといい彼女の膨らみを盗み見ながら言う。
「・・・他のギルドはやっていないと思いますが、冒険者ギルドは街の緊急避難場所の役目もありますので基本的に閉まるということはありません」
あの中が無駄に広かったのは酒盛りをするためだけじゃなかったんだな。そんな公民館みたいな側面もあったなんて。
まぁ日本では対象が自然災害だが、この世界じゃモンスターとかが対象なんだろうな。
まぁあいつらも自然の一部という見方をすれば自然災害とも・・・いえないか。
準備が終わって一階に降り、見かけた女将にまた戻る旨を伝えると小さなカンテラを渡された。
荷物になるから断ろうかとも思ったのだが、オリヴィエが率先して受け取ってしまったため、それを無下にも出来ずにそのままにしたものの、外に出るとそれがいかに必要なものだったのかを思い知らされる。
日がまだ登っていない街中は真っ暗でこの頼りない手元の灯りがなければどこへ向かっているのかもわからないような状態だった。
街灯がないという状況の街を歩いたことのなかった俺は、それがどんなに便利なものだったのかを改めて実感する。
俺が24の時、引っ越した直後の部屋でカーテンをまだ設置していない状態で一晩を過ごした時に、窓の近くにあった街灯の事を電気代の無駄とか思ってごめんなさい。
闇に包まれた街は昼間とはその印象がかなり違っていたが、すでに慣れた道順を間違えるほどではなく、ほどなくして冒険者ギルドに着いた。
「あれ?今日ははやいですね」
何かの書類を大量に運んでいたいつもの受付嬢が、少し驚いた様子でこちらに話しかけてきた。
「君はここにずっと居るのか?」
今まで彼女以外の受付を見たことがないのに、24時間営業だったことで大きくなった疑問を素直にぶつけた。
「冒険者ギルドに所属するものは基本的に住み込みとなりますので、ずっと居ると言われればそうですが、別にこの業務を私一人でおこなっているわけではありませんよ。休憩時と退勤時にはちゃんと交代してもらっています」
なんかちょっとだけ機嫌を損ねたか?
口を尖らせてる姿はちょっとかわい・・・
「に、西のダンジョンに行きたいんだが、詳しい場所を教えてくれるか?」
受付嬢に少し緩んだ表情をオリヴィエがめっちゃ見てきたから素早く話題を変えてさっさと本題を出す。
奴隷と主人の間にはテレキネシスのスキルでも付与されるのだろうか・・・。
「・・・ダンジョンに行かれるのですか?ダンジョンは強力な魔物が無限に湧いてきますので非常に危険ですよ」
「あ、大丈夫だ。他のメンバーは現地で集合することになっているから」
さすがに2人で行くということを伏せないと教えてくれないかもしれないので、咄嗟に嘘を吐く。
「・・・・・・そうですか。言っておきますが、ダンジョンアタックは完全に自己責任となりますので、遭難や事故、重傷を負って動けなくなるなどしても救援に向かうことは基本、出来かねますよ」
完全にバレテーラ。
「大丈夫だ。問題ない」
「・・・ふぅ、ファストのダンジョンは西門を出て街道沿いを行くとすぐ右手に少し整えた程度の小道が森へと続いています。そこを辿れば迷うことはないでしょう」
「わかった。無理はしないから心配しないでくれ」
嘘とは言わないが、嘘はバレているので心配無用と告げておく。
「約束ですよ。サトルさんはここ最近のギルド貢献度No1なんですからねっ」
可愛く忠告してくる受付嬢とあまり長々話してると、隣からのプレッシャーに耐えられなくなるので手をひらひらさせて早々に立ち去る。
宇宙に住まなくても感じられるもんなんだな。
「これか」
ダンジョンへの道程はなんの迷う要素もなくモンスターと出会うこともなかったため、東門から出て森に着くまでとそう変わらない時間でたどり着いた。
森の中にあった大岩に黒の塗料だけで扉の形に塗ったような違和感バチバチの入口?がそこにあった。
横から見ると岩の凹凸などもそのままなため、余計に塗っただけ感がすごい。
「ここに入るのか?」
すると、黒塗りの部分にオリヴィエが手を入れ、こちらに笑顔で頷いて見せてから、全身を沈めて見せた。
黒塗りの先に消えるというより、黒塗りに触れた部分がなくなるといった方が正しい表現かな。
これもよくあるやつだし、俺も自分の身に起きた感慨はあったものの、特に躊躇いもなくその中に入った。
「おー。ここがダンジョンの中・・・か?」
疑問形になってしまったのは、石造りの通路のような最古のRPGのような光景でも、薄暗い通路が続く不気味な洞穴のような雰囲気でもなく、目にしたのは普通の森の様だったからだ。
「ファストのダンジョンの浅層は森だと聞いています」
浅層は、ってことは深く潜ると森じゃなくなるのかな?
他にどんなのがあるんだろ。
草原や洞窟とかならいいけど、よくある溶岩地帯とか雪原みたいな極所タイプは嫌だな・・・。
「朝早くきたので、近くに人の気配はないですね。あ、向こうに魔物がいるようです」
導かれるままに進むと、すぐにモンスターが見えてきた。
オリヴィエソナーは優秀だぁ。
鑑定によると、ハウンド Lv1らしい。
「ハウンドですね。ゴブリンと同程度で、フォレストハウンドよりも弱い魔物です」
あ、フォレストハウンドってやっぱりゴブリンよりも強いモンスターだったのね。
戦った感じそんな気はしていたけど、鑑定でレベル以外の数値って教えてくれないから感覚で計るしかないんだよね。
「ファイヤーボール」
火魔法が当たると、ハウンドはあっさりと霧状になって消えた。
ダンジョンだと死体は残らずにゲームみたいに消えるようだ。
ハウンドを倒しました
狼の毛皮をドロップしました
はじめて倒したゴブリン以来、2回目のドロップがシステムサポートに表示された。
ドロップした狼の毛皮はさっきのハウンド1匹分・・・とは到底思えないサイズで一辺が15cm程度のものだった。
「狼の毛皮です。ハウンドが落とすものとしては標準的なものですね」
ハウンドが霧状に消えた場所に落ちた毛皮をオリヴィエが拾い、俺に見せてきた。
標準的なってことはある程度決まったものの中からのランダムドロップってことなのかな?
だとしたらますますゲームみたいな設定だな。
「いいのだと何が出るんだ?」
「ハウンドからはたしか・・・ポーションを落としたことがあると聞いたことがありますね」
顎に人差し指を当てて考えてる姿も可愛いね。
「ですが、ほとんどは牙で少し落としにくいのが毛皮、時折肉を落とすこともあるようです」
ポーションがスーパーレアで肉がレア、毛皮はノーマルで牙がコモンということか。
・・・この発想がすんなり出るということは、俺が数年前にガチャ依存症を克服したというのは勘違いだったようです。
「毛皮が落ちにくいってことは、牙よりも高く売れるのかな?」
ガチャ的思想を持つ俺からしたら当たり前すぎることを聞いてるなーとも思ったが、
「あ、いえ・・・ファストは比較的温暖な地域にありますので・・・不要な毛皮は買取自体を断られると思います・・・どちらかというと牙の方が売れますね」
いまだにバックに入れずにどうするかを俺にゆだねるかの如く俺に見せているのはそういうことか・・・。
というか・・・
「ノーマルがコモンより価値ないってどういうことやねん!!」
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